犬猿の仲 その3
捜索隊がトロールに悪戦苦闘していた時、坑道の入り口付近から、地面を駆ける音が聞こえて来た。
それに反応した隊長は青ざめる。
「新手が来たのか?!このままでは挟み撃ちにされる……」
「隊長?しかし、かなり、軽めの音です」
「確かに……誰だ?もしや、援軍か?」
援軍と推測した探索隊の予想は少し違っていた。
暗闇から、誰かが現れ、探索隊の真横を素通りしていく。
隊長は一瞬、何が起きたのかが、理解できなかった。
しかし、はっと、気がつく、その颯爽とすり抜けていった背中を目で追った。
薄暗い坑道だった為、たいまつをその方向へ向けた。
「女?!」と声が漏れる。
しかも、大人ではない。
少女だったのだ。
再び、探索隊の背後から、誰かが素通りした。
「な、今度は少年?!いや、子供か」
その二人が、トロールの前に立ち塞がる。
隊員の一人が声を言葉を投げかける。
トロールにではない。目の前にいる年端もいかない少年、少女にだ。
「おい!こら。二人とも危ない。下がっていなさい」
「ここは我々の仕事だ」
その言葉に男の子が振り返る。
「その割にはやられてんじゃんか」
「ハルト。ちゃんと、前を向いて。」
「へいへい」
「ハルト。危ない」と少女が言った途端に、トロールが、男の子にこん棒を振り下ろした。
それ、右側へダイブして避けた。
「わぁぁぁぁぁぁ。っと。いたたた。あぶねぇだろ!このデカブツやろう」とまるで、恐怖を知らないような言い方をする。
「グルルルルル。ガァァァァァ」
トロールが今度はか弱そうな少女に攻撃を仕掛ける。
しかし、それをいとも簡単にひらりと避ける。
「なんなんだ?彼らは……」
「いや!今がチャンスだ!矢を放つんだ」
突然現れた、謎の二人にトロールは気を取られていた。
その隙に、探索隊が弓で攻撃をし始める。
トロールはそれに驚き、少し後ろにのけぞった。
それを見逃さなかった少女は、トロールのすね辺りを斬りつける。
「グァアアアアア!」とよろめいたのである。
そして謎の子供が、近くに落ちいていた槍をトロールの顔面に向かって投げつける。
しかし、トロールはそれを避けた。
「下手くそです……」と少女がつぶやく。
だが、投げた槍が坑道の天井に突き刺さった時、何処からか、軋む音がした。
トロールが上を向いた瞬間、大岩が頭上に落ちてきたのである。
まさに、ピンポイントで落ちてきて、トロールは大岩に押しつぶされたのであった。
「へっへん。おいらの手柄だぜ!」
もうお分かりだろうが、この二人は、ミネルヴァとハルト
探索隊が驚いた様な顔でハルトに尋ねた。
「もしや、大岩が落ちてくる事を計算にいれて、投げたのか?」
すると、ハルトは深く頷くと胸を張って言った。
「その通り!トロールが避ける事なんかお見通しだったんだぜ!そして、あの大岩が落ちてくることもな」
「おぉ。誰かは知らんが、それは凄いな」と探索隊の隊員は顔を見合わせ、納得するかの様に頷き合った。
しかし、そこに、水をさす様に、ミネルヴァは言った。
「これだけは言っておきますがさっきのは偶然です。彼にはそんな戦闘能力はありませんので」と完全にハルトの結果に納得がいかなかった様である。
「なんで、そうおいらには冷たいんだ?」
「貴方が、邪魔だからです」
「おいらはミネルヴァのいつ邪魔したんだよ?!」
「私にではありません!」と痴話喧嘩を始めた。
いつもの事だろうが、探索隊はどうしたら、良いのか分からず、とりあえず、その痴話喧嘩が終わるのを待つ事にしたのであった。




