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ルミナス・アーカイブ 番外編 祭り  作者: 田舎のおっさん


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25/27

**番外長編:ミレイア外伝

学生時代──出会い

あの日、隣の席だったひと



ミレイア・クレストフィアが、まだ「学園長」ではなく、一人の生徒にすぎなかった頃。

 ルミナス・アカデミーは、今より少しだけ古くて、少しだけ無防備で、そして少しだけ──眩しかった。


 入学当初、彼女はすでに「神童」と呼ばれていた。

 どの講義でも最前列、教授の問いには正確に答え、魔導式の展開速度は上級生をも凌ぐ。

 教員たちは期待を向け、同級生たちは一歩引いて見る。

 尊敬と嫉妬と距離感が混ざった視線。

 その全部が、ミレイアには少し、息苦しかった。


(どうせみんな、「天才のミレイア」に話しかけてるつもりなんでしょ)

(わたし個人なんて、誰も見ていない……)


 だから彼女は、自分から誰かに話しかけることをほとんどしなかった。

 教科書とノートと魔導式。それさえあればよかった。

 少なくとも、そう思おうとしていた。


 ──出会いは、そんなある日のことだった。


「ねえ、ここ、いい?」


 いつものように一番前の席に座り、講義開始を待っていたミレイアの隣。

 そこへ当然のように荷物を置いた少年がいた。


 黒に近いダークブラウンの髪、少し眠たげな瞳。

 制服はきっちり着ているのに、どこか力が抜けていて、でも笑ったときだけ柔らかい光が宿る。


「……勝手に座ればいいじゃない。ここ、誰の席でもないわ」


「そっか。じゃあ“ミレイアの隣の席”ってことで、今日からは俺の特等席だ」


「な……何それ?」


 あまりにも自然に名前を呼ばれ、ミレイアは思わず眉をひそめた。


「名前、知ってるの?」


「そりゃあ。入学式の最初の模擬試験で、教授より早く式を完成させた子なんて、忘れようがないだろ?」


 少年は悪びれもせず笑った。


「俺はレヴィアン。レヴィアン・アークライト。今日から同じ班だから、よろしくな」


「……班?」


 そのタイミングで教室に入ってきた教授が、「今日から二人一組での研究班を作る」と宣言した。

 配られた名簿には、確かにミレイアとレヴィアンの名前が並んでいる。


(同じ班……)


 周囲がざわつき、「うわ、ミレイアと組まされるとかプレッシャーやば」と囁く声が聞こえた。

 それでもレヴィアンは気にした様子もなく、隣で肩をすくめる。


「運がいいな、俺」


「……プレッシャーとか、感じないの?」


「え? なんで?」


「だって、みんな噂してるでしょう。“天才ミレイア様と組まされるのは罰ゲームだ”とか」


 少しだけ、棘を混ぜて言ってみる。

 するとレヴィアンは首を傾げ、本気で不思議そうに訊き返した。


「罰ゲームどころか、ボーナスじゃないか? 優秀な相棒が隣にいるってことだろ?」


「……っ」


 あまりにも真顔だったので、ミレイアは言葉を失った。

 茶化しでも皮肉でもない。

 ただ、ごく当たり前のように「相棒」と呼ばれたことが、胸の奥をざわつかせる。


 それからの日々は、少しずつ色を変え始めた。

 二人で研究塔の上階を借りて、古代魔導式の解析を進める。

 ミレイアが理論を組み立て、レヴィアンが直感的な補足や実験案を出す。

 二人の思考は不思議なほど噛み合った。


「ここ、理論上は正しいんだけど、実際にやると不安定だよな」

「そうね……ここに“理そのものに関わる変数”があるはずなんだけど……既存の式じゃ表現できない」


「だったら、“まだ名前のない変数”として扱えばいいんじゃないか?」


「名前の、ない……?」


「うん。今は正体が分からなくても、“ある”って認めてあげれば、いつかその正体にたどり着けるかもしれないだろ?」


 レヴィアンはチョークを走らせ、黒板に小さく“λ”と書いた。


「仮の名前。いつか本当の名前を知るその日までの、約束みたいなもんだ」


(名前のないものに、仮の名を与える……)


 ミレイアはその発想に、なぜか胸がきゅっと締め付けられた。

 理論上はただの変数の話なのに。

 レヴィアンの言葉は、ときどき人の心の“奥”にまで届いてしまう。


 気づけば、彼と過ごす時間が当たり前になっていた。

 難解な理論を語り合う夜。

 コーヒーの入れ方で軽口を叩き合う朝。

 魔力暴走を起こして笑い合った実験の日。


 そして、ある帰り道。

 三つの太陽が沈みかけた空を見上げながら、レヴィアンがふと呟いた。


「なあ、ミレイア」


「なに?」


「もしさ、“世界のことわり”に触れてしまったら──人はどうなると思う?」


「……突然、何の話?」


「いや、最近ずっと考えててさ。

 この世界が成り立ってる根っこ。魔力より、もっと奥にある何か。

 それをちゃんと理解できたら、俺たち、きっと“誰かの未来”を救えるんじゃないかなって」


 そう言って笑った彼の横顔が、

後になってミレイアの悪夢に何度も出てくることになるとは、その時まだ知らなかった。


(この人は、きっといつか“理”の向こう側に届いてしまう)


 理由は分からない。

 けれど、なぜか強くそう感じた。


 その予感は──残酷なほど当たってしまう。

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