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瓦礫の上の遠吠え

この物語は、とある犬の国のお話です。


そこには、人間はいません。

犬たちが自分たちで国を作り、

自分たちで政治を行い、

自分たちで生活しています。


もちろん、犬たちはとても立派です。

遠吠えもよくそろっていますし、

選挙だってちゃんと行われています。


ただ、ほんの少しだけ困ったことがありました。


その国には、

食べ物が少なく、

屋根が足りず、

そしてなぜか首輪も不足していたのです。


それでも犬たちは、

きっと何とかなると信じていました。


これは、そんな国の

まだ誰も有名ではなかった頃のお話です。


その骨を最初に見つけたのは、痩せた雑種犬だった。


夜明け前の街はまだ冷えている。

瓦礫の山の間を、灰色の霧がゆっくり流れていた。


犬は鼻を地面に押しつけ、何度も匂いを確かめる。


間違いない。骨だ。


急いで前足で土を掘る。

爪がコンクリートの破片に当たり、鈍い音がした。


ガリッ。


やっと白いものが見えた。


骨だった。

古いが、まだ匂いが残っている。


犬はすぐにそれをくわえた。


その瞬間、背後で低いうなり声が聞こえた。


振り向くと、三匹の犬が瓦礫の上に立っていた。

痩せているが、まだ力は残っている。


骨の匂いを嗅ぎつけたのだ。


一瞬、静かな睨み合いになった。


次の瞬間、四匹の犬が同時に飛びかかった。


牙がぶつかり、唸り声が響く。

骨は瓦礫の上を転がった。


戦いは長くは続かなかった。


最初に骨を見つけた犬が、口を切り裂かれながらも骨を奪い返し、

そのまま瓦礫の影に逃げ込んだ。


残った犬たちは、しばらく地面を嗅ぎ回っていたが、

やがて諦めて散っていった。


――こんな朝が、この国では毎日続いていた。


二度にわたる人間との大戦の末、

犬たちはついに人間を追い出した。


そして、自分たちの国を作った。


その名は――バウバウ民主主義国。


初代大統領には勇猛なジャーマン・シェパードが選ばれ、

国歌は威勢のよい遠吠えに決まった。


ワン。

ワン。

ワン。


だが、その歌が街に響くことはほとんどなかった。


戦争は国を徹底的に壊していた。


街は瓦礫に覆われ、橋は崩れ、

工場は焼け落ちていた。


人間が残していった機械は錆びつき、

動くものはほとんどない。


犬たちはすぐに三つの不足に気づいた。


食べ物。


屋根。


そして――


首輪。


食べ物は圧倒的に足りなかった。


畑は荒れ、流通は止まり、

高級カリカリはもちろん、安い缶詰すら見つからない。


多くの犬は、こうして瓦礫を掘り返して骨を探していた。


屋根も足りなかった。


多くの犬は、壊れた車の下や古タイヤの中で眠った。

雨が降れば、街は泥だらけになる。


それでも眠るしかない。


だが一番奇妙だったのは、首輪だった。


独立したにもかかわらず、

多くの犬たちは「自分の首輪」を欲しがった。


首輪がないと、どうにも落ち着かないのだ。


昼間の交差点では、警察犬が一日中前足を振っていた。


信号機が動かないからだ。


肉球はすり減り、足は震えていた。


それでも交通を止めるわけにはいかなかった。


夜になると街は静かになる。


瓦礫の上に月だけが浮かぶ。


その静けさの中で、ときどき遠吠えが聞こえた。


弱く、迷った声だった。


「……我々は、本当に独立すべきだったのだろうか」


人間という管理者がいなくなった瞬間、

犬たちは初めて気づいた。


自分たちをどう導けばいいのか、

誰も知らなかったのだ。


だがその頃、

この瓦礫の国の片隅で、


錆びついた一台の鉄の塊を見つめている犬がいた。


その犬の名は――トヨ丸。


バウバウ民主主義国は、

この頃まだ、とても若い国でした。


国歌も決まったばかりですし、

大統領の遠吠えも、まだ少しぎこちないものでした。


街は瓦礫だらけで、

骨を見つけるのもなかなか大変でしたが、

それでも犬たちは毎日を生きていました。


歴史というものは、たいてい後になってから

「あの時が始まりだった」と言われるものです。


ですが、そのときその場にいた犬たちは、

そんなことはまったく考えていません。


彼らはただ、

明日の骨を探すことで精一杯だったのです。


この物語が本当に始まるのは、

もう少し後のことになります。


その頃、

この瓦礫の国のどこかで、

錆びた鉄の塊をじっと見つめている犬がいました。


その犬の名前は――トヨ丸。


ですが、その話はまた、次の章で。

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