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壁にドン

「好感度が11ということは、やっぱりあの時の【恋が叶うクッキー】、効果があったのかもしれないわ。レオン様と同じ好感度、9だったたとして、クッキーで10になって、剣技大会で11になったと考えるのが自然だわ。」

「わたくしが渡しても効果があったみたいでよかったですわ。」


 好感度が10以上になると、夏休み前の合同ダンスパーティで、パートナーになることができた。このイベントは好感度の上りが大きいので、なんとしてもシエナ様と第三王子殿下にはパートナーになってもらわねば。この企画も生徒会が仕切らねばならないので、忙しいことこの上ない。その前には定期テストもあるというのに。

「確かダンスパーティに誘うのはイベントがありましたわよね?どこで誘うんでしたっけ?」

「テスト前の勉強会だったような。」

「勉強会のイベントは1年の後半に発生しますわ。今はないですけど…。」

「あの勉強会って、レオン様とリチャード殿下と、シエナちゃんでしたよね。」

 うーんと考えながら、昼休み中に、先生に各クラスに配れと言われたプリントを配布していた。3年2年のクラスまで終えて、後は1年生のみ。階段を下りて角を曲がろうとしたとき、ミランダさんに唐突に腕を引かれ、壁にドンされた。ミランダさんはスレンダー系の長身美人なので、あまり背が高くない私はなすがままだ。


「しずかに、シエナちゃんとリチャード殿下が来る。」

 私もミランダさんに習って、壁の陰からこっそり覗いた。

「最近二人で話していることが多くない?やっぱり好感度のせいかしら。」

「そうですわね、あら。」

 こちらに目線が向いていないことをいいことに、第三王子殿下をぶしつけに見ていた。最近距離を取っているので、気が付かなかったが、シエナ様と本当に楽しそうに話していた。あの方はあんなに表情豊かな方だったのか。これもやはり、ヒロインという特別な存在の賜物なのだろう。目の前に立つには、隣に立つには勇気のいる方だが、遠目に見るには麗しい方だ。

「相変わらず憎らしいほどイケメンね。シエナちゃんと歩いていると絵になるわ。」

「本当ですわね、やはり第三王子殿下はこの距離から、こっそり見るものだと再確認いたしました。」

 よくあんな方と婚約とかしていたな、私。

「そうだ、今度のダンスパーティ、パートナーになってくれないか?」

 おお、第三王子殿下がスマートに誘った。

「あら、私でいいの?」

「昔からよく踊っていただろ。一番慣れてる。」

「まあ、そうね。わかったわ。どんなドレスがいいかしら。」

「…今度一緒に見に行こうか。誕生日も近いし、プレゼントするよ。」

「いいの?うれしいわ。行きましょう!」

 このスチルも見たことがある気がした。

「なんだかわたくしたちが何かしなくとも、トントン拍子に進んでいますわ。」

「そうね、心配しなくてもいいみたいね。経過観察はするけど。」


「ねえちょっと、二人何してんの!」

 いきなり後ろから声をかけられて、振り向くとセガール様が真っ赤な顔で怒っていた。人通りの少ない、端にある階段から、のぞき見していたので、まさか声を掛けられるとは思わなかった。

「なにって、」

 そう言ってミランダさんと自分の体勢が、いまだ壁ドン状態だったことに気が付いた。おやおやと思い、少し距離を取った。

「ねえちょっと、ミランダ、この人と最近一緒にいるのってそういう…?」

「はあ、なに言ってんのセガール?」

「何って、その、どういうことか説明してよ。」

「説明って、ただ廊下のシエナちゃんを見てただけでしょ。」

「そうじゃなくて、どうしてそんなに距離とか近いの。」

 セガール様の反応が面白いが、さすがに可愛そうになってきた。私の勘だが、セガール様はミランダさんのことが好きなのではないかと思う。しかしミランダさんはそれを依存だと認識していた。

「別にモニカ先輩と距離が近いくたって、いいじゃない。」

「じゃあ聞くけど、ミランダはその人のことが好きなの?」

「うん、好きよ。お話ししていて楽しいもの。ずっと一緒にいたいわ。」

「えっ、」

 なんかどんどん勘違いが加速しているような気がするのは気のせいか?

「あの、わたくしからも一言よろしいですか。」

「あんたの意見は聞いてない。」

「何その態度!先輩に向かって!」

 ああ、また口論が始まってしまった。声を聞きつけて誰かがやって来た。


「セガール、ミランダ、モニカ先輩。何しているんだ?」

 ライオルト様。良かった。

「あ、助かりました、わたくしはどうしたらいいかちょっと考えておりましたの。」

「ライ、聞いてよ、ミランダがこんな人気のない場所で、そいつと抱き合っていたんだよ!」

「は?何見間違いしてんの?抱き合ってなんかないわよ!例えそうだとしてもあんたに関係ないでしょ!」

「ミランダ、ちょっと落ち着いて。モニカ先輩、事実はどうなんですか。」

「…お恥ずかしながら、わたくしとミランダさんはいわゆる…。」

 そこでわざとらしく言葉を切った。セガール様が息をのんだのが分かった。

「デバガメ、と言いましょうか。シエナ様と第三王子殿下の逢瀬をこっそり見ておりましたの。あまりに下世話でございましょう?はしたないので言いたくなかったのですわ。」

「デバガメ、ですか。」

 私はセガール様の手を取って、壁にドン、とした。

「ちょっと!なにすんの。」

「わたくしがミランダ様として、こういう体勢で見ておりました。それからセガール様はこちらを向いてくださいまし。セガール様がわたくし役ですわ。」

「近いって!」

 反応がいいし面白い。

「わかりました。モニカ先輩、離れてやってください。」

 からかうのはこのくらいにしておいてやろう。ライオルト様の言葉に、下からじっとセガール様を見上げると、真っ赤な顔があった。

「もうわかったから!」

 私はすっと離れ、ミランダさんの隣に立った。

「わかっていただけて幸いですわ。」

「さすがモニカ先輩。セガールがこんなに速く引き下がるなんて。いつもはもっとしつこいのよ。」

「あら、しつこい男はモテませんわよ。」

「結論から言うと、何もなかったってことでいい?ミランダも、セガールも。」

「私は最初っからそういっているわ。」

「…、だって、でも、もういい。」

「セガール…、ミランダ、ミランダは小さいころから女の子とお茶会するより、僕らと追いかけっこするほうが好きだったじゃない。なのに最近一緒にいられなくて、セガールは寂しいんじゃないかなと思うんだ。」

 ミランダさんが黙って、ライオルト様の言葉を聞いていた。少し思うことがあるようだ。

「私が、お茶会に行かなかったんじゃないわ。そもそもハブられていたのよ。私どうも、近隣のご令嬢に好かれていなくて。」

「領地が近いとお茶会がありますわよね。わたくしも誘われたことがありませんけど。」

「バージェス家のご令嬢はそうでしょう。誘いにくいわよ。でも、伯爵家令嬢なんて、いくらでも呼びつけられる立場でしょ?なのに呼ばれたことなかったの。学園に入ってよく分かったわ。私も変な噂が流されてた。男好きの遊び人だって。人の婚約者に平気で手を出す淫乱女。いったい誰が流したんだか。」

 ミランダさんはライオルト様をちらりと見た。

「心当たりとかないの?ミランダならわかるでしょ?」

 セガール様のまなざしが一気に心配の色になった。

「…ええ、でも無理ね。流れた噂ってなかなか消えないものよ。モニカ先輩のうわさだって、流した本人忘れてるんじゃない?なのにまだ残っているから。」

「そうなんですよね。1年の前半から流されて、定期的に供給されているようで。消えないんですよね、人のうわさは~とは言いますけど。」

「ホント、そういう真実じゃないこと流されるのってうんざりするわ。後々社交界でも流されたらたまったもんじゃないもの。」

「わたくしの噂も似たような噂ですわよね、なんでしたっけ、第三王子殿下を誘惑する、未練たらたらな陰湿な元婚約者でしたっけ。あ、じゃあ今度はわたくしとミランダ様が付き合っているという噂を流して、その男好きという噂を上書きするのはいかがです?面白そうではありませんか?」

「え、何それ面白い!やってみよっか!誰に広めてもらおうかな。あ、二人も手伝ってよ!」

「チョ、それはやめよう、なんでそんなことになるの。」

「そうだよ、二人とも。そんな事したって犯人が分かるでもないし。」

 いい案だと思ったのだが。

「ところで私の男好きのうわさを一気に消す面白い案があるのだけど。」

「なんですか?」

「今度のダンスパーティ、モニカ先輩と踊るのよ!これなら真実をみんなが見るから、噂じゃないでしょ。どうせパートナー決まってないし、シエナちゃんは殿下と踊るし、噂も消える。どうよ。」

「わたくしは、かまいませんが、ミランダ様と踊りたかった殿方には悪いですわね。」

 じっとセガール様を見ると慌てて目をそらされた。が、意を決したようにミランダさんのほうを向いた。

「そんなに踊る相手がいないなら、パートナーくらいやってやってもいいけど?」

「あなたはクレアス様から誘われるんだろうから、気を使わなくていいわよ。」

 クレアス様はわたくしと同じクラスの、ライオルト様のお姉さまだ。あまり話したことはないが、快闊な方のようだ。

「別にバーン家でやるパーティでもないんだし、ミランダはセガールと踊ったらいいじゃないか。姉さんだって他にパートナーがいるかもしれないだろ。」

「…そんなのわからないでしょ。とにかく私はモニカ先輩と踊るの!」


 そう言ってミランダさんに手を引かれ、1年の教室に入っていった。テキパキプリントを配っていくミランダさんに習って、私も配る。廊下にでるとシエナ様と第三王子殿下はいなくなっていたが、セガール様とライオルト様が待っていた。ミランダさんがそれを無視してさっさと次の教室に回る。教室の中でミランダさんに声をかけると、小さな声で帰ってきた。

(…小さいころからそうなの。クレアス様はセガールのことが好きなのよ。私が仲良くしていると、邪魔して来るの。私的にはライとの邪魔さえしなきゃ別に構わないのだけれど。)

(じゃあお噂も?)

「たぶんね。」

 ミランダさんがため息をついて、余ったプリントを渡してきた。それを合わせて最後の人たちに配る。

「でもセガールったら全く全然気づいてないのよ。ホントあんなにあからさまなのに。なんでなのかしら。しかも文句言われるのは私なのよ。勘弁してほしいわ。」

「どうしようもないことで文句を言われるのは、一番苦しいですね。もしや、シエナ様の相手役に第三王子殿下を選んだのは…。」

「ライは論外。レオン様は攻略が面倒。クラレンス先生はそもそも攻略できるか分からない。セガールはクレアス様が絶対に邪魔して来る。消去法よ。」

 なんだか納得。セガール様への塩対応は、そういう事情もあったというわけか。しかしそれだと…。

「ミランダさんがライオルト様と踊れませんね。」

「そうなの。クレアス様ににらまれて、近づけないの。誘えないし…誘ってくれたらって思っていたんだけど、あれじゃあ無理ね。」

 はあ~~と大きなため息をついて、お二人の元へ行くミランダさんの背中には哀愁が漂っていた。


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