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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅰ  作者: 飯塚ヒロアキ
第一章 黒髪の少女との出会い
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ワインを輸送せよ! その2(挿絵あり)

ヨハンネは邸宅に帰ると直ぐにミネルヴァの所へ行った。と言っとも、彼女はヨハンネの部屋に居るので、自分の部屋に向かったと言うべきだろう。


ガチャン!


ヨハンネは部屋の扉を勢いよく開けた。


「おかえりなさいませ。ご主人様」


彼女は、礼儀正しく一礼した。


ヨハンネはミネルヴァに詰め寄った。


「ミネルヴァ!お願いがあるんだ」


「と、言うと?」


ヨハンネは少し、じらしてみた。


「何だと思う?」と少しニヤついた。


ミネルヴァは思いついたような素振りをした。


「暗殺ですか?それとも、盗賊の殲滅ですか」


「いや……違うかな。近いようにも思えるけど」


「では何なんですか?」と無感情な感じで、答えを待っていた。


「商品の護衛」


「わかりました。ご主人様の願いなら、必ず守り切ります」


「ありがとう!じゃあ明日だからよろしくね」






次の日、キンブレイト商会のワインを乗せた荷馬車が、舗装されたレンガ道を移動していた。


その隣には武装したミネルヴァがいた。


先頭はヨハンネが行き、荷馬車を操るのはグレイゴスだった。


二人とも、一応、皮の鎧を着ていた。


進み始めて、直ぐに林に差し掛かった。


「ここを進むのは危険すぎる。ヨハンネ!遠回りするぞ」と前を行くヨハンネに言った。


直ぐに「わかったよ。父上」と言い返し、手綱を右に引っ張る。


馬は方向転換をした。


ヨハンネはこうみえても、馬の扱いには慣れている。


グレイゴスの荷馬車の後をミネルヴァがテクテクと歩いていたのを気に掛けたのか、振り向く。


「その装備で走るのは辛いだろ?荷馬車に乗ってもいいのだぞ」


「いいえ。構いません」


「いや。しかしだなー」


「ハハハハ。父上?ミネルヴァは頑固だから、無意味だよ。僕だって既に十回くらい言ってます」


どうやら、ヨハンネに会話が聞えていたようである。


「そうなのか。なら仕方ないか」と再び前と向き、鞭を打つ。


遠回りをし、林を後にした一行は、呑気に馬を歩かせていた。


(今日は天気もいい。盗賊の出る様な雰囲気でもない。)

今回は何とかいけそうだ。とグレイゴスは心で思った。


しかし、その考えは浅はかなものだった。


ミネルヴァが何かに勘付き、勢い良く、後ろを振り返る。


その眼光の先には、数人が馬を走らせていた。


どうやら、荷馬車を追撃していた様である。


かなり距離があった。


しかし、ミネルヴァにはわかる。


「ご主人様!グレイゴス様!盗賊です」


「何、これはいかん!!ヨハンネ先に行く」とグレイゴスは馬に強く鞭を打つ。


それに馬は、速力を上げた。


「わかった!ミネルヴァ」と言い、彼女の近く寄った。


ヨハンネはミネルヴァが見つめる先を同じく目を細めたが、砂埃しか見えない。


すかさず、彼女に聞く。


「数は?」


「恐らく、二十人」


「出来る?ダメなら無理しなくてもいいよ」


「いいえ。余裕です。ご主人様は先に行ってて下さい」


もう一度、確認すると、ヨハンネは決めたのか、強く言った。


「……わかった。ならここは任せたよ」


「お任せを」と言うと同時に、剣をゆっくりと抜き、仁王立ちする。


ヨハンネは馬を走らせながら、一度振り返った。


(彼女なら大丈夫。あれだけ、強いんだ。)と自分に言い聞かせて、駆け抜ける。


盗賊が見える位置まで来た。


「騎馬が十五。別の方からも騎馬が五。ん?二人乗りしている?となると全部で三十……行ける」


挿絵(By みてみん)

※やさぐれ様提供挿絵


彼女の察知能力には驚かされる。


「隊長!全方に女が一人います」


「女だぁ?良いじゃねぇか。遊んでやれや」


「了解!俺について来い」とバンダナをした男がさらに馬の速力を上げた。


それに何人かの部下が続く。


後ろには、ボウガンを持っている射手が乗っていた。


それを彼女に向けると狙いを定めて同時に放った。


高い音をたてながら、真っ直ぐと飛んでいく。


ミネルヴァはその音を聞き分け、身構える。


ステップし、華麗に避けて見せた。


「おい!当たってねぇぞ。しっかり狙えや」


「俺がやる」と言う、自身ありげな男がボウガンを放った。

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