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ゲーム世界の考察

 

 剣術大会の優勝が、レオン様だった件について。


 毎年恒例の合同ダンスパーティで、ミランダさんと私は話し込んでいた。シエナ様の好感度が高い人が優勝するはずの大会だ。そうなるとシエナ様の好感度がレオン様が高かったということになるが、そう言うようには見えない。いま目の前でお二人がいつものように踊っているが、第三王子殿下が一番好感度が高いのは誰がどう見ても明らかだった。


「もしかして剣術大会の優勝者は、条件が違うのかしら?」


 青色のドレスを着て、私の隣で壁の花をしているのはミランダさんだ。3年の生徒会メンバーにとって合同ダンスパーティは運営の裏方に回るため、制服参加が基本だった。動きやすい服装で下級生の飲み物の準備等する。つまりは制服の私と、ドレスのミランダさんという組み合わせで、そこそこ目立っていが、生徒会メンバーは貴族が多いので話しかけられにくい。結果内緒話をするには最適の避けられ具合だった。下級生が奇異の目でこちらを見ていたが、慣れている私とミランダさんはさっぱり無視して話をしていた。


 今まで私たちはシエナ様の好感度が一番高い人が優勝すると思っていた。ミランダさんの情報によればゲームの攻略サイトには一定以上の好感度と一番高い人、そう書かれていたらしい。それが今回レオン様の優勝で、ゲームの前提条件が崩れてしまった。

「どういう事かしら、好感度の高い攻略対象のうちランダムだった?でも私は何週もしたけど、いつも一番高い好感度の人が優勝していたわ。じゃあ一体なんでかしら。」

「ゲームの世界を前提とした、別世界、ということでしょうか?」

「・・・それなら説明がつくけど、そうなるとゲームの知識に頼って行動するのは危ないわ。全く同じイベントが起こるとは限らないし、イベントの発生条件も違うかも。」

 今まで信じてきた前提が崩されるのはかなりきつい。きついが昨年は第三王子殿が相手のイベントは滞りなく発生しているように見えた。シエナ様はそのイベントで常に好感度が上がる選択肢を選び続けているようだった。さすがシエナ様、第三王子殿下のことをよくわかっていらっしゃる。そのためミランダさんが言うには好感度カンストコースだそうだ。1年と2年時に発生するイベントが同時に起こってはいたが、2年時の数個のイベントがまだ発生していなかった。1年時のイベントの続きのイベントなどがそれにあたる。


「全部が違うゲームシステムだ、とするには、イベントがちゃんと起こり過ぎている気がするし、リチャード様のセリフもゲームと一緒だった。好感度もカンストが30なのは一緒のような気がするから、何がどう違うのかっていうのが分からないわ。」

「別のパラメーターがあるとかですか?剣の熟練度とか。」

「なるほど、【あのゲーム】にはなかった別のパラメーターが導入されているのね。それなら納得なんだけど。そうなるとゲームのほうのイベントが不可解になるのよね、セガールが優勝するときのパラメーターも、実は隠しパラメーターが存在していてシエナちゃんが攻略することによって魔法のパラメーターが上がるから優勝できる、とか?」

「現実世界ではシエナ様が応援して、それにこたえるべく研鑽を積んだ攻略対象が、剣術、魔法の腕を磨いたため優勝した、ということになるのでしょうが・・・今回レオン様とシエナ様の接点はあまりないですね。頑張ってね、くらい声をかけたかもしれませんが、お二人が話しているところを見たことがありません。大抵第三王子殿下が一緒にいますから、好感度が上がる余地がないような。」


 シエナ様の声掛けだけで優勝できるほど、剣術大会は甘くない。騎士を目指す騎士科や平民からも冒険者を目指す、腕に自信のある者たちが集まったのがこの学園だ。普段の研鑽、長年の積み重ね、そういったものがものをいう、大変シビアな大会だ。レオン様も第三王子殿下も幼少期より剣を握って、努力していたからの結果だ。ここはゲームとの一番の差異だろう。それに普段の態度を考えるとレオン様のシエナ様に対する好感度は多分15以下だと思う。知り合いから友人の間だろうか。第三王子殿下の婚約者となってからは、それが一層顕著だった。他人行儀になったというか、一線を引いてしまったように見える。



「ミランダ。モニカ嬢。ごきげんよう。」

 壁の花が二人で顔を突き合わせて頭を悩ませていると、ライオルト様がセガール様と一緒に連れ立ってやってきた。ミランダさんが視線をさ迷わせ目を伏せたので私が多少前に出て笑顔で応対することにした。

「あら、ライオルト様。セガール様、ごきげんよう。」

 ライオルト様はいつものようににこやかだ。ただ少しミランダさんをみて困った顔で笑っていたが。

「こんなところでどうされたんですか?」

「今は、レオン様と待ち合わせですわ。ノルマがありますので。」

「ああ、なるほど。・・・。」


 しばしの沈黙がこの場に落ちた。ダンスパーティの華やかな音楽だけがやけに耳に入って来た。セガール様はライオルト様の後頭部をじっと見つめているし、ミランダさんはそっぽを向いて知らんぷりだ。一年前までなら、こういう時きっとミランダさんがお二人に声をかけていたのだろう。しかしこの一年ですっかりミランダさんのセガール様に対する好感度なるものが下がってしまった。学園に入って、男好きだなんだと噂を流されたうえに、婚約者が決まりそうだという話のあるセガール様がミランダさんを追いかけまわし、クレアス様がセガール様と結婚すると公言しているのも相まって、結果、彼女の噂に信憑性を持たせてしまった。昨年の後半はミランダさん自身でその噂の上書きまで行ったため、今ではその噂は鳴りを潜めている。しかしくすぶっているのもまた事実だ。

「ミランダ、僕と踊ってよ。」

「お断りするわ。」

 そんな中で渦中の人と踊るなど、噂が再燃する可能性がある。

「モニカ先輩の後、レオン様に踊ってもらうから。結構よ。」

「は?またあの男!?」

「あの男って何よ!レオン様は見た目と態度に反して優しーんだから!」

 そう言ってミランダさんの腕が私の腕をがっちりとつかんだ。本当は目の前のライオルト様と踊りたかったに違いない。しかしこの状況で誘えば今度はライオルト様がセガール様の苦言の対象になってしまう。それはミランダさんの本意ではないのだろう。それにレオン様ならその辺を察してやれやれ仕方ないですね、で踊ってくれそうだ。普段から生徒会で特に仲の良い3人組であるという認識をされているようで、最近はめっきり一緒にいても意外な顔はされなくなった。それどころかミランダさんのお家からレオン様のお家へ魔物の毛皮の発注、その他魔石などの交易が大量に増えたらしく、両家の仲は急速に良くなったらしい。魔石は最近の研究により魔物化促進の効果まで発見され、ますます高騰の兆しだったので、キュレス伯爵としては先行投資の意味もあるんだろう。ちなみにライオルト様のバーン侯爵家も、ローファス家との交易をスタートさせるべく交渉中という話だ。


「最近仲良くしすぎなんだよ!」

 そう言いつつライオルト様の背をガンガン叩いていた。彼がそれを黙って受け入れているのは、両家の取引のきっかけになったのが、彼がミランダさんの誕生日にプレゼントした魔物の毛皮のマフラーだったからだ。きっとセガール様に文句を永遠に聞かされていたのだろう。少しぐったりとしていた。

「ミランダは、僕と、結婚するのに!」

 そんな言葉を大声で吐いて、周りの生徒先生はこちらに無遠慮な視線を送っていた。


(今の聞きました?やっぱり噂通り他の人の婚約者しか狙わないのかしら?)

(セガール様もよくやるわよね、あんなに一途に。)

 そう、本当になぜなのか分からないが、セガール様の評判はクレアス公爵令嬢から求婚を受けているが、ミランダ伯爵令嬢に誘惑され、幼少期から支配されていたため何度捨てられても一途な令息、という扱いだった。何か噂を流している人たちの意志でもあるのだろうか。


「はっきり言ってくれてありがとう!セガール!これで堂々と真実を流布できるわ!わたくし!ミランダ・キュレスは!あなたとだけは絶対に結婚しないとここに宣言します!」

「・・・、なんでなんだよミランダ。一緒にいてくれるって言ったじゃないか。」

「9歳の時にね!でももういいでしょう!そのお役目は婚約された方にお譲りするわ!」

「婚約なんかしてない!」

「それならそれでいいわ!でもね、私が変な噂を流されたのにひとっ言も庇ってくれなかったのは一生、忘れないわ。私そんな薄情者と結婚なんて絶対いやだわ。私、知っているんだから。私の不名誉な噂をあなたが全く否定してくれなかったこと!それどころが助長するような態度をとって!」

 セザール様が初めて、困ったように俯いた。

「僕が何を言っても、無駄だっただろ?ミランダをかばってもうわさ通りなんだとしか思われない。」

「そうね、でもたとえ焼け石に水でも、渦中のあんたにはこう言ってほしかった。『ミランダなんて興味ない』ってね!」

「そんなこと言ったら、ミランダが言質を取ったって、婚約してくれなくなるだろ?!僕はお前の性格よく知ってるんだぞ!」

 半泣きの彼に、その場にいたミランダさんを知るものはああ、言いそうだな、と彼女を見た。当の本人はケロッとした顔だ。

「当然言うに決まってるでしょ。私は絶対あんたなんかと結婚したくないもの。むしろそのくらいのリスクを取ってまで守ってくれるんだったら、まだ考えたわ。でも無理だったみたいね。あんたは保身に走って私を助けてくれなかった。ライはもちろん、出会って一年も経っていないモニカ先輩もレオン様も、シエナちゃんも、みんな庇ってくれたのにね。それってつまりはさ、あんたと結婚したら、私が変な噂立てられても、あんた助けてくれないってことよね?ドレスト伯爵夫人の評判なんてどうでもいいってことよね?」

「だってミランダは、あれくらいの噂なんて、すぐに揉み消せるじゃないか。」

 ああそうか。私は唐突に理解した。確かにミランダさんなら噂程度すぐに収めることができたはずだ。現に社交界にこの噂は広がっていない。自分の味方を見極めるために、終息を遅らせたんだ。つまりこれはセガール様への最後の恩情だったのか。


「ミランダちゃん、大丈夫?」


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