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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅰ  作者: 飯塚ヒロアキ
第一章 黒髪の少女との出会い
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南部連合

ヨハンネは難しい顔をしながら闘技場の出口に向かって歩いて行った。


そんな姿をダマスが気にかける。


(難しい顔をしやがって。何か悩みでもあるのか?訊いてみるか)


「なぁ?どうした」


「あっ、うん。何でも無いよ……」と一言だけ返事が返って来る。


ダマスは彼が何を考えているか、ようやくわかりひらめいた。


指をパチリと鳴らし、ヨハンネの肩を叩いた。


「なぁ見に行くか?」


「え?何を」


「決まってるだろ。彼女にさ」


それにヨハンネは笑みを見せ、嬉しそうにうなずいた。


「丁度、ここの通路から地下牢に行く階段があるんだ」とダマスが親指を立てる。


二人はその方角に向きを変えて歩き始めた。


すると、目の前から鎖につながれてた奴隷が横切って行った。


彼らは人狩りで捕まったのだろうか。


身体を震わせて、もう諦めたかのように絶望したような表情のまま猫背で歩いている。


ヨハンネは奴隷と目が合わないように下を向いた。


ふと思ったのは可哀想という感情。


そして自分があんな風になりたくないという感情も湧き出てた。


彼を恐怖心が襲った。


自分自身、奴隷にされて、こき使われるとしたら――――


奴隷の仕事は複数に別れる。


重労働である鉱山採掘の作業。


貴族の使用人。


地主の農奴。


そして剣闘士。


鉱山採掘は危険で、落盤や、地下から噴出す硫黄などの猛毒で長生きは出来ない。


貴族の使用人は大半が女性で、美人でなければ買取ってもらえない。


そして最終的に老いれば、汚れた布切れのように棄てられる。


次に地主の農奴は、案外長生きは出来る。


しかし、死ぬまで永遠に畑と向き合う事になる。


でも、多少の自由が許されているのが唯一の救いだどう。


土地を持つ地主は、商品を傷つける事はあまりしない。


理由は生産性を落としてしまうからである。


しっかりと食事を与え、寝床を用意してもらえる。


誰もが行きたがり、誰もが買ってもらいたがる。


剣闘士はチャンスでもあり、地獄でもある。


長生きは出来ないかもしれないが、勝ち続ければ有名になり、何処かの国の騎士や傭兵として雇われる事がある。


そうなれば、ほぼ、自由の身だ。


前にも、ゲルマンと言う大男が闘技で連戦連勝し、少し離れたメソドリア国に傭兵として雇われ、この地獄から堂々と出る事が出来ている。





ヨハンネとダマスは地下牢に続く薄暗い階段を降りて行った。


風が通り抜ける音がし、靴音が壁を伝って響く。


ダマスが壁に掛かった蝋燭台を手に取る。


地下に行くにつれ埃っぽくて異臭がしてくる。


(なんだろう…嗅いだ事のない臭い…)


ヨハンネはたまらず、鼻を押えた。


目の前に無数の牢屋があった。


少し歳を取った衛兵がヨハンネとダマスの姿に気付くとニコニコしながら歩み寄る。


「これは、これはダマスのお坊ちゃん。今日はこんな所へどうされましたかな?」とゴマをするような仕草をした。


この衛兵は腕に黒い腕章からして看守官という役職のようだ。


看守官とは牢に入れられた者、ここでは奴隷を監視し食事を与える係りである。


「――――極東の魔王を見物に来た」


「おぉそうでしたか。ではこちらに。ちょうど良いタイミングでしたよ。極東の魔王は今、練習場で稽古中なんです」


剣闘士は闘技が無い時には闘う為の訓練をさせられる。


なにしろここに送られて来る奴隷の大半が武器を扱えないど素人ばかりだからだ。


武器が使えなければ話にならない。


観客も呆れて帰ってしまうだろう。


彼らが求めるのはどちらが勝つかわからない手に汗握る緊迫感と躍動感なのである。




長い通路を抜けた所に練習場が設備されていた。


そして、彼女の姿があり、6人相手に稽古していた。


服装は簡易な露出度の高い服だった。


少女にしては、少し恥ずかしいとは思うが彼女はなんとも思っていないようだ。


お構いなしに動き回る。


持っている武器は研がれていない模造品だ。


その理由は、単純。


反乱を起こさせない為。


殺傷能力の高い武器は持たせるのを最小限に抑えている。


ヨハンネの見つめる先で、彼女は相手の槍を弾き、剣を受け流していた。


足技も使って、相手のバランスを奪う。


脚力も凄い。


相手が面白いほど転がるのだ。


暇な看守官らがそれを見て、拍手する。


数人かかりで、彼女を壁まで追い込もうとすれば、壁に向かって走り、相手の頭上を飛び越えて背後に回る。


それは、まるでサーカス。


彼女が振り下ろした剣が後頭部にのめり込み、昏倒させる。


着地を狙った相手には裏蹴りをくらわせた。


彼女はどうやら格闘技術が高いように見える。


ヨハンネは無言のままで鉄格子越しで見える彼女の姿を見入っていた。


(彼女はどうしてあんなに無表情で闘えるのだろうか?)


闘う時、一体、何を思っているのか?


辛くはないのか?


悲しくはないのか?とヨハンネは口にせずに視線の先にいる彼女へ問いかける。


そんな想いが届いたのか、その彼女がヨハンネに気が付いた。


すると、動きが少し鈍り、闘いながら彼の方をチラチラと見始めたのである。


(なんかさっきから目が合う様な気がするけど……)

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