夕方。夜の始まり。懊悩。
「調子はどうだい?」
数度声をかけるとジロッとこちらに眼球を向ける。
しかし何も言葉を発さずに口につけた薄い水色の瓶を軽く傾け、カーティスはすぐに咳込んだ。
「これを飲み干したら死のうかと思っていた……。でもいくら飲んでも無くならない。いつの間にかこの悪魔の液体が満たされた瓶とともにここに座り込んでいる。……また繰り返し。頭がおかしくなったのか、それとも絶望が蔓延しているこの世がおかしいのか……」
困ったものだ。脳がアルコールに浸かっていて会話がスムーズに成立しない、カーティスの抱えている悩みや絶望の話ばかりになってしまう。それは確か男女関係のもつれだったか、そんな事は僕には重要ではないのに。
しかしカーティスが『自覚』がある状態になるのは酒におぼれてからだ。
日中に姿を見る事もあるが、こちらの言葉を受けつける余裕も無いようで今以上に話は通じない。絶望に満ちて死んだ顔をしているのは同様だが、酒の影響で今の方がいくらか顔色がいいぐらいだ。
「何時までも何時までも……、何も前に進まないんだ」
不幸な男だ。
周囲の状況は何も変わらない。解決もしないし悪化すらしない。ただ懊悩が続く。
僕自身の頭が明瞭になっている状態での久しぶりの会話だった為、いくらか話をして自分の考えや現状を整理するぐらいで終わった。
それで十分だと思うしかない。
カーティスの反応が無くなってきたので残念ながらその場を後にする。
もしこのままカーティスを放置すれば自殺するかもしれない。そうでなくても酒に溺れての死か、少なくとも体を壊してしまうのは確実だろう。
けれど『今日』はそのような事は起きない。
別に問題はない。
*
日が陰り、夜の始まり。
校舎の端、その手前の廊下を曲がってすぐで止まる。これ以上進むと隠れて密談をしている二人に気づかれる。
カーティスの懊悩の原因がそこにあるのだ。