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4人でお揃いのドレス


 バタバタと過ぎて行った新年会、第三王子殿下とシエナ様の婚約発表。次のロイ様とアリアドネ様の結婚式が近づいてきた。新年会から1週間しか開いていないのは、めったに王都にいない貴族たちが一堂に会しているためだ。


 ロイ様は国境の守り人と言われるメーファス侯爵家が持っている、ジェルゼ伯爵位を継ぐことになった。ロイ・ジェルゼ伯爵とアリアドネ・ジェルゼ夫人。レスト王国との国境のため、国内と言ってもだいぶ遠い。気軽に会えない距離に行ってしまう。胸が少し締め付けられたが、今はお祝いの席だ。もっともお二人は第三王子殿下が卒業するまではこちらにいるそうだ。



 そして今、4人乗りのバージェス家の馬車には、結婚式に出るために着飾ったシエナ様、マゼンダさん、ミランダさん、私が乗っていた。それぞれ自分の家の馬車で行ってもよいのだが、実は今日のドレスをお揃いの色違いにしようと4人で決めていたので、それならば前日から一泊して女子会しよう、という話になり盛り上がってしまい、マゼンダさんには悪いがまきこんでしまったということだ。

「全然いいよ、女子会は多いほうが面白いし、お泊りできてうれしいわ。」

 と何とも天使な言葉をもらったのだ。それに終始ニコニコ楽しいそうにしてくれたのでこちらも胸をなでおろしたところだった。ミランダさんと話が会ったらしく、何やら楽しそうにしていた。いや、ミランダさんのコミュニケーション能力も半端ないな。ありがとうミランダさん。


 昨日の夜は楽しかった。バージェス本邸のシエナ様の部屋でお菓子をつまみながら、おしゃべりに興じたのだ。マゼンダさんの婚約者の話や、シエナ様の第三王子殿下の話、ライオルト様の話や、セガール様の話。いろいろな話をして、先生の話や学園のことまで深夜まで話していた。侍女長が注意しに来るぐらいだった。

 馬車に揺られながら、しかし昨日の続きでおしゃべりが止まらない。

「そうですわね、好きなモチーフ、マゼンダさんは千日紅ですわね、髪飾りのポンポンがかわいらしいわ。」

 マゼンダさんのドレスはピンクと紫、白の入った美しいデザインだ。腰にはそのコンセプトに会った飾りがついていた。マゼンダさんの場合はピンクと白の花だ。

「わたくしの名前の由来だそうですわ。お母さまの好きな花で、色がマゼンダなのだそうですわ。」

「え~素敵な由来だわ。」

「マゼンダ様にぴったりだと思います。」

 ミランダさんがスカートの端のカエルを見てため息をついた。

「私、カエルなんて言わなきゃよかった。ドレスの刺繍を決めるときテンション上がって変なこと言っちゃったよ。お店の人もじゃあ湖畔の風景とセットにしましょうね~ってフォローしてたし!結局メインはカワセミになったし。」

「ミランダちゃんは途中、お店にひとに圧倒されてたものね。」

「ちょうどいいモチーフに落ち着いたと思いますわ。」

「うん、自分でもそう思う。」

 カエルのモチーフも可愛らしいが、アリアドネ様の結婚式は湖畔の聖堂で行われることになった。つまり湖畔の水辺の鳥であるカワセミはぴったりということだ。青を基調としたドレスに、モチーフは鳥のミランダさんは、茶色の髪も相まってカワセミのごとく美しいデザインだった。腰のあたりには鳥が羽を広げたような飾りがついていた。ちなみに首についている襟巻はライオルト様からの誕生日プレゼントだそうだ。

「モニカ先輩は金魚の案が通ってよかったわね。」

 まるで自分のことのように笑ってくれたミランダさんに笑顔を向けた。

「はい。わたくしもお店の人が必死にフォローしてくださり、何とか形になりましたわ。」

 私は金魚の赤に黒と白の入ったデザインだ。最初黒の出目金を提案して、結婚式なのに暗すぎるとミランダさんとは違い容赦なく却下された。結局白と赤多めの、黒の指し色で落ち着いた。赤はあまり着ないので少し心配だったが、アリアドネ様の御髪は赤なのでどうしても着たかった。腰には金魚のしっぽのような飾りがついていて、銀糸で縁取りがありきらりと光り、地味な私に輝きをプラスしてくれていた。

「シエナさんは蝶々ね、とってもぴったりだと思う。」

 そう、シエナ様は新緑色のドレスに、金糸で蝶の刺繍が入っていた。腰には蝶の羽があしらわれており、まるでシエナ様自身が清廉な白い花であるかのようなデザイン、とてももう言葉で表すのがおこがましいくらいだった。

「それに、リチャード殿下の婚約者としてもぴったりだわ。偶然なのにね?」

 ミランダさんが意地悪く笑うと、もう、いじわる、と口をとがらせていた。そうこう言っている間に到着したようだ。湖畔の聖堂、ここは最近若い新婦たちに人気の教会だ。さすがアリアドネ様トレンドを分かっている。



 前を行く馬車には公爵夫妻とローファス伯爵、シエナ様のお父様が乗っていた。馬車の扉開いて、出迎えてくれたのは、第三王子殿下とレオン様だった。

「リチャード!迎えに来てくれたの?」

 シエナ様が嬉しそうに第三王子殿下の手を取った。輝く笑顔で出迎えた彼は、相変わらずゲームの第三王子殿下と違わぬ王子様っぷりだった。シエナ様が以前おっしゃっていた前と違う、という違和感が私にはわからなかった。お二人の中では何かあるのだろうか。

 第三王子殿下とシエナ様はお二人の世界に入って行ってしまったので、私たちにはレオン様が手を貸してくれた。

「レオン様~おはようございまーす。あ、今日は近衛の制服なんですね。」

「近衛隊の儀礼服です。」

 外からミランダさんの和やかな声がした。マゼンダさんの次にレオン様の手を取って馬車から降りた。

「レオン様お迎えありがとうございます。」

「・・・」

 なぜか呆けているレオン様に小首を傾げた。その後ややあってスマートに手を離された。

「珍しいですね、モニカ嬢が赤を着るなんて。」

 ああ、それで驚いていたのか。確かに婚約者時代も赤と青は着ないようにしていたし、しかしその反動で、好きな青色ばかり着ていた。

「今日のコンセプトは金魚ですわ。」

「かわいいですよね、モニカさんは赤も似合うわ。」

 マゼンダさんがピンクの髪飾りを揺らしながらにこりと笑ってくれた。ああ、美女だわ。

「マゼンダさんはまるで花妖精のようですわ。ミランダさんは湖畔にたたずむ女神のごとしですし、シエナ様は白い花に誘われた美しき蝶ですわ。わたくしお三方と一緒にいられて感無量でございますわ。」

「あ、モニカ嬢が相変わらず元気なのはわかりました。…アリアドネ様がご一行をお待ちですので、控室へご案内いたします。」

 先に歩きだしていた公爵夫妻と第三王子殿下たちの背を追って、私たちも歩き出した。



「レオン様?、あの、アリアドネ様の、あの控室?って?どどどどういうことですかあ???」

「なぜそんなに動揺なさっているんです?」

 レオン様が困惑気味にミランダさんを見て、私に問いかけた。いえ、私にもわかりませんが。

「アリアドネ殿下はすべての令嬢にとってあこがれですから。緊張するのは当然ですわ。」

 マゼンダさんが落ち着いた様子でにこやかに答えた。

「マゼンダさんは動揺なさっていませんわよね?」

 私が振り向くと明らかに挙動不審になっているミランダさんと、額にうっすら汗をかいているマゼンダさんがいた。あれれ…。

「あ、アリアドネ様はとっても気さくな優しいお方ですわ。そんなに肩ひじ張らなくても大丈夫ですわよ。わたくしも小さいころからお世話になって、本当のお姉さまのように思っておりまして、面倒見の良い、いい方なのですわ。」

「それは!モニカ先輩が、モニカ先輩だからでしょうが~!」

「それはよくわかりませんが…公平に物事を見る、立派な方ですから。いつも通りなさっていれば大丈夫です。」

 レオン様のフォローにも、いつも通りって何ですかと阿鼻叫喚という様子だった。

「えっと、新年会で挨拶なさいますよね、あんな感じで大丈夫ですわ。」

「挨拶するのは父ですし!王族の方と言葉を交わしたことなんて、学園に入ってから第三王子殿下とお話ししたくらいです!お顔を拝見したことだって、その時が初めてだったというのに。ましてや、アリアドネ王女殿下の結婚式の控室なんて…。」

 確かに親族しか入ってはいけない場所だ。しかし…。

「バージェス公爵夫人は、アリアドネ様の叔母様ですから、ご挨拶しないほうが不自然ですわ…。腹を、くくりましょう。」


 マゼンダさんがあきらめたようにミランダさんの肩に手を置いた。私はそっとレオン様の袖を引いた。

(レオン様、そんなに緊張することなのでしょうか…。もしかして私の感覚が違うのでしょうか。)

(…申し訳ありませんが、俺も王宮育ちなので感覚が違うほうなのかもしれません。アリアドネ様は小さいころから知っていますし、どちらかというと姉のような気持なので。)


 私とレオン様にとってアリアドネ様は唯一第三王子殿下に鉄拳制裁を食らわせられることのできる、頼りになるお姉さんだ。王族の中で差し引きなしに一番親近感のあるお方だし、悪い噂なんてないはず。


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