シュッペルハイト号の完成
これはローゼ騎士団が夜間に出撃した日の朝である。
プルクテスにとって、トルナシー砦の陥落はあまりにも重大な問題であった。
ジャバ王はこれに焦りを見せ、緊急議会を招集した。
今年になって、既に二回目となる。
各地区を治める貴族が向かい合うように並んで座り、奥の玉座にジャバ王が深々と座っていた。
「今一度、聞く。兵はいくら出せるか?」と重々しい口調で尋ねた。
「ニカラは剣兵二個連隊を提供できます!」
「ヘクトールは装甲騎兵隊約五百騎用意があります!」
「アリヤテは騎馬二個連隊を提供できます!」
「ワズは槍隊約千」
「サルサットは剣兵及び槍兵を三個連隊づつ提供を誓います」
それに、ジャバ王は不機嫌な顔をした。
「足りん。まだ、足りんわ」
それにサルサットが反応し前に乗り出す。
サルサット・ナデルとはヨハンネの親友、ダマスの父親である。
「殿下ッ!では民兵を招集致しましょう。それ以外、方法はありません」
「では、いくら集まるかだ?」と横に居た大臣に顔を向ける。
大臣であるワグナーは口を開いた。
「恐らくは一万、いや、二万ほどは臨時として招集出来るはず」
「それだけか?それでは、帝国との決戦にはほど遠い」
「残念ながら人が居ても、武器がありません」とアリヤテが答えた。
「それは何故だ?」
「偉大なる王よ。我らの武器庫が謎の集団に襲われ、武具を奪取されたからです。現在、犯人を調査中ですが―――――これだけの規模を考えると」
「帝国の策略か……?クズ共め……」
「王よ。決めつけるのはまだ早いかと……」とワズが汗を布で拭き取る。
「殿下。ご命令を」
「よし。足りないなら補えば良いのだ。これより、二級国民も招集の対象とする。装備は自分で買えと伝えろ。逆らった者は死罪。よいな」
「「「王の望みであれば!」」」と貴族達が口を揃えて言った。
サルサットは議会室を出た瞬間、深刻な顔をした。
そして、王宮の廊下を歩きながらつぶやく。
「いやはや、こんな事になるとは……この国はもう……終わ――――」
「ナデル卿!」
その言葉に、顔を上げる。
(聞き覚えがある声!?)
ナデルは呼ばれた方を振り返る。
すると、ずかずかと、早歩きで向かってくる将校がいた。
「ははっ。これはノイス近衛師団長殿、これは……そのですな……」と汗が吹き出てきた。
(わしは思わず、とんでもない事を口にしてしまった)
ましてや、このノイスの前では……
すると、ノイスは周りをキョロキョロと周囲を確認する素振りを見せると、サルサットに近づき、耳元でささやいた。
「プルクテスは既に滅びる運命。ナデル卿。俺の娘を連れて逃げてはくれないか?」
その言葉に少し驚いたが直ぐに何かの策略だと悟りサルサットは白を切った。
(わしの計画が筒抜けになっているのか……?)
いや、それよりこのタイミングで何を考えているのだろうか。
国難である時に上級指揮官から不適切な発言である。
(わしの口から吐かせて、証拠とするか)
「な、なんの話ですかな?わしにはさっぱり……」と目をそらした。
動揺を隠せないでいた。
ノイスが長剣の柄に右手を置いているからだ。
まるで、斬り捨てる機会を伺っているようだ。
二重顎になった首元がプルプルと震え、大きく、唾を飲む音もしてしまった。
思っている事と、身体の反応が全く違うという事は誰もが経験した事があるだろう。
「知っていますぞ。公爵である貴殿が亡命を計画している事は。しかし、まだ、この事は公表していないのです。理由はわかりますな?」
鋭い目が襲う。
ナデルには、それが脅迫のように聞こえた。
要求を誓わなければ、亡命する事を公表し死罪にしてやるぞ。と言わんばかりだ。
「ハハ…流石は近衛師団……しかし以外ですな。師団長殿から、そんな言葉が出てくるとは。てっきり、正義と規律を重んじる武人と……」
「ふっ。私とて、一人の父親。子を思うのは当たり前であろう?」
「ノイス師団長殿?ここに居ましたか」
どうやら、ノイスの部下達が捜していたようである。
「あぁすまない。今から行く。では、頼みましたぞ。俺の一人娘を」
「わかった。任せてもらおう」
ルベアか……
あのおてんば娘を拾わんとならんとは……
ルベアとは、第五近衛師団長を勤める初の女指揮官である。
ナデルは彼女には散々頭を抱えた。
まず、酒に酔うなり、下着のまま夜を徘徊し、近衛隊が出るのはまずいと、ナデルの兵で捜したり、いい歳して、はしゃぎ回ったりもした。
他にも、たかが市民同士の軽い喧嘩に、自らの手で拘束し牢にぶち込んだ。
それなら、まだよいのだが、変なところでこだわりを見せ、父親と同じく規律と法に真面目過ぎて、融通がきかない。
頑固者で有名人。
キンブレイト商会が交渉を避けたくらいだ。
(どう説得する?無理矢理連れ出す方法もあるが……これはダマスと相談すべきだか……)




