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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅰ  作者: 飯塚ヒロアキ
第二章 アレー・ソリスの登場
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小さな泥棒 その5

話はヨハンネ達に戻る。


ヨハンネは例の男の子で父親と話をつけていた。


その話し声を壁越しにあの問題のハルトが聞き耳を立てて、中の様子を窺っていた。


ミネルヴァのほうはいつも通り、直立不動で、主が来るのを待っている。


彼女はハルトが気に触るのか彼を冷血な目で睨んだ。


(――――機会さえあれば、排除は可能……しかし、ご主人様が悲しむかもしれない。何か良い方法が見つかればよいのだけど。今は我慢……)


そんな事を考えていると、ハルトが冷や汗を垂らして、急にそわそわとしだした。


「おいおい。おいら、やばくなってないか?説得出来てないじゃんかよ………なんだよ。その重々しい会話は………」


ミネルヴァはハルトが焦る会話が気になり、確認する為、目を瞑り、そのままの常態で中で話される内容を把握にかかる。


彼女は嗅覚、聴覚、視覚全てにおいて卓越しているので、遠くの会話も近くで話しているかのような声量で聞き取れることが出来る。


しかし、欠点として、目を瞑って集中しなければならないので戦闘中は使えない。


ミネルヴァは相槌を打ち、ニヤリと口端を上げる。


「……どうやらハルトの運命は決まったようですね」と嬉しそうな声音でそう言った。


「そ、そんな……」


部屋の中での会話が徐々に近づいて来た。


ハルトは逃亡しようとしたが、ミネルヴァに首袖を掴まれる。


そして扉がゆっくりと不気味な音をたてながら開かれた。


「ならん!!盗賊など信用できん。そのような者はわしは許さん!」


「ですから父上、その子供は僕が責任を持って―――」


「ダメだ!この前のディア剣闘技場のことを忘れたとは言わさんぞ」


ヨハンネの胸を人差し指で何度か突く。


ディア剣闘技場で反乱が起きた。


これはプルクテス国初めての内乱で、奴隷たちの中には、後に続こうという動きまであった。


それがグレイゴスには不安要素となっていたのだ。


「いいか、わしは、下級層が恐ろしくでならん。なにを――――」


話が途切れ、グレイゴスがある一点を凝視する。


その目線をヨハンネが追うと、その先にはハルトが居た。


ヨハンネは焦った。


(しまった!服装が奴隷っぽい!!)


「ほぉ。お前がミネルヴァの弟子になりたいと言ったのは………」と睨みつけるようにする。


それにハルトは思わず、下を向いてしまった。


口籠ってはい……そうですと言う。


グレイゴスは最近、機嫌が悪かった。


帝国のおかげで奴隷達が反抗的になり、各地で暴動が発生。


グレイゴスの商隊キャラバンもその者達に襲われ大損害。


ゆっくりと、床をきしませながら、恐い顔をしハルトに近く。


右手をハルトの頭の上に持ってきた。


ミネルヴァは自分の感覚で考えるど、ハルトはグレイゴスに頭を握り潰されると思っていた。


ヨハンネの方は右手で頭を握り、持ち上げると、そのまま外に放り出すのではないかと、判断していた。


だが、予想外の展開になる。


ハルトの頭に手をポンと置くと、さっきまでの東洋で言う鬼の形相から一変、どこにでもいる、孫を可愛がるお爺さんのように、ニコッとした。


「おーなんと可愛い子だ。まるで女の子ではないか。ガハハハハ!!。昔のヨハンネを思い出すな」


「は、はぁ……。良かった。一時はどうなるかと思った……」


ヨハンネはそう胸を撫で下ろすと、ミネルヴァの姿が目に入る。


なんだろうか、凄く残念そうな感じに見える。


グレイゴスはよしよしと撫でると、左手を懐に入れた。


(何!?油断させておいての斬殺か!)


ヨハンネは再び焦り始める。


ミネルヴァは何故か期待しているような顔で見入るようにしている。


恐らく、「流石です!グレイゴス様」とか、思っているのだろう。


ハルトも同じく、黙っていたが、冷や汗が大量に出ていた。


(――――――やばい。あれは多分逃がさないように、固定したんだ)


商人は盗賊などの襲撃に備えて、懐に短剣を入れている事がある。


グレイゴスも最近、短剣を装備していた。


何かをゴソゴソとすると、左手を懐から出した。


しかし、短剣ではなく黒い布袋だった。


「おじさんが、君にこれをあげよう。新しい服を買うといい」と黒い袋から、金貨を取り出し、ハルトに渡した。


「えっ?あ、ありがとうございます。…えと、旦那様?」


挙動不審になりながらもハルトはその金貨を受け取った。


「ヨハンネ!」


「あ、はい!」といきなり言われたので、足を揃えて、姿勢を正した。


「この子を認めよう。それとわしは二、三日家を出るから、留守を頼むぞ」


そう言ってグレイゴスは歩き始めると、ヨハンネも後を追って横に並び雑談をする。


ミネルヴァはハルトを監視している為、ついては来なかった。


ヨハンネが父に尋ねる。


「で、今回はどちらに向かわれるのですか?」


「ん?ヨダ男爵の所だ」


「へー最近、貴族との商談が多いですね。父上?」


「それだけ、人気になったという事だ。わしは倉庫で在庫整理してから、ここを発つ。ヨハンネはあの子供と一緒に服を買いに行ってやりなさい」


「はい。わかった」と言うと足を止めて、父親の背中を見つめる。


(父上の背中ってあんなに小さかったかな?それとも、僕が大きくなった証拠なのだろうか…)


誰かに背中を突かれた。


「なぁ兄ちゃん。どうする?これ」とハルトが手のひらをヨハンネの前に出した。


そこには、金貨三枚もあった。


プルクではなく、金貨。


(かなり買えるな……)


「とりあえず、服を買いに行こう」


「本当か!やった。マジこの服そろそろやばいと思ってたんだ。臭ってみる?」


それにヨハンネは遠慮する。


「ご主人様。本当にこの子供を飼うつもりですか?」と彼を指を差す。


「おいらはペットか!」とツッコミを入れた。


「仲良くね。あれ?そう言えば、君の名前をまだ聞いてなかったっけ?」


ハルトは待ってましたと言わんばかりに胸を張り、自分に親指を立てて、話そうとした。


「おいらの名前は――」


「ハルトです」と横槍でミネルヴァが答えた。


「なんで、お前が言うんだよ!」


「私が言うと何か問題でもありますか?」と感情のない目で見下ろす。


「いや。ないけどさぁ。自分の名前くらい……言わせてくれよ」


「ハルトはご主人様と話してはいけません。汚い言葉使いが移ったら困ります」


「なやと!この剛力女」


(犬猿の仲になりそう……この先が思いやられる……)


「まっとりあえず、ハルト!よろしくね」とヨハンネが手を差し出し、握手を求めた。


それにハルトが応え、握手した。


「兄ちゃん!よろしく」と笑顔で言った。


ミネルヴァがハルトの手を叩き落とす。パチンと痛そうな音がした。


「痛てッ!何するんだクソ」


「ハルト?手を洗ってませんね。汚い手でご主人様に触らないで下さい」


「だからって叩かなくてもいいだろうが!」


今度は、頬をビンタする。


顔も洗っていない!とミネルヴァはそう言った。


(…もしかして嫉妬しているのかな……?)

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