パートナー
あるところに、一つの王国がありました。そこの国王は昨年、幼馴染である大臣の一人娘と結婚しました。しかし、二人は同じ部屋で暮らすわけでもなく、国王の方は別の女性と出かけてばかりいるわ、大臣の一人娘(現在の王妃)の方は国王に全く会いに行こうとしないわで、ちっとも夫婦らしくないのです。そのことが、王妃の世話係にとっては面白くありません。今日もまた、国王の良くない情報をつかんでは王妃のところへ知らせに行きます。
「王妃様っ!国王様は出張と言いつつ、実は北の伯爵様のご令嬢と二人きりで高原に出かけたそうですわっ!!!」
しかし、肝心の王妃の反応は
「へえ、そうなの」
と、つれないものでした。そこで世話係は王妃に対して、国王の一日の怠けっぷりを延々と語り続けました。一日中仕事をほったらかして遊びまわっていること。そしてその際にはいつも、何人かの女性を連れて行っていること。それでも王妃はちっとも怒る様子がありません。しまいには世話係は疲れ果ててしまい、その日は部屋に帰って休むことにしました。
それでも納得がいかなかった世話係は、次の日もその次の日も国王の一日の様子を王妃に報告しに行きました。
「王妃様っ!!!国王様は本日、公務をすっぽかして西の男爵様の妹君の誕生日パーティーに行っているそうですわっ!!!」
「あら、それで朝から姿を見かけなかったのね」
◆◆◆
「王妃様っ!国王様は本日、森へ狩りに行くのに、東の侯爵様の侍女たちを大量に連れて行ったそうですわっ!!!」
「あら、ついでに夕食のおかずも捕ってきてくれるとありがたいわね」
◆◆◆
「王妃様っ!国王様は本日、査察を言い訳に、南の国境にある村々でパーティーを開いているそうですわっ!それも本日で三日連続っ!!!」
「あら、あそこの果物は絶品だから、お土産にいくつか持ってきてくれないかしらねぇ」
◆◆◆
今日もまた、世話係は王妃の部屋のドアを勢いよく開けます。しかし、今日はいつもと違って世話係の顔には満面の笑みが浮かんでいました。
「王妃様っ♪本日の国王様は周りに女性も連れず、部屋にこもって真面目に仕事に取り組んでいるそうですわっ♪♪♪」
それを聞いた王妃は初めて、世話係の話している内容に対して関心を抱いたように世話係へと向き直りました。
「……それは本当?」
「ええ、私が信頼している者から聞いた情報ですから」
「今日はあの人は、城の自室にいるんだったわね?」
「はい、そうでございます」
その返事を聞いた王妃はすぐさま支度をすませ、驚いて目を丸くしている世話係に向かって言いました。
「―――さあ、あの人に会いに行くわよ。あなたも付いていらっしゃい」
◆◆◆
こうして、王妃は結婚以来初めて国王に自分から会いに行くことになりました。王妃は国王の部屋の前まで迷わず向かうと、そのドアを押しのけるようにして開け、勝手知ったるとばかりに、仕事中の国王の机につかつかと歩み寄って行きました。それもそのはず、大臣の一人娘であり国王の幼馴染でもある王妃は、結婚前にはしょっちゅうこの部屋に入ったことがあるのです。
国王はいきなり入ってきた王妃に対して顔をしかめると、不機嫌な口調で言い放ちました。
「―――何しに来た」
その口調に、世話係はすっかり縮こまってしまいましたが、王妃は気にした様子もなく突然国王の額に自分の額を押しつけました。
「……やっぱり熱があるわね」
「っ!!!別に、大したことは―――」
「おかしいと思ったのよね、あなたが真面目に仕事をしてるなんて……しかも、女の子抜きで」
「うるさい……というより、その言い方だとまるで俺が救いようのないダメ人間みたいじゃないか」
「あら良かったわ。それ以外の意味に聞こえていたら、本気で頭の心配をしなくちゃならないところだったもの」
「ええい、そんなに俺をいたぶって楽しいかっ!」
「―――ええ、楽しいわよ。とっても」
そう言ってほほ笑んだ王妃の顔は、まるで木漏れ日のように優しげだった。
「だって最近、こういったやり取りを全くしていなかったんだもの」
「……こっちにだって、いろいろと事情があるんだよ。政治的な思惑とか、国王としての威厳とか」
「だからと言って、体を壊すまで無理をすることはないじゃない。はい、あなたは本日一日風邪のため全ての仕事をお休みにしますっ!私が今決めましたっ!!!」
「ええいっ、勝手に決めるな!大体お前は昔からいつもいつも―――」
「はいはい、良いから黙って休みなさい。王国一の美女の看病を受けられるんだから、あなたは世界一の幸せ者ね」
「……世界一は言い過ぎだろう」
「あら『王国一の美女』のところは否定しないのね、嬉しいわ」
そこまで聞いた世話係は、物音をたてないようにそっと部屋から出ました。そしてこれからのことを考え始めました。まずは大臣たちに本日はもう国王は仕事が出来ないという事を伝えて、次に二人は朝食がまだのはずなのでその準備もしなければなりません。
―――そして一番大事なことは、うっかりあの部屋に入らないように他の使用人たちにしっかりと良い含めておくこと
世話係はそれだけのことを考えると、城の廊下を足早に去って行きました。本日もまた、忙しくなりそうです。
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