──リリア、胸の痛みの理由──
夜の寮の自室。
リリアはベッドに座り、膝を抱えていた。
灯りは小さな魔導ランプひとつだけ。
静まり返った部屋に、自分の鼓動だけが響いている。
「……なんでだろ。
急に……怖くなっちゃった……」
胸の奥がちくりと痛む。
最近ずっと、その痛みが消えない。
エルザが学園に来てから——
ユウの周りの空気が、ほんの少し変わった。
「ユウは……いつも通りなのにね」
優しくて、気遣い屋で、誰とでも分け隔てなく話す。
その“優しさ”を、リリアはずっと好きだった。
だけど最近は、その優しさが……少し怖い。
■ 1 「独り占めしたかった」気持ち
エルザがユウの袖を掴む姿。
ユウが自然に受け止める姿。
二人が、まるで昔からの仲みたいに笑い合う姿。
それを見るたび、胸がぎゅうっと締め付けられる。
(……ユウは私のために戦ってくれたのに)
(私が泣いたら真っ先に飛んできてくれたのに)
(私が笑うと、すごく嬉しそうにしてくれたのに)
でも——
(エルザちゃんにも、同じ顔をするようになっちゃった……)
胸が痛い理由は……その答えを知っている。
「……ユウのこと、独り占めしたかったんだ私……」
自分で言って、顔が熱くなった。
誰にも言えなかった本音。
ずっと胸の奥にしまい込んでた気持ち。
「こんなの……ヒロインっていうより、子どもみたいだよね……」
目に涙が滲む。
■ 2 リリア、初めて気づく「自分の弱さ」
リリアは強い。
魔法も成績も優秀で、いつも明るい。
でも今日は——
「弱いよ……私……」
初めて、自分の弱さを認めてしまった。
ユウの優しさに寄りかかっていたこと。
“いつか気づいてくれる”と甘えていたこと。
そして——
エルザという存在に焦りを覚えていること。
「……ユウが、誰かと楽しそうにしてるだけで……こんなに苦しくなるなんて……」
布団に顔をうずめる。
「ユウが……好きなんだよ……
多分、ずっと前から……」
涙が布団を濡らす。
でも、その涙は悲しいだけじゃない。
ずっと見ないふりをしてきた“本当の気持ち”に向き合えた涙。
■ 3 リリアの願い
しばらく泣いたあと、リリアはゆっくり顔を上げる。
目は赤いけれど……
その奥の光は、いつもより強かった。
「……ユウの隣に立ちたい」
今度は、ちゃんとはっきり言えた。
ただ助けられるだけじゃなくて。
ただ守られるだけじゃなくて。
「私も……ユウを支えたい。
ユウの力になりたいんだ」
その願いは、恋心よりも深くて。
今まで気づいていなかった、大切な気持ちだった。
それは——
恋というやわらかな感情と、
同じくらい強い“想い”だった。
■ 4 明日へ
「よし……!」
リリアは涙を拭き、鏡の前に立つ。
目は赤いけど、表情は凛としていた。
「明日、ちゃんと笑うんだ。
ユウの隣で……堂々としてる」
その姿は、
エルザの影に怯える少女ではなく——
“本物のヒロイン”の顔だった。
「負けないから……誰にも。
もちろん、エルザちゃんにも!」
魔導ランプをぱちんと消し、ベッドに飛び込む。
胸の痛みはまだ少しある。
でもその痛みは、もう怖くなかった。
「おやすみ、ユウ……」
そう呟いて、リリアは眠りについた。
その寝顔はとても穏やかで、
恋する少女そのものだった。




