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ハヤブサの目

 

 王都は混乱していた。


 同時多発的に起きた商会襲撃。それに乗じた暴動に、王都を守護する警備隊と騎士団は駆り出されていた。

 一報が入って来たのは正午ごろ。広場にて魔物が発生したというものだった。普通だったらあり得ないその報告に、事実確認と事態の収拾のため、人員を向かわせようとしていたところに、今度は商会襲撃の爆発音が鳴り響いた。その後幾分か経って、今度はレオンが、ユニコーンに乗って王城に帰ってきた。

 本来魔物の一種であるユニコーンは人なれしない。話を聞けはそのユニコーンはレオンの愛馬のモカで、3年前に国王陛下がレオンの誕生日に下賜した雄馬だということだった。今朝までは確かに馬だった。広場にいたことによって魔物化現象を起こしてしまったらしい。原因は不明とのことだ。

 そのレオンから入った報告は、バージェス家の馬車が襲撃され、貴族令嬢が攫われたとのことだった。そして第三王子殿下からの指示で、西から南にある砦の検問を設置するようにときた。

 ここまでの報告を聞いて、王太子殿下はしばし、瞠目した。あまりに情報量が多すぎる。

「リチャードからの要請をもう一度言ってくれる?レオン。」

「はい。西から南の砦にて、検問を実施し、銃火器等移動している馬車、不審な馬車は王都より出すな、と。この検問はバージェス家の騎士団に依頼するようにとのことです。」

「ん、言葉足らずだね、つまり、検問の要請書だけ書けってことね。バージェス公爵を呼んできて。今日は確か入城してたよね?」

 扉からあわただしく補佐官が出入りしていた。その中に騎士団の制服を着たそう年の男性が入って来た。略式で礼をする彼を見て、王太子殿下は息を吸った。

「騎士団長、魔物になってしまった馬たちが人に被害を出すかもしれないから、ペガサス航空団の出動も視野に、広場へ騎士団を派遣して。警備隊には襲撃された新緑商会のほうに。視点も狙われているから、他の店舗も一応人員を派遣して警戒して。王都の市民には不用意に外に出ないように、室内待機命令を出して。この伝令は警備隊にお願いしたい。」

「了解しました。」

 理解が早くて助かる。入れ替わりに入って来たバージェス公爵は、概要をシエナから聞いていたらしく、顔色が悪い。その間に書いていた検問の要請書を手渡した。

「検問で引っかかればいいですが。」

「そうだな。」

 そう言ってすぐにレオンとともに執務室を後にした。

「馬鹿リチャード。なんで自分が助けに行っちゃうかな。」

 そんなつぶやきは忙殺のかなたに飛んで行った。






 2度目の爆発音が倉庫地帯から鳴り響いて、それがモニカに関係していないといいと、心の片隅で考えていた。ライオルトと一緒にユニコーンを走らせ、マゼンダ嬢と合流したのは川の近くだった。よく訓練されたハヤブサを追っていくと、欄干についっと止まった。その近くに彼女がいたのだ。

「報告が聞きたい。今モニカはどこにいる?」

 すっと差し出されたのは白地に金糸の刺繍の入ったリボンだった。

「祈力が込められています。このリボンは二つで一つ。片方は、モニカさんの腕に巻き付けてありますので…。」

 そこまで言うとリボンの端がふわりと持ち上がり、ある方角を指し示す。先ほど爆発音が響いた方向に、どうしてもいやな予感がした。マゼンダ嬢を後ろに乗せ、ユニコーンを走らせた。

「君の持っている情報で、何か有効そうなのはあるか?」

 ハヤブサが頭上を飛んでいる。詳細は分からないが、彼女の家の情報伝達手段であるとするなら、自分たちより今の状況を知っている可能性があった。

「そうですね、爆発したのは新緑商会の店舗と倉庫の2か所で、その他の店舗にも強盗が同時多発的に襲撃しているようです。暴動になりかけといったところでしょうか。警備隊に通報が入っていますのでそのうち騎士団が出てくるでしょう。広場の詳細は、わかりません。10頭以上の馬が、魔物化現象を起こし、変わってしまったとしか。」

 そうなった内の3頭は、今リチャードとレオン、ライオルトが乗っているわけだが。

「というかこの子はどこの子です?」

「さあ、その辺にいた比較的おとなしい鞍付きのユニコーンを失敬したからよくわからん。」

「リチャード殿下がそんな無茶なさるとは思いませんでした。心臓が止まるかと、思いましたよ。」

 最近はそうそうやんちゃはできないので、おとなしくしていたが、学園に通う前は擦り傷は当たり前のおとなしくない子供であったので、そんなに驚かれるほうが本人としては意外だった。

「他には?」

「あ、実は途中で馬車が事故を起こしたんです。多分2頭立ての馬車の間のロープか何かに引っかかって、馬車の上に飛ばされて、屋根を突き破って男性が落ちてきたんです。彼は私を逃がす時に協力してくれて、たぶん今もモニカさんたちと一緒にいると思われるんです。青い髪の、20代前半に見えました。名前はヴォルデさんと。犯人の一派ではないのでその点だけご留意ください。」

「あの、兄は本当にそこにいたんですか。去年に監視付きで領地に下がらせていた筈なんですが…。」

 ライオルトの歯切れの悪い言葉に、しかしマゼンダ嬢が否定した。

「私とモニカさんなら見間違いもあったかもしれませんが、ミランダさんがいましたので確実にお兄様でしたわ。」

「ああ、なんてこどだ。」

 どうやら前バーン侯爵であるライオルトの祖父が監視し、こき使っていたらしい。定期的に連絡が来ていたので安心していたそうだ。

 倉庫地帯に入ったところで、リチャードのところに祈力のこもった紙飛行機が飛んできた。この紙飛行機は主に司祭が特別、王族の連絡用に祈力を込めて、おのおのに届くようになっているもので、強化の祈力もこもっているため雨の日にも飛ばすことができる。かなり高度な祈りを重ね掛けするため、一般には出回っていない。

 そこには兄上からの指示通りにバージェス騎士団に要請したからお前は戻って来い、という内容だった。予想通りだったので、それを懐に仕舞って、またリボンの導くままにユニコーンを走らせた。

「ところで殿下、このまま犯人のところに突撃して大丈夫ですか?こちらは戦力になるのは殿下とライオルト様のみ、たいしてあちらは組織立って動いているように見受けられました。きっと二人ではないと思われます。」

「ああ、まずモニカたちが乗せられている馬車の特定をする。そして可能なら奪還するが、人数的に不利ならバージェス騎士団に連絡して、体制が整い次第奪還作戦に移る。こちらはユニコーン2頭だ、荷馬車に遅れは取らない。しかしかなり目立つから距離を開けて走らせなければならない。しかしマゼンダ嬢が追跡できるならそれでもかまわないだろう。それで、今はどんな状況だ?」

「ピッピを…ハヤブサを向かわせます。少し集中してもいいですか?進路はこのまま真っ直ぐです。」

 何をしているのかわからないが、マゼンダ嬢は後ろで祈る体勢になった。頭上にいたハヤブサはすっと倉庫の屋根に消えて行った。しばらく後、彼女が口を開いた。

「倉庫に入ったようですね、そうこの模様は、月に、波かしら。中から数人の気配がします。滑車の音と、ミランダさんの声と…案山子…?」

「月に波、波の山が5つか?」

「はい。」

「では、静かの海商会だな。あそこは主にレスト王国との交易をおこなっている。主な交易品は綿花だったと記憶しているが。」

 案山子か。やはりリーフラグの祭りの荷物に乗じて王都脱出を図る計画らしい。

「行先はリーフラグの可能性が高いな。普段なら案山子を積んでいれば全く疑われることなく王都から出れただろうに。検問をリーフラグの街道から設置しようか。バージェス公爵かレオンに連絡が取りたいな。」

「今からそちらと合流いたしますか。どちらにしろ手が足りません。」

 ライオルトが空を見上げていた。それは正確にはバージェス公爵家の方角だった。

「そうだな。確実に行こう。バージェス公爵家に向かう。騎士団と合流して奪還しよう。」


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