朝。
*
朝。
難なく起き上がれる。あれだけ飲んだのに酒は残っていない。ジンの薬草由来の臭いも感じられない。いつもの朝の体の状態に戻っている。
「あっ」
それでも、夜に体験した視界とのギャップでふらつき、イーゼルから絵を倒してしまった。
ため息をつき、床に落ちた絵をひっくり返す。絵の端に傷か汚れの様なものがついてしまっている。
カーテンを開け、朝の光で改めて見る。絵に描かれているのは林の中の泉と、傍らに佇む女性。
唐突に思い出した。この絵は実際に見た風景を基に描いている。ここに描いている女性はほとんど面識が無かった上級生だ。その儚げな表情と、整った顔に不釣り合いなあざがついていた。それが強く心に残って――、
もったいないと思った。
そしていつだったか分からないあの時の朝、そして扉を開けた時にその女性がいた。血で汚れていて、何らかの傷を負っているのは容易に想像できた。
だが何もできなかった。関わるなと拒まれ、臆病な僕は結局見ないふりをした。
――それが最初の『今日』だったかもしれない
まともでなくなった頭では片隅に追いやられてしまっていたが、ずっと心に引っかかっていたのだろう。
悲鳴が小さくなってきた。暴力は今まさに振るわれている。すぐに助けなければ。
――そうだ。
扉を開けて廊下に出た所で気づいた。すでにもうあの人は暴行を受けている。すでに怪我を負ってしまっている。
それならば……。
次の『今日』で助ける事を決意した。
それがいい。
威圧的な言動には臆さないよう腹をくくって対処する必要があるだろう。どうすればあの人が傷つかず完璧な状態で助けられるか。時間も早い方がいいだろう。
その方策を考えながら自室に引っ込み扉を閉める。
暴行音と女性のうめき声が微かに聞こえるが、気にならない。
懸念が解決しそうで心が軽かった。
――終わり




