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怪奇!知らない世界の人々  作者: ずび
第八話 肝試し
106/123

8−15 地獄からの尖兵Ⅱ

 目の前に現れた奇怪な『何か』に、雲海は身震いした。


「……コイツ……まさか夜恵さんを殺したって奴か!」

『そうだよ! だから逃げて! 早く! 殺されちゃうよ!』


 肌が粟立つ。思わず息を呑んでしまった。毛穴が開き、汗が噴き出す。

 恐怖してはならない。それは分かっている。だが、そう易々と自分の心を制御出来る人間はいない。

 薫の必死な声が、五月蝿く感じられる。逃げようとして逃げられるのならば、苦労しない。


「逃げてったって……」


 この名も無き怪物のすぐ側に、突き飛ばされた小森が倒れている。

 体を小さく丸めて、頭を抱えて、十メートル近く離れていると言うのに、恐怖に震えているのがハッキリ見える。

 雲海は、小森を救出しに来たのだ。一人で遁走する訳にはいかない。

 だが、怪物が今狙っているのは雲海だ。

 先程雲海が声をかけた時から、小森の足元に既に妖怪は居た。いつでも手の届く所に小森はいるのに、怪物は彼女を襲うおうとしない。眼中にないと言わんばかりだ。だから、小森と怪物を離すには、今が絶好の機会。

 だが、仮に雲海が小森を助け起こして彼女とともに逃げ出そうとすれば、必然的に怪物も二人を追ってくる。この場合、小森を助けるのにベストな手は。


「……そうだな、逃げよう! 香田さん、小森さんの救出は頼んだ!」

『クーちゃんはどうするの!?』

「囮になる! コイツの狙いはどうやら僕らしい! ……小森さん!」


 雲海の声に、小森はかろうじて反応した。僅かに上げた顔は、涙で歪みに歪んでいる。そんな彼女に向けて、雲海は額から垂れていた冷や汗を拭き取ってから、出来るだけ得意げな笑顔を繕う。

 内心では自分も少なからず怯えているのを、必死で隠しながら。


「もう安心して良いぞ! コイツは僕が引き受ける!」


 小森が僅かに眼を見開いた。パクパクと口を開いて、何か言っているようだが、全く聞こえない。雲海は早々に彼女に背を向けた。


「そう言う訳だ、このゲロ蜘蛛野郎! 着いてこい!」


 雲海は怪物を挑発しながら、小森が倒れているのと反対方向の薮の中に飛び込んだ。

 薮を突き破って伸びてくる腕を飛び避けながら後ろを振り返る。怪物は雲海の思惑通り、しっかり後ろをついてきていた。幸いにも、足は速くない。人間と大差ない速度であった。しかしそれは、雲海もこれ以上距離を離す事が出来ないと言う事。対策は、何も考えていない。だが、もしも打開策があるのだとしたら。

 懐に忍ばせた巾着袋の中には、いつも彼がそうしていたように、霊符が三枚入っている。その表面を撫でる。荒い和紙の指触りが心地よい。使うしかないのだろうか。術が上手く扱えるかどうかも分からないのに。

 先日の洞窟での一件を思い出す。

 制御出来ずに暴走する式。従うべき雲海に牙を剥き、あまつさえそのまま食いつくさんと血を吸い続けた。アレが今ここで再び起きてしまったら、どうなる。術そのものは発動するのだ。妖怪を大人しくさせるために一度きり使うだけならば、構わないか。

 猶予は長くない。

 決めなければならない。


「……やっぱり、やるしかないのか……?」

『ねぇ、クーちゃん……』


 頭の中から、まだ声が聞こえてくる。先程までとうってかわって、薫の声は分かりやすい程に萎んでいた。


『術使って平気なの?』

「…………」


 精神感応は、文字通り精神を繋げてお互いの思考を読み取る能力だ。薫が今しがた雲海の考えている事を読み取ったとしても、なんら不思議はない。


『ごめん。勝手に心、読むつもりはなかったんだけど……』


 曇った雲海の表情を遠隔透視で見ているのだろう、薫は申し訳なさそうに呟いた。

 しかし、これで薫にも理解できた。雲海が術を使えない理由が。

 わざわざ口に出して説明をする煩わしさやら、或いは説明せずにそのまま隠し通す面倒臭さからは解放されたが。後ろから追ってくる怪物に意識を割いている分だけ、苛立っている余裕がないのが、今は幸いだった。


『と、とにかく! 今から私もそっちに向かうから、ちょっと待ってて!』

「おい、君は小森さんの方を頼むって言ったろ!」

『美紀ちゃんの方には天心くんが向かってる! だから大丈夫だよ!』

「…………」

『……あれ? クーちゃん?』


 不安げな薫の呼びかけも無視して、雲海は歯噛みした。

 心配してくれているのは分かる。優しさ、正義感からそう言ってくれているのだと言う事は分かっているのだ。雲海が苛立つのは筋違いだと言う事だって、重々承知している。だが……だからと言って全てに納得し、流せる訳では決してない。

 岩武には大人しくしていろと言われ、夜恵には見習いじゃぁ敵いっこないと言われ、本来妖怪と闘う術を持たない天心まで駆り出して。

 そして何より、自分が守ると決めた筈の薫にさえも今、助けられようとしている。

 この事態を招いた最も根本の元凶……肝試しの提案者である自分を置いてけぼりにして、皆が事態の収束に力を注いでいる。無力な雲海を、自覚無く嘲笑うかの如く。


「……ふざけやがって」


 自分でも驚く程攻撃的な言葉が飛び出たもんだ、と雲海はどこか冷静な頭でそんな事を考えた。自分のケツくらいは自分で拭かねばならない。

 利休は言っていた。式神も、元々の起源を辿っていけば妖怪と同じ所に行き着くのだと。だから、恐れてはいけない。式神を使役するのは自分なのだ。式神の反攻を恐れていては、式神が無駄に尊大になるだけではないか。

 術を使う。

 雲海はそれを瞬く間に覚悟し、巾着袋から霊符を一枚取り出す。後ろから奇怪な雄叫びを上げながら迫る怪物を振り返った雲海は、瞬く間に決意を固めて、足を強く踏みしめ、指に挟んだ霊符を突き出した。

 驚く程に恐れを感じない。奇妙なまでの万能感がある。心臓の高鳴り方が普通ではない。これは勇気ではなく、無謀。良く言ったとして、せいぜい蛮勇。

 だが、それでも……決して意地には変えられない!


『ダメ! クーちゃん!』


 薫の悲鳴が脳内で鐘を打ったかの様に反響する。こちらに猪突猛進する怪物を真っ直ぐに見据える。

 タイミングを取るのは難しくない。時速百キロを超える車の突進にさえ、タイミングを誤らなかったのだ。息を大きく吸い込む。吐き出す文言は既に決めた。この手の得体の知れぬ輩への対策は、基本的に一つだ。

 怪物が、射程圏内に飛び込む。


「留めよ!」


 雲海の咆哮が、木々の枝を激しく揺さぶった。霊符は赤紫色に妖しい輝きを放つ。右手の裂傷痕に張っていた新しい皮膚が、和紙の様に容易く破け、血が噴水の様に激しく吹き出した。

 飛沫が雲海の甚平を瞬く間に汚していく。痛みに顔を歪めつつ、雲海はしかし術の公使を止めようとはしない。霊符に宿る式神が、雲海の血を吸い取っていく。


『クーちゃん! 無茶はダメだよ! 今行くって言ったじゃん!』

「遠隔透視と精神感応を同時にやってる君に言われたくねぇよ!」


 今止める事は出来ない。せめて術の完成まで持ちこたえなければならない。怪物は間もなく、目と鼻の先にまで迫ってくる。ここで半端に術を中断したら、なんの意味もない。無駄に傷を増やしただけだ。

 とは言え、出血の勢いが尋常ではない。あっという間に頭が重くなってきた。膝の力が抜け始めている。長くは保たない事は分かっている。想定の範囲を、未だ逸脱していない。


「構わん……好きなだけ飲めよ……だから言うことを訊けっ!」


 雲海の一喝に呼応するように、霊符が一際大きな光を放った。

 その光はやがて粒子と化して、怪物に雨の様に降り注ぐ。それを一身に浴びた怪物は、突然時間が停止してしまったかの様にその動きを止めて、バランスを失って横倒しに倒れ伏した。怪物は拘束を解こうと必死にもがく事さえ出来ず、舌先だけを雲海に向けたまままるで凍り付いたように動かない。

 殺傷力は一切ない。しかしその光の粒に触れれば、その体は麻痺する。動きを止める事に特化した術である。術は成功した。それを確認した雲海は、未だに吸血し続ける霊符を千切り、地面に投げ捨てて額の脂汗を拭った。


「……っはぁ! ……はぁ……」


 右手の出血は未だに止まらない。妖怪の動きは止められたが、この術では拘束時間が短い。より、確実に動きを止めるには。深呼吸で気合いを入れ直しながら、新たな霊符を取り出した。


「縛れ!」


 次の霊符が輝く。

 血を吸われ過ぎた弊害か、段々視界が霞んでくる。なんのこれしきと未だに踏ん張って入るが、いつ腰が落ちてもおかしくはない。

 霊符が起動する。

 ただの和紙だった符が、白くて細長い蛇と化して雲海の手中から飛び出し、瞬く間に痺れて動けずに居る怪物の全身を締め上げた。より強固な拘束に身を縛られて、怪物は苦痛に喘いでいる。節くれ立った無数の足の数本が、まるで枝を踏み折ったような音を立てながら折れていく。


「これでトドメだ、蜘蛛野郎……!」


 気合いの入った雄叫びに反して、雲海はついに片膝を付いた。もう腕も碌に上がらない。景色が明滅を始める。今にも意識が吹き飛んでいきそうだ。

 だが、この妖怪は夜恵を一度殺害している。となれば、これは人間に仇なす危険な妖怪。ここで見逃してはならない。然るべき罰を与えなければならない。トドメの一撃を下すのならば、今しかないのだ。

 幸い、まだ意識はある。腰が立たなくても、前が見えなくても、霊符を握って言葉を叫ぶ事は出来る。


『クーちゃん! もういいでしょ! もうちょっとだから……御願いだから待ってよ……!』


 薫が泣きながら叫んでいるのが聞こえてきた。

 あぁ、自分は酷い奴だと雲海は自嘲した。女の子を……よりにもよって、大事な人を……香田薫を泣かせてしまうなんて。やはりこのままではダメだ。自分はもっと、もっと修行を積む必要がある。誰も悲しませたりしない、心配なんてさせない、そんな父のような一人前として頼られる陰陽師に、ならなければならない。

 果たしてあるのかどうかも分からない未来に想いを馳せつつ、雲海は怪物を見据えた。


「……トドメだ!」


 雲海は全身全霊を込めて声を絞り出す。

 式神が反応する。開いた右手の傷口から吹き出す血は、徐々に勢いを落とし始めていた。流れ出る血が無くなろうとも、式神はしかし、容赦なく雲海の血液を吸い上げていく。命じられた符が、眩い閃光を放つ……その瞬間であった。


「もう止めてぇ!」


 雲海の視界の端に何かが飛び込んできたかと思うと、そのまま雲海に横から抱きついた。体がぐらついた拍子に、雲海は霊符から手を離してしまった。

 少し遅れてやってきたのは、強めの香水の臭い。


「もう止めて……止め……止めてよ……っ」

「……小森さんか?」


 目を動かすのも億劫で、言葉で確認する。すぐ近くにある頭が、小さく縦に動いたのが幽かに見えた。


「何やってるんだよ、早く逃げろ……!」

「だったら雲海も一緒に逃げようよ!」

「コイツをやっつけたらな。だからどいてくれ……今は、一時的に縛っているだけだ。もう時間がない」

「馬鹿! アンタ、それ、使う度に物凄い量の血が……」


 小森は雲海を追いかけてきてしまっていたようだった。

 雲海は自分では気がついていなかったが、既に顔面は蒼白で、目の焦点も少々怪しくなっている状態である。小森が飛び出してきたのも、無理はない。


「でも、コイツは今やらないと……っ!」


 視界の端に居た怪物が僅かに身じろぎをした。

 拘束が解けるのが、想定していたよりも遥かに速い。身じろぎは次第に大きくなっていき、やがてその体を縛り付けていた白い蛇は、ただの紙に戻って粉々に砕けてしまった。

 息を吹き返した怪物が、ゆっくりと立ち上がる。折れた足を支えにしているせいで何度も地面をのたうち回りながら、生まれたての子鹿のような震え方であっても……それでも怪物は立ったのだ。


「小森さん、離れろ! またコイツ……!」


 雲海は必死に体を起こそうとするが、既に全身の力が抜けてしまって、立つ事さえままならない。雲海の体にしがみつく小森が震えている。彼女も、きっと逃げられない。

 万事休すか。

 先程手放した霊符は雲海の足元で、地面に染み渡った雲海の血を貪欲に吸い続け、未だに光を失っていない。雲海は一か八か、その最後の一枚の霊符を拾い上げて正面に構えた。

 怪物はしばらくその場に立ち尽くす。

 いつ来るか。いつ来るか。

 怪物が一歩でも踏み出せば、雲海は躊躇せず術を使うつもりでいた。刺し違える覚悟は出来ている。

 一秒経過。息が詰まりそうだ。

 三秒経過。唾を飲む。怪物はまだ動き出さない。

 五秒経過。小森が更に小さく丸まっていく。雲海は左手で彼女の背を優しく撫でてやる。

 十秒経過。怪物が動き出す。

 しかしそれは、雲海を襲う為の前進ではない。怪物は雲海に背を向けたかと思うと、土ぼこりを上げる程に猛烈な勢いでその場から逃げ去っていく。相打ち狙いの雲海を警戒したのだろうか。いずれにせよ、二人にとっては幸いの事である。


「……くっ」


 追いかけようとするが、足が立たないのだ。追いつける筈もない。

 怪物の背が見る見るうちに小さくなっていき、瞬く間に森の闇の中に紛れてしまい、怪物は姿を消してしまった。少し残念そうに顔をしかめる雲海を、涙眼の小森が睨んでいた。


「……」


 これ以上はもう止めろ。言葉を発さないのが、より強い圧力を生み出す。敵わないと見た雲海は、怪物を諦めて霊符を巾着袋に仕舞い込んだ。


「小森さん、怪我はしてない?」

「……アンタに言われたくない」


 ごもっともである。


「……怖かった」

「確かに、エグイ見た目だったもんな、あの怪物」

「それもそうだけど……」


 小森は少しむくれている。彼女の不機嫌顔は、残念な事に雲海が一番良く見る顔だ。


「雲海が……死んじゃうかもって思った」

「……心配させて悪かったよ」


 そう返してやると、雲海を抱き締める小森の腕に、また少し力が篭る。雲海は深い溜め息と共に、抱きついている小森の肩に顎を乗せた。小森は小さく体を跳ねさせたが、リアクションはそれだけである。


「ごめん、この体勢、少し楽なんだ……ちょっと休ませてくれ」

「立てないの?」

「……疲れちゃったよ。多分、もうすぐ香田さんと天心がここに付く。それまで、肩を貸してくれないか?」

「そんなの良いよ。全然、良い」


 先程から、薫の精神感応の声が聞こえてこない。こちらに向かうのに全精力を傾けているのだろうか。遠隔透視で今、小森とこうして二人で抱き合っているのを見たら、彼女は何というだろうか。


「……また、助けてもらっちゃったね」


 雲海が彼女を窮地から救ったのはこれが二度目だ。一度目はおよそ一月前、悪い男に騙された小森を救い出し、海辺を舞台に逃走劇を演じた。雲海と小森が仲良くなったのは、それが切っ掛けでもある。


「君はホント、トラブルによく巻き込まれるね。今日も一人でコースに入っちゃったんだろ? 今回の落ち度はこっちにあった訳なんだけど……でも、もっと落ち着いてくれると、嬉しい」

「うん、反省する。それから……」


 密着していた小森の体が少し離れた。

 思わず前につんのめりかけた雲海の体を小森は支えて、そして正面から見つめ合う。提灯の灯りに僅かに照らされるだけの小森の顔は、雲海には朧げにしか見えなかった。彼女が浮かべていた表情は、しかし相変わらず泣きそうである。その事に気がつけたのは、徐々に小森の顔が雲海の顔に近付いてきたからだった。

 そして、案外呆気なく。

 小森の唇が、雲海の唇に触れた。ほんの一瞬だけだった。触れたのか触れてないのか、疑問に残ってしまう程の口づけだった。


「ありがとうね……私、雲海が好きだよ」


 雲海は、何と返せば良いのか分からなかった。

 女の子とキスした事もない雲海がもしも平常時だったら、酷く照れて、混乱して、悶え狂うだろうが、生憎そんな体力はどこにもない。混乱する程の思考力も、碌に残っていないのだから。

 しかし決して、嫌な気分ではない。

 だから雲海は何も言わずに、ひたすら沈黙を続けた。小森も雲海の返事を求めていなかったのか、彼女もそのまま何も言わずに口を噤んでいた。二人の沈黙は、緑色の光を身に纏った薫が文字通りカッ飛んでくるまで続いた。


「二人とも、大丈夫!?」


 付近の土を巻き上げながら、薫は浴衣の裾がめくれるのも構う事無く、勢い良く着地した。

 息を切らしながら、抱き合っている二人に駆け寄ってくる。小森は密着させていた体を、少しだけ離した。


「雲海の手が……」


 小森は、雲海の右手を持ち上げて薫に見せる。

 血塗れの割に肌が真っ青のボロボロの右手ではあるが、それだけの傷が付いても、不思議と痛々しさがない。無数に刻まれた傷口は、既に薄く被膜が貼り始めて、注視すれば再生している様が見える速度で治癒していく。

 人間の体では、有り得ない程の再生力。薫は息を呑んだ。だが、今それに疑問を抱いていても仕方がない。雲海の失血量は周囲を見回せば手に取るように分かるのだから。


「クーちゃん、立てる?」

「……無理だ」

「了解……ところで、あのバケモノは?」

「逃げられたよ」


 雲海も重大な損傷をしたが、怪物を怯ませる事には成功した。

 それだけでも、見習い陰陽師にしては上出来だろうと雲海は心の奥で密かに自画自賛している。薫は少々納得がいかないのか、その胸中は複雑だ。

 雲海が先程の怪物に殺される未来を、薫は一度くだんの脳内の記憶を探った時に垣間見ている。周辺に雪が積もっていたのを考えれば、その未来が訪れるのはもう少し先の話になるであろうが、出来るのであればあの怪物は早めに対処して、雲海が死ぬ等と言うふざけた未来を変えてやらなければならない。


「……香田さん、深追いはダメだぜ」

「え?」


 何故バレた、と素っ頓狂な声を出しながら振り返る薫を見て、雲海は薄く笑った。分かりやすい少女である。


「君ももうヘトヘトだろ。……それより、悪いんだが、送ってくれないか。出来れば早急に」

「ん……そうだね、分かったよ」


 薫は一度大きく伸びをしてから、未だに抱き合っている二人を見て、少々ニヒルな微笑みを浮かべた。


「送り先は教会かな、それとも古風に神社がいい?」

「……寺か病院で頼む」


 照れる様子さえ見せない……と言うか、そんな余裕がない二人を見て、薫はつまらなそうに嘆息した後、二人を空峰家に瞬間移動させた。

 これにて、肝試しの参加者は全て避難完了。

 死者一名(蘇っているが)と重傷者一名を出した、空峰雲海主催の、本物の妖怪と触れ合う恐怖の肝試し大会は、こうして幕を閉じた。

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