──エルザ、街へ出る──
エルザが学園に来てから一週間が経った。
授業にもだいぶ慣れ、クラスの人気者になりつつある。
しかし——
「……ねえ、ユウ。
私……服が、一着しか無いの……」
放課後の屋上で、エルザは困った顔で指を合わせていた。
確かに、氷の宮殿から来た彼女に衣服のバリエーションなどあるはずがない。
「じゃあ……買いに行く?」
「か、買う……? 服を……?
そんなこと……したことない……!」
エルザは目を丸くした。
しかし数秒後には——
ユウを見上げ、少しだけ期待の混じった瞳になる。
「ユウ……一緒に行ってくれない……?」
その一言が、妙に胸をくすぐった。
「もちろん。じゃあ、街に行こうか!」
「……ありがとう!」
エルザはぱぁっと花が咲くように笑った。
■ 1 街の初体験
学園都市ルミナスの中央街区。
人々の賑わいに、エルザは完全に目を奪われていた。
「……なんて、きれい……!
こんなに光がいっぱいの場所……初めて……」
まるで子どもが遊園地に来たかのような瞳で、左右を見回す。
ふわり、とエルザの髪が光にきらめいた瞬間——
通りの人たちが振り返った。
「ねえ、見た? あの子、めっちゃ綺麗……!」
「まるで妖精みたい……」
「ユウ、あれ彼女? そうなの?」
「えっ!?」
ユウが驚くより速く、エルザはユウの腕をぎゅっと掴んだ。
「……ユウ……離れたくない……」
「え、えっと……?」
「人が多いところ……まだ怖い……
……だから、そばにいて……?」
その声があまりに甘くて、ユウは思わず赤面する。
■ 2 ブティックにて
女性向けの服店に入ると、店員が笑顔で近づいてきた。
「まあ、なんて可愛い子!今日はどんな服をお探しかしら?」
「え、えっと……その……全部初めてで……」
「まぁ、じゃあお兄さんの好みで選んであげては?」
「お、お兄さん!?」
ユウとエルザは同時に真っ赤になる。
「ち、違うんです!ぼくたちは別に、そんなんじゃ……!」
「……ユウは違うの……?」
小さく呟くエルザ。
その瞳は、少しだけ不安げで、少しだけ期待していて。
「い、いや、違うっていうか……!」
「二人とも、まずはこれに着替えてみましょうか〜」
店員は笑顔でエルザを試着室に押し込んだ。
■ 3 エルザ、変身する
しばらくして——
「ユウ……見て、くれる……?」
カーテンから姿を現したエルザは、
——息を飲むほど綺麗だった。
淡い青のワンピース。
肩までの白いカーディガン。
長い銀髪が柔らかく揺れる。
「ど……どう……?」
ユウは思わず言葉を失った。
「すっ……すごく似合ってるよ……!」
「ほんと……?」
「うん。めちゃくちゃ綺麗だと思う」
エルザの頬がふわっと赤く染まり、胸に手を当てる。
「……ユウが言うと……胸があったかくなる……」
「えっ……」
「もっと……いろんな服、見てもいい……?」
その笑顔は、氷の女王ではなく——
ただユウに恋する少女のようだった。
■ 4 帰り道──初めての感情
夕陽が差し込む帰り道。
エルザは両手に大きな紙袋を持って、とても嬉しそうだった。
「今日……一生忘れない。
世界がこんなにきれいだって……初めて知った……」
「エルザのおかげで、僕も楽しかったよ」
「……ユウ」
彼女はこちらを振り返る。
頬を染め、胸元をぎゅっと握りしめながら。
「今日……ずっと胸があったかい……
これって……ユウが言ってた……“好き”って気持ち……?」
「っ……!?!?」
まさかの直球。
ユウは完全に固まる。
エルザは一歩近づき、小さく微笑んだ。
「……もっと知りたい。
この気持ち……あなたと一緒に」
夕風が二人の間をそっと吹き抜けた。
氷の女王は——
もう氷ではなかった。




