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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅰ  作者: 飯塚ヒロアキ
第一章 黒髪の少女との出会い
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闘技場の裏

空は雲一つ無く、太陽の光がギラギラと闘技場の土を焼いていた。


今日の闘技はヨハンネが助けようとした女剣闘士と新しく入って来た、16歳前後の少年剣闘士とペアで魔獣と闘うという内容だった。


この観客席にヨハンネとダマスの姿があった。


ヨハンネは深刻な顔をして息をのむ。


少し前にグレイゴスがダマスの父親ナデルと彼女の事で交渉した結果、一週間は使わせてくれと言われたのだ。


どうやら、彼女と同じくらい強い奴隷を三日前に競り落としたらしく、代わりがいるし、親友の仲だからと彼女を譲ってくれるそうだ。


でもあと一週間はこの闘技を続けないといけない。


その間に死んだらどうにもならない。


ヨハンネは不安を隠せないでいた。


(死んでしまったらどうしよう………)


―――――――遂に闘技が始まった。


司会者の合図と共に剣闘士専用のゲートが重々しく開き、歓声が闘技場を包む。


2人の剣闘士が斧を手に持って、闘技場の中央へ進み出す。


女剣闘士は悠々と歩き、少年剣闘士は辺りを見渡しながら、腰を低く歩く。


まるで、強気な姉と弱気な弟のようにみえた。


今日の宣伝の貼り紙では、魔獣としか書いておらず、何が出て来るかは当日の闘技のお楽しみ。


それが、客寄せとなっている。


「さぁさぁ、皆様!今日は剣闘士が新しく入りました!このシェルマはこう見えても元帝国兵です」


(またなんで、帝国兵がこんな所にいるのだろうか?)


「今日も冷血な目の極東の魔王は、その美しさで我々を魅了しております。どちらも勇猛な戦士ですよ」


少年剣闘士は背を縮こませて怯えていた。


彼女はいつも通り、無言の仁王立ち。


我に恐れる者無しの様な雰囲気だった。


しかし、2人とも何が相手か聞かされていないのに。


彼女は何が来ようと勝てる自信があるのだろうか?


観客が騒ぎ始める。


「頑張れよ――――っ!!!」


「いいぞ!今日も八つ裂きにしてやれぃ―――!」


「黒髪の足引っ張るなじゃあねぇーぞ!クソガキ」


「ロランドル人は喰われちまえ!」と色々な野次か飛び交う。


その中で少年剣闘士は不人気だ。


無理もない。


元帝国兵と言う事はロランドル人。


彼らロランドル人は平均的に学問に優れており、商業面は大の得意である。


しかし、それ故に、知識の乏しい者を見下す事が好きな彼らはプルクテスの人々を見るだけで、汚い物を見る様な目つきをする。


プルクテス人の多くが劣等感にさいなまれていた。


以前に、帝国とプルクテス国境において、一触即発の状態が起きた。


それは、帝国軍将校がプルクテス人を盗賊と間違えて斬殺してしまった事が発端である。


あわや、帝国と戦争になりかけたが、何とか政治面において回避された。


しかし、無実の少年を殺した事はプルクテス人にとって、根強く残っており、今でも恨んでいる人は多い。


彼らに罵声を浴びせるには、こういう場が一番、いいだろう。


「――――今日の魔獣は近くの森で生息する厄介なブルーウルフです。数は15匹を用意しました。さぁ勝者は誰か?では、開門です!」


鉄の大きな門が内側に開いた瞬間に蒼い毛並みをした狼が飛び出して来た。


普通のサイズよりははるかに大きいブルーウルフは目が赤く光る。


こいつらはハンターと呼ばれる。


爪と歯がとても鋭く発達し、簡単に肉を削ぎ落とす事が出来る。


顎の力は凄まじく、何でも噛み砕く事が可能。


女剣闘士に数匹がいきなり飛び掛かった。


それをダンスのステップを踏むように難なく避けていた。


次に手に持っている斧を自在に扱い、ブルーウルフを地面に叩きつけていく。


その時に血しぶきを浴びようが彼女は気にしない。


まさに冷血だった。


足も器用に使い蹴り飛ばす。


数頭のブルーウルフは泡を吹き痙攣していた。


少年剣闘士の方はというと、さすが元帝国兵だった。


彼も立派に闘って………


「嫌だ!こんな所で、こんな所で死にたく無い!来るなぁああああっ」と半泣き。


それを見て、観客らがあざ笑い馬鹿にする。


(そんなに、愉快に思えるのだろうか……?僕には思えない)


そんな時、少年はブルーウルフに後ろへ回り込まれた。


噛みつかれそうになった時、彼女が庇うように割り込み、口を開けたブルーウルフに斧で脳天に振り落す。


気づけばこれが最後の1匹だった。


「なんで?…自分を助けたのですか…?」と女剣闘士に少年が疑問の顔をして聞く。


「味方の時は守り、敵の時は殺す。ただそれだけです」


「………」


あまりにも、感情もない物言い方に少年剣闘士は言葉を失った。


そして、間接的に敵であれば容赦しないと言われた。


観客は立ち上がり、歓声は天をつくほど高い。


鼓膜を震わせる。


2人の剣闘士は今日の演目を終え、入ってきた鉄門へゆっくりと向った。


(朝の部はこれで終わりか……)


「ふー何とか生き抜いてくれたよ…」とヨハンネは席にどっと座り込み、止めていた息を吐いた。


闘技中、彼は息するのも忘れていたのである。


「それよりさぁ~お前も物好きだよな。あんな、冷血な女を欲しがるとか?」


「え?あぁ…僕は父譲りの物欲主義者だからね。そして、最大の夢は最強の傭兵軍団を結成するのさ。ガハハハハ!!!」と悪役のような笑方をした。


ヨハンネの夢は世界中の本や書物を集めまわることで、傭兵など興味なかった。


彼は嘘をついた。


「お前は将来、暴君になるな」


ダマスは呆れて頬杖をついた。


それにヨハンネは苦笑いで誤魔化した。


そんな中で、闘技を進める司会人に耳打ちする男が現れた。

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