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ルミナス・アーカイブ 番外編 祭り  作者: 田舎のおっさん


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**番外長編:ミレイア外伝

残された者の理と、今につながる約束


 事故報告書には、簡潔な文章が並んでいた。


『地下封印層における魔力暴走事故』

『学生一名、殉職』

『空間異常は消失し、世界への影響は確認されず』


 レヴィアン・アークライトの名前は、小さな欄に記されただけだった。

 世界は、何事もなかったように続いていく。

 彼のいない世界が、「普通の日常」として上書きされていく。


 ミレイアは、その事実に耐えられなかった。


 何度も上層部に抗議した。

 自分たちが見た“理の裂け目”のこと。

 レヴィアンが身体を張って世界を繋ぎとめたこと。


 だが、誰も信じなかった。


「そのレベルの現象が本当に起きていたら、世界の記録に残っているはずだ」

「学生の誤認か、認識阻害の類だろう」


 それを聞いたとき、ミレイアは確信した。


(ああ……わたしたちが触れたのは、本当に“理の外側”だったんだ)


 世界の記録にも、誰の記憶にも、きちんとは残らない。

 ただ、世界が無事であるという結果だけが、静かにそこにある。


(レヴィアンは、“記録されない英雄”になった)


 その事実が、何よりも悔しかった。


 同時に、彼が最後に言った言葉が胸に残り続けていた。


『君はこっち側で、俺が戻ってくる“理由”でいてくれ』


(戻ってはこなかったわよ、バカ……)


 夜な夜な、研究塔の上で空を見上げながら、彼女は何度も愚痴をこぼした。

 彼のいない黒板に、名前のない変数“λ”だけが残っている。


 それでも、ミレイアは研究をやめなかった。


 理の裂け目の再現はできない。

 だが、その周縁で起きた“値の乱れ”だけは、かろうじて記録していた。

 レヴィアンが身を挺して塞いだ穴の“痕跡”。


(わたしは、見届けなきゃいけない)


(彼が命を懸けて繋いだ、この世界の行く末を)


 そこから先のミレイアは、誰も止められないほどの勢いで魔導理論を深めていった。

 存在の揺らぎ。

 魔力循環の変調。

 虚空と世界の境界。


 やがて、彼女は学園の中で最も深く“理”に近い場所へ辿り着く。

 若くして教授となり、さらに学園長として世界の異常を監視する立場になった。


 ──そして、転生者の少年が学園に現れる。


 ユウ。

 世界の“新しい理”を宿した少年。


 彼の中に芽生えつつある光を見たとき、ミレイアは確信した。


(また、“理に触れる子ども”が現れた)


 怖さもあった。

 彼もまた、レヴィアンのように“向こう側”へ行ってしまうのではないかと。


 けれど同時に、胸の奥で何かが囁いた。


(今度こそ、守れるかもしれない)


(今度こそ、誰も失わずに、“理の向こう側”と向き合えるかもしれない)


 ユウのことを特別扱いしていると言われてもかまわなかった。

 彼に危険な情報を渡しすぎていると批判されても構わない。

 ノアという、原初の光の欠片が現れたときも同じだった。


(あの子は“鍵”。レヴィアンが命を賭けて塞いだ扉につながる、もう一つの道筋)


 だからこそ、ミレイアは彼らを支え続けた。

 理に触れた子どもたちを、今度こそ“誰一人欠けさせずに”世界へ帰すために。


 第三部の戦いが終わり、

虚空王が“世界の外側の番人”となって姿を消した夜。


 ミレイアはひとり、あの頃と同じように学園の塔の上で空を見上げていた。


「ねえ、レヴィアン」


 夜空に浮かぶ星々の中で、ひときわ淡く瞬く光があった。

 虚空の闇の中に生まれた、新しい“番人の星”。


「今度は、ちゃんと守れたわよ」


 ユウも、ノアも、リリアも、エルザも、レオンも。

 誰一人欠けることなく、笑って学園に戻ってきた。


「あなたが命を懸けて繋いだ世界で、

 今、あの子たちが生きてる」


 風が、銀の髪を揺らす。


「だから、見ていて。

 わたしはこれからも、“理に触れる子どもたち”の味方でいるから」


 その瞬間、

遠くの星がひときわ強く瞬いた気がした。


 それがレヴィアンの返事なのか、

あるいはただの偶然なのかは分からない。


 けれどミレイアは、ほんの少しだけ笑って、

静かに目を閉じた。


(わたしはもう、一人じゃない)


(あの子たちがいて、あなたの残した世界があって──

 そして、まだ見ぬ未来の子どもたちがいる)


 それが、

ミレイア・クレストフィアが今日まで戦い続けている理由。


 学生時代の、たった一度きりの初恋。

 “理に飲まれて消えた少年”への約束が、今も彼女の心を支え続けている。


──そしてその物語は、

誰にも語られることのないまま、

静かに、世界の奥底で燃え続けている。


(ミレイア外伝 完)

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