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謝罪

 

「モニカ!よかった。」


 公爵邸に帰った時、公爵夫人とシエナ様、アリアドネ様、ロイ様と順番に抱きしめられた。無事でよかったと口々に言われ、相当心配をかけたようだった。結局マゼンダさんとミランダさんは泊まらずに家に帰ることになった。それはそうだ、家族が心配していただろう。ライオルト様が護衛としてミランダさんを送って行ったので、レオン様がマゼンダさんを家まで送って行き、第三王子殿下はバージェス公爵家の騎士団が護衛で王城へお送りした。アリアドネ様曰く、第三王子殿下はこれから、王太子殿下のお説教が待っているらしい。

「王城にシエナとレオンを派遣したけど、あれは自分ですべきだったわね。自分が攫われたりしたら面倒なことになるっていうのに、全く・・・止めないレオンもレオンだけど、二人は後で私からもお説教よ。」

「お手柔らかにお願いいたします。とはいっても、わたくしといたしましても、第三王子殿下がいらっしゃるのは想定外でした。後方支援をしていただきたかったです。」

 嫌な予感がするのだ。すべてのしわ寄せがレオン様に行きそうな感じがする。モヤモヤを胸の奥に仕舞いこんだ。




 後日、ホーク伯爵家、キュレス伯爵家、バージェス公爵家にドレスト伯爵家、バーン侯爵家より正式に謝罪があった。どうやら、ジェド、ファーブル両名の行方が分からないらしい。リーフラグの前にも検問を設置し、また別の街道にも網を巡らせかかるのを待っていたが、途中で消えてしまったかのように、目撃例さえ私たちが逃げ出す前までで手がかりが全くなかった。また両名は王命で王都には入れないはずだが、下町や賭博場での目撃情報もあり、両家の管理不足を問われ正式に嫡男からは廃嫡となった。さらに両家当主の判断により、貴族からの除籍となった。一連の音頭を取ったのは意外なことに孫を可愛がっていた、ライオルト様のおじい様で前バーン侯爵だった。現侯爵とライオルト様、ドレスト伯爵とともに3家を訪れ、平謝りだった。特にバージェス公爵家には床に頭を擦り付けんばかりだった。

「よりにもよってバージェス家の『D』もちのお嬢さんをさらうとは・・・言語道断だ。」

 そう言っていたので、モニカ自身はあまり意識したことはなかったが、そういえば爵位もちの貴族にはちゃんと本名を名乗りなさいと言われていたな、と考えていた。

「おじいさま、その、私はよくわからないのですが・・・確かにモニカ嬢のお名前には、『D』とついていらっしゃいますけど。」


 モニカ・D・バージェスがモニカの本名だ。


「そうか、お前は最近当主教育を受け始めたんだったな。知らないか。」

 おじい様がチラリと公爵を見た。こくりと頷きあい、ライオルト様に向き直ったおじい様が話し始めた。

「『始まりの四王侯』である四家には独特の名づけがあるんだ。生まれたときに当主より、次期当主になれる血筋であるという証明のようなものだ。途中からつけることもあるが、ほとんどの場合は生涯で一度だけ、生まれたときだけだ。だから認知されていない婚外子にはつかない。正当な血筋のものだけにつく特別な名前だ。」

「普段名乗らないのは危ないからだね。モニカだって名前のせいじゃないけど、2回も攫われているし。バージェス家を継げる子供にしかこの名前はつけられないんだ。」

「なるほど。まだ知らないことがたくさんありそうですね。」

 ライオルト様がコクンと頷いた。私も詳しく聞いたのは初めてだった。

「そうだったんですね、わたくしの姉たちにもついておりましたのでそういうものかと。」

「ジンの娘たちにつけないわけないでしょ。グロリア卿のお孫さんたちだよ。」

 そこで前バーン侯爵のおじい様が、ヒュッと息を呑んだ音がした。

「公爵、それは真か?」

 顔色が一気に蒼くなった。その変わりように、現侯爵もドレスト伯爵も身を固くしていた。

「ええ、モニカは『あの』グロリア卿と、マリエッタ・ザクセン侯爵令嬢の間に出来た、ジン・Ⅾ・バージェスの娘です。ともすれば私よりバージェス家の血が濃い、大事な子ですよ。」

 そうか、前バーン侯爵は私のおじい様と同年代か。だったら知っていてもおかしくはない。お三方が何やら小声で話していた。公爵閣下は気にするそぶりもなく、私のほうに向き、説明を続けてくれた。

「『Ⅾ』は家から出ていくと無くなるんだよ。モニカのお姉さんたちは結婚したらなくなったでしょ?だから僕の姉さん・・・シエナのお母さんにもついていなかったし、シエナにもついていないね。シエナの場合は第三王子殿下と結婚して、二人に子供ができたら、その子に私が付けるつもりだよ。まあその辺は殿下に話してあるけどね。」

 なるほど。そういうシステムだったのか。四王侯だけの習慣で、そういえばライオルト様はライオルト・バーンだからついていない。

「ちなみに、レオン君もレオン・Ⅽ・ローファスだからね。あの子の『Ⅽ』もそのためのものだよ。殿下もね。」

 そうか、第三王子殿下も、リチャード・S・クラウドだ。それに確かクラレンス先生の名前にも『H』が入っていた気がする。みんな『始まりの四王侯』で、家を継げる血筋だということの証明だったのか。

「なんと愚かなことを…。ともすれば、バージェス家だけじゃなく、王家とローファス家まで巻き込むところだったということだ。」

「本当に弁解しようもございません。二人の足取りも、静かの海商会から金を借りていたこと、ギャンブルで大損したこと、ドレスト家の放蕩息子と結託して情報を集めていたことまでは調べがつきました。しかし今現在の居所などが全く出てこないんです。どうやら、他の組織が計画していた広場での陽動作戦に乗じて、貴族子女誘拐を企てたようで・・・。」

 顔面蒼白の現バーン侯爵が頭を下げた。

「そう、それなんですが、なんか順番に違和感があるんですよ。公爵閣下には話しましたが、準備が良すぎるような気がするんです。わたくしたちが乗せられた二つ目の馬車には最初から銃火器が乗っていて、いつ盗んだものなのか。なんというか準備万端すぎたような・・・。」

「広場での騒ぎに乗じて、店舗を襲う計画があったうえで、貴族子女をさらう計画を後から立てた?」

 ライオルト様が首をかしげた。

「はい、計画を立てた後にわたくしたちが近くに行くと情報が洩れて、ついでにさらわれたのではないかと。」

 そこで先ほどから顔色の悪いドレスト伯爵が、重い口を開いた。

「もしかしたらですけど、キュレス家を訪ねて行った時、ミランダ嬢がバージェス家に泊まりに行くと出て行くところだったのですが、それがセガール伝いに、ファーブルに届いだんでしょうか?」

 それは十分にあり得る。その情報を得てどこから情報が漏れたかは、これからしっかり調べなければならない。

「どちらにしろ、この件は近衛騎士団預かりの、国王陛下直轄の案件となったわけだから、しっかり調査されるでしょう。その報告を待ちましょう。」

 公爵閣下が締めると、ドレスト伯爵、現バーン侯爵が、捜査には最大限協力すると約束して帰って行った。


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