7−6 ヒビだらけの家族
その晩、薫は至って普通にもてなされた。
夕暮れ過ぎまで白水と世間話をし、精進料理に舌鼓を打ち、風呂も一番風呂を頂いて、客間に布団まで用意してもらうなど、まるでたまに顔を合わせる親戚の家にでも遊びに来たのかと思うような至れり尽くせりであった。ユリアンが居ない事を含めて、薫は羽を伸ばせるこの雪町家での持てなしに満足していた。
そして草木も眠る……と言うには少々早い午後十一時。急遽借りた女性物の大きめの浴衣を寝間着代わりにして、薫は客間から縁側に出て庭を眺めていた。
さっぱりとした枯山水の庭が眼前に広がっている。白い玉砂利が月光を反射して、仄かに明るい。今まで直接見た事はなく、石ばかりの庭なんて少し殺風景じゃないかと考えていたのだが、薫は考えを改めた。夜も遅くなってきたからだろうか、蝉の鳴き声も風の音も聞こえず、穏やかに時間が流れている。目を瞑ると、そのまま眠ってしまいそうだった。
そう言えば、ユリアンはどうなっただろう。
薫は目を瞑って意識を集中し、遠隔透視能力でユリアンの居場所を探った。
「……良かった。ちゃんと生きてる」
ユリアンが草臥れた顔をしながら、ライダースーツ姿で汗だくになりながらここではないどこかの町中を歩き回っている姿を見て、薫は苦笑した。ざまぁみろ、と言う訳だ。
「人の服を勝手に持ち出すのが悪いのよ」
「アネキ、寝言っすか?」
声を掛けられた薫は、心配そうな顔で傍らに寄り添っている白水の存在に気がついて、目を丸くした。白水は上下ピンクの水玉模様の可愛らしい薄手の夏用パジャマを着ていて、手には白くて大きいタオルケットを持って広げていた。
「アネキがここで寝てたから、白水はこれを肩にかけて上げようと思ったんすけど……」
「目は瞑ってたけど、寝てないよ。でも、ありがとう白水ちゃん」
「……てへへ」
褒められて、白水はくすぐったそうに笑った。広げたタオルを胸に抱いて、白水は薫の隣に腰掛けた。両脚を縁側からぶら下げて、落ち着きなく振っている。顔は俯き加減で、足先のあたりを眺めていた。
「綺麗な庭ね」
「枯山水っつうんすよ。お客は多い割にウチは人が居ないんで、御手入れが簡単なお庭にしたんすよね」
「……白水ちゃんが御手入れしてるの?」
「いや、兄貴っすけど」
まるで自分がやっているかのように言ってのける白水にツッコミを入れてやろうとしていた薫だったが、軽く上げた右手はゆっくりと降ろされた。虐めているみたいな気がして、嫌になったのが大きな理由であった。もう一つ、小さな理由としては、白水がとても誇らしげであったからである。
「兄貴は凄ぇっす! 手先が器用で、頭も良くって、いつも落ち着いてて。白水もあんな風にクールで知的な漢になりたいっす」
「性別の壁は厚いと思うわ……」
「あ、それにね、今日の夕食も兄貴が作って、そんでアネキのお部屋のお布団も兄貴が敷いたんすよ」
白水としては、自慢の兄の話が出来るのが嬉しいらしい。矢継ぎ早に、薫の口を挟ませない勢いでポンポンとポップコーンのように軽快に言葉が飛び出してくる。
そして、それを見るとやはり薫としては気味が悪い。白水は雹裡の事を余程好いているのだろう。兄貴兄貴と、兄貴の話になると口が止まらない程なのだから。
気にかかるのは、やはり雹裡の白水への態度だった。兄は居ないが姉は居る薫は、兄弟仲と言うものは一方的な愛情に寄っては成立しない事を知っている。何せ、親の次に近い親類だ。触れ合う機会は、親よりも多いだろう。お互いがお互い、遠慮しないで過ごせるものが兄弟と言うものだ。
薫は、雹裡には、白水に対してどこかしら妹に向けるもの以外の感情が見え隠れしている気がしてならなかった。白水自身は気がついているのだろうか。薫はそれとなく尋ねようと企んだ。
「貴方のお兄さんって、どんな人なの?」
「どんな人? 兄貴は兄貴っすよ?」
「いや、そうじゃなくってさ。ただ、少し知りたいなと思って」
他意は無かったのだが、白水は違う解釈をしたようで、目を丸くしていた。
「まさかアネキ、兄貴の事が……す、す、好きなんすか!?」
「え」
白水は、年相応の女の子らしく、男女の惚れた腫れたには敏感な一面を覗かせていた。興味津々と言った様子で薫に肉迫する。薫はそれをやんわりと押し返しながら、前進してくる白水の肩を押しとどめた。
「あ、兄貴のどんなトコが好きなんすか!? どんなトコが、ど、どん、どんな!」
「あのね、そう言うんじゃないけどね……あー、なんだろ。ちょっと気になるっていうか」
「き、き、きき気になる!?」
薫が言い方がマズい事に気がついたのは、白水が驚いて身体を弓なりに大きくのけ反らした後であった。今の言い方では、本当に気があるかのようではないか。
薫の懸念は現実になり、白水は目を強く瞑って、両手で赤くなった顔を覆って、大きく左右に振った。
「こいつぁまさか、ひ、一目惚れって奴っすかー! ったはー! 白水もそんな恋をしてみたいっすー!」
「いや、そうじゃなくてさ。ただちょっとモヤモヤするって言うか」
「モヤモヤ……な、なるほど。薫のアネキはきっと己のうちに突然湧き出た恋愛感情を持て余して、今モヤモヤしていると。っくっはー! 甘酸っぱいっす! レモン味っす! 羨ましいっすぅー!」
一人で金切り声を上げて感激している白水を止める術は、もう薫にはなかった。
何を言っても無駄。今の白水の目には、薫はどう足掻いても恋する乙女にしか映っていないようだった。薫がどれだけ冷めた視線を送ろうとも、白水はおかまい無し。大声で家の人が聞きつけてこないかどうか危ぶまれる程の声量で叫んでいる。
やがて白水は薫に向けてガッツポーズ。ウィンクのオマケつきであった。何となくユリアンと面影が被り、あぁ多分同じ性分なんだなと見当をつけた。
「不肖、この雪町家次期当主であるこの雪町白水、微力ながらお手伝いさせて頂きたいっす!」
「あー……じゃぁ、それでいいや。お兄さんの事、色々教えてくれる?」
誤解が生じている事に間違いはないのだが、訂正しようにも出来ないし、別に無理に訂正する必要も然程ない。むしろ、白水が好感情を抱いていてくれているのなら、それでそのまま調子に乗せてしまおうと、薫はそう考えたのだ。
「モチのロンでさぁ! さぁさ、何でも聞いてこいってんでぃ!」
白水は、拳で軽く胸を叩いた。今時のガキ大将でもこんな素振りはしない。思った通り、白水は古風、或いはステレオタイプな人間らしい。
「今、白水ちゃん次期当主って言った?」
「はい。次期当主は白水っすよ」
「お兄さんは、違うの?」
最もな疑問であった。当主、等と言う古い伝統を続けている以上は、その当主も男尊女卑であった古き時代の習わしに則って選ばれる筈である。例え性別差をなくして考えたとしても、白水よりも雹裡の方が落ち着きがあるし、丁寧だ。白水は頼りない、或いは構ってあげたくなるような人間であり、一家の大黒柱としては役者不足な感がある。
問われた白水は、意図していたものとは大きく違うその質問に、少し唖然としていた。しかし真面目な性根なのか、薫の見当違いな問いにもしっかりと答えた。
「兄貴は……白水も、兄貴に神社を継いで欲しいっす」
「……なら、なんで?」
「ウチの親父が……許さないっす」
白水はそう零した。その後すぐにあたりを見回し、誰も居ない事を確認して、深く溜め息を吐いた。
「昔は、違ったっす。親父は、兄貴も白水も、どっちも大事にしてくれていたんす。でも……白水が、いけない子だったんすよ」
「いけない子?」
白水は首を縦に小さく振った。おかっぱの柔らかな髪が釣られて軽く揺れた。
「大昔、白水達の御先祖様が、妖怪に襲われて傷ついた白澤様を助けた事があったらしいんす。白澤様はお礼として、御先祖様に付き従い、必要とあらば御先祖様に取り憑いて、その膨大な知恵を絞って周辺の村々を守護したと言われているっす。そして、その伝説を裏付けるかのように、ウチの家系にも、たまに産まれるんすよ」
白水は一度言葉を切った。言い淀んでいる。迷った挙げ句、しかし彼女は口を開いた。
「白澤様の魂を身体に下ろして、白澤様の言葉を代弁出来る力を持ってる人間が」
「……それが、白水ちゃんなの?」
白水は俯いたまま、何かを嘆くように呟いた。
「白水だけ、でした」
白水は両手で顔を覆った。薫は、ゆっくりと彼女の頭に手を乗せて、撫で付けた。
「……兄貴だって同じ兄妹の筈。でもね、白澤様は応えてくれなかったっす。白水の声には応えてくれるのに。何度兄貴が呼びかけても、白水が御願いしてみても、白澤様はうんともすんとも……」
白水は涙を指で強く拭き取ってから、薫を見上げた。二つの目は、水面に映る満月のように揺れている。
「白水の力が目覚めてから、ウチの神社は、白澤様の御神託を頼って来られるお方がとても増えたっす。箝口令が敷かれているから普通の参拝客には知られていないンすが、箝口令を敷いた側の御偉い様達が、週に一度は必ず。企業の経営方針やら、新条例の行方やら、白水には分からない事ばっかりですが、とても大事な事なんだそうで。親父もそう言うお客さん達には、普段からは考えられないくらい笑顔で、頭を下げてばっかっす。……羽振りがいいお客さんっすからね」
「なるほどねぇ……」
現在、隼市の経済はとても潤っているのには理由があったのだ。隼市の生活水準の高さの影には、もしかしたら白水の活躍があったのでは、と薫は感心し切りだった。
とは言え、企業や役所の御偉いさんが、神託等と言うオカルト染みた言葉に右往左往しているのもどうなのだろう。
薫とて政治経済の事に詳しい訳では決してないのだが、そこは人任せじゃマズいのではないかと言う事だけは良く理解出来ていた。しかし、何はともあれ現在の隼市の政治経済のトップはそれなりに白澤の言葉を頼りにしているらしい。白澤の言葉がなければ、隼市の地方自治もこの神社の経済状況も悪化の一途を辿りかねない。
「親父は兄貴を認めようとはしなかったっす。目に見えて贔屓し始めて、白水に甘くて、兄貴に厳しくなって……。白水が欲しがるものは何でも買ってくれたし、学校の成績が悪くても怒ったりしなくなったっす。でも兄貴はどれだけ頑張っても、親父は無関心になっていって。それどころかちょっとした事で打つようになったり、怒鳴るようになったりして。うちに来るお客もそうっす。兄貴の事なんて、まるで存在してないかのように無視してばっかで。この神社の当主は白水で安泰だ、なんて事を平気で兄貴の前で、大きな声で言ったりするし」
「……そう」
父親の期待と言うものも、あったのだろう。第一子で男の子なのだ。ゆくゆくは神社の跡継ぎを、と考えていたに違いない。
しかし、白水が居た。
白澤を使役して呼び出して、その言葉を伝えると言う特殊な力を持った白水が産まれてきてしまったのだ。温故知新と言う諺に嘘はない。となれば、森羅万象に通じる白澤は、それこそあらゆる分野における的確なアドバイザーとなれる。
白澤の言葉は、まさに金のなる木であった。
薫は霧濁の振る舞いに苛立ちを覚えた。
雹裡だって辛い思いをした筈だ。妹の才能を目の前にして、自分の努力が如何に無駄であったかを知らしめられてしまったのだから。背負っていた筈の期待を妹に奪われ、どうしようもなく裏切らなければならなかったのだから。霧濁がそれに気がつかなかった、と言うのならまだマシかもしれない。それでも親としては資格を疑いたくなるが、それに気がついていて雹裡を傷つけていたのかも知れないと思うと、途端に白水の隣で微笑んでいた色黒の老人が腹まで真っ黒だったのではないかと疑いたくなってしまう。
「白水が力に目覚めてから、段々ウチの雰囲気が悪くなっていったっす。まず、親父と兄貴は口を利かなくなったっす。それで、兄貴は白水からも段々離れるようになって。兄貴をかばうお袋と親父は喧嘩をするようになって、そのうちお袋は段々ノイローゼ気味になってしまって、白水も一杯叩かれり蹴られたりしたっす。……お袋と親父はもうずっと前に離婚して、それっきりお袋とは会ってないっす」
「この浴衣……もしかして、貴方のお母さんの?」
薫は自分の藍色の浴衣の袖をつまんで指し示す。小さい首肯が返ってきた。
改めて見下ろした浴衣は、臭いを嗅ぐと消臭剤と押し入れの奥の木材の臭いがする。長らく着られていなかった証だ。何も考えずにそれに袖を通して良いものか、と薫は申し訳なさを覚えたが、他に着るものもないので脱ぐ訳にもいかない。
白水も否定している訳では無い。それどころか、
「アネキ」
白水は、薫の浴衣の袖口を小さく摘んでいた。それを軽く引っ張ってみたり、指で引っ掻いてみたりと落ち着かない様子は、白水の年齢相応よりも更に幼く見えた。母親……もっと言えば女家族が恋しいのだろうか。妙に薫に懐いてくる理由もその辺りにある気がしてきた。
「アネキは、白水の本当のアネキになるんすか?」
「ええぇ?」
白水の目は真っ直ぐだった。その目は今までの底抜けな明るさを見せた白水からは一転、不安と期待が入り交じったような真剣な眼差しであった。
「兄貴を助けてあげて欲しいんす」
「助けるって……」
「兄貴は、白水のせいで変わってしまったんす。昔は一緒に良く遊んでたし、戯れ合ったし、喧嘩だって一杯してたのに……今は、もう……」
「そう言えば……雹裡さんって、白水ちゃんにも敬語だよね」
白水は小さく頷いた。その切っ掛けは良く覚えているっす、とポツリポツリと、水滴を零すような速度で白水は語り始める。
「白水の力が目覚めた、すぐくらいの頃に兄貴とちょっとだけ喧嘩しちゃったっす。オヤツ取られたんすよ。貰い物の、資生堂パーラーのマンゴーゼリー。一人一つって決めて、冷蔵庫に入れておいたんすよ。白水以外の家族はみんな、さっさと食っちまったんすけど、白水は、風呂上がりに食べようと楽しみに取っておいたんす。でも、風呂から上がってみると、兄貴が白水の分勝手に食べちゃってて。で、白水が親父に言いつけたら……親父が凄く怒ってしまって。始めこそ親父に叱られる兄貴を見て、ざまぁみやがれって思ってたんすけど、段々親父の方が加減がなくなってきて……終いにゃボッコボコに殴りつけて、大雨降ってんのに家の外に放り出したんす。……んな事があってから、兄貴はすっかり変わってしまった。白水には敬語、親父とは無視し合うし、お袋ともぎこちなくなってしまって……」
薫は口を挟めなかった。何を言っても、慰めとしては弱過ぎる気がした。第一、誰を慰めればいいんだ。白水か、それとも、雹裡か?
困った様子で口を噤んでいる薫に、白水は顔を向けた。
「兄貴が何を考えてるのか、白水には全然わかないンす。でも、一つだけ分かるのは……兄貴は、白水に怒ってるんだと思う、だからアネキ。アネキみてぇな優しい恋人が出来たら、きっと兄貴も元通り優しい兄貴に戻ってくれると……」
下唇が小さく震えているのが見えて、薫はこれ以上は耐えられなくなり、真実を吐露する。
「ごめん」
「……え?」
「私、一目惚れって信じてないんだ。だから、貴方のお兄さんの事は……そう言う風には見てない」
「そんな、じゃさっきのは? 気になるとか言ってたじゃないっすか! ……まさか白水の早とちりッつー奴っすかーっ!? っはー! まーたやっちまったっす! 失敗失敗、っと!」
笑いながら白水は自分の額を平手で軽く叩いた。今までならばその後しばらくはニコニコと笑い続けるのだが、白水の笑みはすぐに消えた。露骨に肩を落とし、口を尖らせてつまらなそうな溜め息を吐く。
「白水ってば、いっつもこんな調子なんすよ。一人で勝手にぬか喜びしたり勝手に泣いたり……ホント、馬鹿っすね」
白水はしばらく動きを止めた後、やがて首を横に振った。
「あー、やだやだ。一人で馬鹿みてぇに盛り上がって、こんな阿呆が神社の跡継ぎだなんて、笑えもしねぇってんだぃ」
白水は努めて明るく振る舞うかのように、高らかにそう言った。少しだけ恥ずかしそうだったが、それ以上に泣きたいのを堪えているのが薫にも分かってしまった。
「ほんと、白水ってば、いけない子なんだ……」
白水の乾いた眼差しが、空の月を貫いた。
おかっぱの髪が月光によって輝き、半開きの口からは憂いの篭った溜息が漏れた。その横顔は、何故か艶かしささえ窺えてしまう程とても大人びていて、薫にはまるで今までの白水とは別の誰かに入れ替わったかのようにさえ見えてしまった。この顔は、それ相応の経験をしてきた白水にしか出来ない顔である。
自分の家族についてそこまで深く考えた事のない薫は、何だか自分がとても幸福な環境に暮らしている事を思い知らされているような気分だった。
薫が口を開きあぐねていると、白水が一際身体を大きく震わせた。まさか泣いているのかと思って薫が白水の肩に手を置こうとすると、
「ぶへぇっくしょい!」
盛大に男らしいクシャミをした。白水は鼻を啜ってから、照れたように頬を染める。
「たはは……っけねぇや。ちょっと湯冷めしちまったみてえっす! 白水ちゃんったらお馬ぁ鹿さん、ってな話でさぁね!」
そう言いつつ、白水は素早く立ち上がる。その顔は、今のような憂いを帯びたそれではなく、今日ずっと見てきた元気印が張り付いた少女のものであり、薫はその事に少し安心してしまった。
「んじゃ! 明日ぁ早えんで、白水はこれにて失礼しやす! アネキも今日はお疲れでしょうし、お早めにお休みなさいませ!」
「う、うん。お休み」
薫の返事を聞いて満足げに笑みを浮かべた白水は、慌ただしい足音を立てながら廊下を走り去って行った。
風のように駆けていった彼女の背中を、一陣の爽やかな風が追いかけていく。
多分、あの元気で活発な性格が彼女の素なのだろう。それを感じる事が出来ただけ安心だ。ふいに、欠伸が漏れた。薫は大きく伸びをした後、用意された寝室に向けて歩き始めた。自分が吹き飛ばしたユリアンが今何をしているか等、薫はもはや露程も考えていなかった。