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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅰ  作者: 飯塚ヒロアキ
第二章 アレー・ソリスの登場
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小さな泥棒 その3

「あーでもさぁ。僕はそんなに困ってないし、怒ってもないから、許してあげて」


「私は許しません。グレイゴス様とご主人様、その他、沢山の人が丹念込めて作ったぶどうです。それをこのような者に盗られるなど、私には我慢出来ません」


ミネルヴァの手に持っている剣に力が入る。


「殺したければ、さっさと殺せやい!剛力女が」


「いい度胸です。それは認めます」


「うるせぇ!奴隷風情が」


「ご主人様、離れて居て下さい。返り血を浴びますので」と目の色が変わり、剣を振り上げる。


その子供は覚悟が出来ていたのか目を深くつむった。


ヨハンネはとっさに、ミネルヴァの手首を掴む。


「ダメ、ダメ、ダメッ!!!まだ子供だよ。善悪がわからないんだよ。それに飢えで仕方なしに盗んだかもしれないだろ」


「例え、そうだったとしても――――」


「ミネルヴァ!頼む。今回だけは見逃してあげて欲しい」


ミネルヴァはヨハンネの真剣な眼差しに負けたのか目線を下ろして言った。


「……わかりました。ご主人様がそう申されるのなら……」


ミネルヴァの殺気が消えたので、ヨハンネは安堵し彼女の手首を離した。


彼女は無言のまま剣を鞘に納める。


ヨハンネが少年を見下ろす。


「さぁ、逃げるんだ。彼女の気が変わらない内に」


少年が、ヨハンネを見上げながら、驚いたような顔で見つめる。


「お、おいらを見逃してくれるのか?」


「あぁ」


「本当に?」


不思議そうな顔で、ヨハンネに疑問する


無理もないだろう。


プルクテスの法律では、犯罪人、つまり窃盗者はその場で、殺しても良いとされている。


だから、少年は捕まった時点で殺されると思い込んでいた。


現実に、ほとんどか、その場で殺されている。


それを見てきたから、少年も諦めていたのである。


ヨハンネも捕まった人の末路を見た事がある。


プルクテス都市守備隊に身柄を拘束された者はその場で殺されるか、中央区にある広場で斬首される。


取り調べも事実確認もしない。


遊び感覚で、処刑をやっているのだ。


その度に広場の床が血で染まる。


時には、永遠に地上を見れなくなるような採掘場に連れて行かれる。


運命は二つに一つ。


そんな光景を見てきたヨハンネは、目の前にいる少年を同じ運命に導きたくなかったし、殺したくもなかった。


だから、ヨハンネにとって、殺すという概念はまったくない。


むしろ、救ってやりたいという気持ちで一杯だった。


それが、余計なお世話でも。


ヨハンネが深く瞼を閉じてから少年へ告げる。


「そうだよ。ミネルヴァは気が短い。彼女が本気を出せば、僕には止める事は出来ない。だから、逃げろ」


少年は下を向くと何かを考え始めた。


ヨハンネには恐怖のあまりに足が動かなくなったのかと思っていたが、考えもしなかった答えが返って来た。


「いや。おいらは決めたッ!!!」といきなり立ち上がると、ヨハンネとの距離を詰めた。


「へ?」と情けないような気が抜けた声を出す。


「そうですか。ここで死にたいと決めたのですね。なら私が手伝ってあげます」と柄に手を掛けた。


「ちげぇ―――よ!おいらは今日から兄ちゃんの子分になる」


「え?こぶん」と目が点になる。


「普通ならおいらはここで死ぬか採掘場に送られるはずだった。でも、あんちゃんは違う。おいらを見逃してくれた。命を救ってくれた。おいら、こんな優しくされたのは初めてなんだ」


「だからって……」と戸惑う。


しかし、少年は首を何度も横に振った。


「おいらはもう決めた!」


(頑固だ……これはこれで、困った事になったなぁ)


ヨハンネはグレイゴスにまず、何と説明するかを考えていた。


事実を言ったら、恐らく、壁に掛けてある宝剣で成敗されるだろう。


(“死を持って償うが良い!愚か者”みたいな感じになるな。多分)


「ミネルヴァ……僕はどうしたらいいかな?」


「とりあえず、始末しましよう」


「それはダメ」


ミネルヴァは無表情ではあったが、残念そうな素振りをした。


「なら、おいらは師弟にしたら?」


「え、誰の………ってなるほど!ミネルヴァの師弟にすれば良いんだ」と自己解釈でヨハンネは手を叩いた。


「いや。ちげーよ。兄ちゃんの師弟―――」


ヨハンネはその言葉を完全にスルーし、ミネルヴァの肩をポンと叩いた。


「ミネルヴァ、あとは任せたよ」


「はぃ……?おっしゃられている意味がわかりませんが………」


ミネルヴァがそうつぶやくとハルトへ視線を向けると察したようだ。


「……ご主人様は最低ですね。それは私には対しての嫌がらせですか?もしや、さっきの稽古を根に持っているのでは?」


ヨハンネは少し悪戯しようと考えたのが見抜かれていた。


図星だった。


動揺を見せるヨハンネは逃げるように言った。


「ま、まさか。アハハハ―――――そんな訳ないよ。あっそうだ。僕は父上にこの事を話しないといけないから、じゃあねッ!!」と走り出す。


残された二人は気不味い空気が流れる。

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