第6話 釣りと甘い牧場
朝はリラの叫び声から始まった。
「起きろ!」彼女の声がダンジョン中に響き渡る。「今日は外に出るぞ!」
俺は寝床(ブロガーが布を敷いてくれた元石版)に横たわり、魔王がなぜ外に出なければならないのか考えていた。
「どこへ?」目を開けずに唸る。
「魚だよ! メニューを増やしたいんだろ? フィッシュパンは自分で焼けないぞ!」
目を開けると、リラが完全装備で立っていた。革の鎧に剣、そして――妙に気になることに――釣竿を手にしている。
「釣竿を持ってるな」
「お前はバゲットを持て」
「……なぜバゲットが必要だ?」
彼女はまるでバカな質問をする子供を見るような目で俺を見た。
「それがお前の釣竿だ」
「バゲットが釣竿になるのか?」
「お前の主力スキルはパン作りだ。筋が通ってるだろ」
反論しようとしたが、彼女の言葉には恐ろしいほどの論理があることに気づく。頭を振りながら起き上がり、焼きたてのバゲットを腰に差し、リラの後をのろのろとついていった。
初めてダンジョンの外に出た。
日差しが目に刺さる。目を細め、手で顔を覆う。空気は澄んでいて、草の匂いと――自由の匂いがした。
「外に出たことないのか?」リラが俺の反応を見て尋ねる。
「前の人生ではな」辺りを見渡す。「でも、こんな景色はなかった」
目の前に広がる緑の谷間。遠くには太陽に輝く川。森の向こうには街が見えた――冒険者たちがやってくるあの街だ。
「行くぞ」リラが袖を引っ張る。「いい場所は川の近くにある」
川は思ったより広かった。水は澄み、底には石が見え、木陰では魚が跳ねている。
「ここだ」リラは大きな岩に座り、慣れた手つきで釣竿を投げる。「次はお前の番だ」
俺はバゲットを取り出した。
近くで釣りをしていた老人がこちらを見る。白い髭のその漁師は、まるでハンマーで魚を取ろうとしているかのような目で俺を凝視した。
「坊主、それ……パンか?」
「バゲットです」訂正する。
「それで魚を釣るつもりか?」
「魔法の釣竿です」ぶっきらぼうに答える。
老人は鼻で笑い、顔をそらした。リラは笑いをこらえきれない。
俺はバゲットを振りかざし、水面を叩いた。水しぶきが上がり、魚は逃げ惑い、バゲットは水を吸ってぐちゃぐちゃになり始める。
「『完璧な捏ね上げ技術』があるんだろ」リラが言う。「もっと……役立つことに使えないのか?」
水浸しのバゲットを見る。彼女の言う通りだ。
目を閉じ、集中する。手が自然と動き始める――ゆっくりと、滑らかに、まるで生地を捏ねるように。手の中のバゲットが急に硬くなり、パリッとした皮が光り、水面に波紋が広がる。
そっと水にバゲットを浸す。
数秒経つ。何も起きない。
「やっぱりバカな――」言い終わらぬうちに、バゲットが引っ張られた。手から滑り落ちそうになる。
「引っ張れ!」リラが叫ぶ。
引っ張ると、水面から巨大な魚が飛び出した。うろこが光り、魚は暴れるが、バゲットはしっかりと耐える――パン作りの魔法は裏切らなかった。
「パンの釣竿!」老人が笑い転げる。「驚いた!」
魚を岸に引き上げる。リラが飛んできて、獲物を確認する。
「これで十分十個はパンが焼けるな!」満足そうに言う。
昼までに三匹追加で釣り上げた。地元の漁師たちはもう笑わない――むしろ興味深そうに、バゲットで次々と魚を釣り上げる魔王を観察していた。
「その……道具、貸してもらえねえか?」一人が遠慮がちに尋ねる。
「限定品です」バゲットを背に隠す。
「魚は手に入った」リラが帰り支度をしながら言う。「でも甘いパンにはもう一つ材料が必要だ」
「なんだ?」
「スライムシュガーだ」
固まる。
「スライム……シュガー?」
「そう。スライムは適切に餌を与えると甘いものを出すんだ。アイシングに最適でな」
「つまり、野原に行って……スライムに餌をやるのか?」
「まあな。農場みたいなものだ。汚れもなくて、ゼリーがたくさんある農場だ」
「もし俺たちを食べようとしたら?」
「お前はスライムの友だろ? 忘れたのか?」リラが肩を叩く。「行くぞ」
野原は川の近くにあった。到着すると、色とりどりのゼリー状の生き物たちが、草の上をのんびりと転がっているのが見えた。
バゲットの残りを取り出す。
「おーい!」パンを振りながら叫ぶ。
スライムたちが動きを止める。その中の一匹――見覚えのある脈動を見せるピンクのスライム――が群れから離れ、こちらに近づいてくる。
「やあ」声をかける。「砂糖が出るそうだな」
ピンクのスライムが脈動する。明らかに俺を覚えている。
バゲットの端を差し出す。スライムがそっとそれを吸収し……その体から透明で甘そうな液体が染み出してきた。
「集めろ!」リラが空の瓶を差し出す。
スライムの下に瓶を置く。スライムがもう一度脈動し、シロップを垂らし、満足そうにぶるんと鳴いた。
「勝手に砂糖をくれるのか?」驚いて尋ねる。
「傷つけなければな。彼らなりのお礼の仕方だ」
夕方までには瓶いっぱいのスライムシロップが溜まり、野原にはおかわりを求めるスライムの大群ができていた。
「どうやら新しい常連客ができたな」リラが嬉しそうに脈打つスライムたちを見て言う。
パン屋に戻り、生地を捏ね、魚とスパイスを加え、上にスライムのアイシングをかける。結果は期待以上だった。
「これは……信じられない」ブロガーが最初のパンを味わって息を呑む。「魚に甘いアイシング、そして生地は相変わらず完璧だ」
「このアイシング、全部にかけてほしい」セレナが何でもないふりをしながらも、すぐに二つ目に手を伸ばす。
普段無口なレンさえもうなずき、親指を立てた。
満足そうな客たちの顔を見ながら、俺は充実感を覚えた。
「フィッシュパン」声に出してみる。「欲しければ、また焼くぞ」
夜、客がみな帰った後、リラが近づいてきた。
「今日初めて外に出たな」静かに言う。「どうだった?」
考える。
「怖かった」正直に言う。「でも、よかった。外には大きな世界がある。たくさんの人がいる。バゲットを持った魔王を喜ばない者もいるだろう」
「でも、お前は気に入られた」彼女は微笑む。「漁師たちが、いつまた来るか聞いてたぞ」
「本当か?」
「本当だ。それに、バゲットは限定品だって言っただろ? お前のパンを食べたいってさ」
笑ってしまう。
「じゃあ……明日も行くか?」
「もちろん」リラがうなずく。
入口の方を見る。空は暗くなり始めている。
ダンジョンの外の大きな世界。たくさんの人。喜ばない者もいるだろう。でも今日、一歩を踏み出した。そしてそれは、美味い一歩だった。
<システム通知>
新規実績解除:初めての外界
あなたは初めてダンジョンの外に出ました。
報酬:+30 EXP、称号「地上を知る者」
解説:「一歩外に出るだけで、世界はこんなにも広いと知る。次は二歩目だ。」
追加実績:スライム牧場主
あなたは友好的なスライムから初めての甘味を得ました。
報酬:+20 EXP、称号「スライム愛好家」
解説:「彼らはあなたのパンを食べ、あなたは彼らの甘さを得る。Win-Winだ。」




