ワインを輸送せよ! その4
「なら、安心しました。では、これまでやって来た悪行をあの世で悔やんでください」と剣の柄に力が入る。
「お、俺には小さい子供が居るんだ!わかるだろ?う、家で俺の帰りを待ってる。俺だってやりたくて、やってんじゃあねぇ。生きるにはこれしか無いんだ。頼む見逃してくれ。もう足を洗う。頼む」
その真剣な眼差しに負けたのか、彼女は剣を鞘に納めた。
「貴方が変わる事を願います」と言い残し、立ち去ろうとした。
が、彼女が後ろ姿を見せた瞬間、頭はにかっと薄く黄ばんだ歯を見せた。
「ブハハハハハ!詰めが甘いぜ。死ねぇぇぇぇぇ」と近くに落ちてあった鉄斧を振り上げた。
しかし、彼女は直ぐさま、それに反応し、剣を使い、頭上で鉄斧を食い止める。
頭は追い込むように受け止められた鉄斧に全体重を掛けた。
だが、一向に動かない。
力を入れても、びくともしない。
「残念です。ご主人様の脅威は排除します」
「てめぇ!なんで動かん!この野朗」
頭は今の状況に違和感を見つけた。
それは、彼女が右腕だけで、防いでいるからである。
「ありえねぇ。なんなんだよ。お前は」
ミネルヴァは何も答えず、右から左へと振り返るように回転し、そのまま、頭の露出した腹部をえぐる。
ずしゃんと鈍い音がした。
「あ、ありえねぇ……」と後ろへ、固まったまま倒れた。
闘いは終わった。
彼女は完全勝利したのである。
再び、剣を鞘に納めると、ヨハンネが逃げていった方向へ、歩き始める。
近くに、主人を失った馬が居た。
「これから、ご主人様の所に行きます」と言うと馬の方から、膝を落とし、座り込む。
乗りやすいようにしたのだろうか。
それにまたがると、馬は立ち上がり、駆け出した。
数分後、ヨハンネの後ろから馬の蹄の音が近づいてくるのがわかった。
グレイゴスはまた、焦り始める。
「新手か?!逃げるぞヨハンネ」と鞭を打とうとするとそれをヨハンネが口で止めた。
「待ってください!父上。彼女です」
「ミネルヴァが?」と振り向く。
確かに彼女一人だけだ。
グレイゴスは驚いた。
(こんな短時間で、追いついて来たのか?!)
「グレイゴス様、ご主人様。ただいま、戻りました」
「彼らは?」
「今後もご主人様の脅威になると思い、排除しました」
「そうか。出来れば、殺したくなかったけど……他の人が悲しい思いをするよりは良いんだ」と自分に言い聞かせるように言った。
「にしてもだ。助かった。感謝するぞ!」と思い空気を明るくした。
「では、行きましょう!父上、ミネルヴァ」
「うむ!」とグレイゴスは機嫌良く言った。
ミネルヴァの方は声は出さなかったが、大きく頷いた。
こうして、キンブレイト商会の極上ワインはニカラの館に無事に届いたのである。
ヨハンネの思惑通り、ミネルヴァが壊滅させた、盗賊団の噂は各地に広まった。
黒髪の少女、極悪の盗賊団を皆殺しにする。と吟遊詩人を通じて、伝えられた。
その後、ニカラの地域では、盗賊団が一人も居なくなったのである。
ある街でレンガの壁に貼られた紙を読む、二人の少女が居た。
「へ〜黒髪の女かぁ。強いのか?」
「さぁ。どうだろうね。盗賊って雑魚だからね」
「一度、闘ってみてぇな」と余裕の笑みを見せたのであった。




