剣術大会と占い師の館
剣術大会当日がやって来た。
会場を運営のために走り回っていた時、ライオルト様とレオン様が柱の陰にいたので声をかけた。ライオルト様のベルトには、ミランダさんが送ったお守りが付けられていた。
「お二方、まずは一回戦突破おめでとうございます。お怪我無く安心いたしました。」
「ありがとうございます。」
「模造刀ですし大丈夫ですよ。」
「でも怪我をするときはしますでしょう?気を付けてくださいまし。」
「はいはい、わかりました。」
そこまで言って、柱の陰に第三王子殿下がいたことに気が付いた。ああだからここにレオン様がいたのか。
「第三王子殿下、いらっしゃったのに気が付かず、申し訳ありません。」
「ああ、いや、別にいい。」
「この間の高熱はもう大丈夫ですか?」
「ああ。もう下がった。」
まだ気だるげだ。これは機嫌が悪くなる前に逃げよう。
「さようですか。それではわたくし失礼させていただきます。皆様頑張ってくださいまし。」
それだけ言って逃げるように仕事に戻った。
順調に剣術大会は進んでいった。決勝はレオン様と第三王子殿下だった。延長戦になり最後の最後で第三王子殿下が勝った。
「ああー惜しい惜しいですわ!もうちょっとだったのに!」
ついそう叫んでしまった。運営なのに。でも本当に惜しかった。来年はシエナ様のイベントがあって、相手役の人が優勝する仕様なのだ。どんなミラクルがおこるのか、魔法科のセガール様でさえ優勝するのだ。だから実力で勝てるのは2年まで。ああなんて惜しいのか。それに悔しい。本人はいたってクールに表彰式に出ていた。三位はライオルト様だ。
お三方を控室に案内すべく先導していると、廊下にシエナ様とミランダさんがいた。眩しい笑顔で第三王子殿下を迎えた。
「すごかったわ!リチャード様、おめでとう!」
これには第三王子殿下も珍しく柔らかい声で答えた。
「ありがとう、シエナ嬢。」
アレ、これって2年の時のスチルだった気がする。思わずミランダさんを見ると、彼女も驚愕の表情をしていた。そのままシエナ様を促し、控室の前についた。案内を終えてもまだ和やかに話しているので放っておいて、お茶くみに徹した。
「惜しかったですね、わたくし、思わず叫んでしまいました。」
少し心ここにあらずの状態のレオン様に、小さく声をかけた。肩がピクリと反応した。
「いえ、実力の差が、最後に出ましたね。さすが殿下です。」
落ち込んでいるというよりは、放心しているようで、なんとも不思議な顔をしていた。
「…、試合中声が聞こえたんです、シエナ嬢の声が。あんな歓声の中、聞き分けられるものなんですね。」
「シエナ様のお声ですか。きっと声援が耳に届いたのでしょうね。」
「…貴女は、応援してくれたんですか?」
「おや、心外ですね、わたくしはレオン様にオールインしましたけど?」
「生徒会が何しているんですか。それにあなたは一応公爵令嬢でしょうが。」
「オッズがよかったんで。」
それって俺のほうが不人気だったってことでしょう、とやっと眉間のしわが無くなった。いつもの無表情だ。ミランダさんもライオルト様に声をかけていた。
「何かありましたらお呼び下さい、わたくしは片づけをしてまいります。」
そう言って退出しようとすると、ミランダさんが付いてきた。手伝ってくれるらしい。レオン様はさすがにお疲れのようで、ライオルト様と話していた。
「あれは確実に2年の時のスチルですよ。」
真剣な顔でそう言い出した。
「わたくしもそうだと思います。もしややっと学校前からの『仕込み』が目に見える形で実を結んだのでしょうか?」
「何したの?ちょっと怖いんだけど。」
「そりゃあ、わたくしのお茶会に連れて行ったり、あえて二人きりにしたり、シエナ様の手作りケーキをプレゼントしたり、いろいろしました。しかし学校生活のほうが、好感度が上がっている気がするのです。」
「やっぱりリチャード殿下の好感度が高いと思うんだけどね、放課後に占い師に行ってみよう。」
「そうしましょう。」
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「今日はリチャード様と、いっぱいお話しできたわ。」
ニコニコと幸せそうなシエナ様にほっこりしつつ、三人で馬車に揺られていた。この間第三王子殿下に遭ったのもこの通りだ。シエナ様と話をしている第三王子殿下は大変機嫌もよく、楽しそうだった。やはりシエナ様の美しさと可愛らしさは万能なのだ。
「試合中声が聞こえたって話してくれてね、私びっくりしちゃった。大きい声出していたつもりだったけど、聞こえるものなのね。あんな歓声だったのに。」
「あ、レオン様も聞こえたって言っていましたよ。」
「え、そうなの?私の声って変わってるのかしら?」
「そんなことないわ、いい声よ。まるで音楽みたい。」
「もうミランダちゃんたらそんなんじゃないわよ、大げさ。」
三人でくすくす笑っていた。今日の疲れも吹っ飛ぶようだ。揺れが収まったので馬車から降りて、占い師の館にやって来た。少し細い路地に行き、そこにある紫色の看板。まさにゲームのままだ。そして本日は営業中!
「よかったやってる。この間視察に来たときは閉まっていたのよ。さあ、行きましょう。」
「わあ、あやしー。いいかんじね。」
扉を開けると香の匂いだろうか、独特のいい匂いがした。全体的に暗く、椅子があった。
「あらあら、いらっしゃい。」
女性にしては低い、落ち着いた声で、紫色のベールをした人が奥からやって来た。
「本日はどなたを占うの?」
私とミランダ様は真ん中にいたシエナ様を勢いよく指した。
「ちょっと、私なの?」
シエナ様が笑っているが、私とミランダさんにとっては当然だ。
「後で私も占ってもらうけど、今日はシエナちゃん!」
「わかったわ、じゃああなたはこっちに来てね。他二人は待ってて。」
あ、やっぱりそういう感じか…。
「あの、見学させていただくことはできますか?」
「この子がよかったら、いいけど?どうする?」
「モニカも一緒に占ってもらう?私たちの将来について。そうね、そうしましょうよ。」
「え、しかし、シエナ様は今日のところは、あの方のことを占ってもらったらと思うのですが…。」
そうこう言っている間に、シエナ様に手を引かれ、椅子に座らされていた。ミランダさんは後ろに立っていることにしたらしい。
「私の占いは、天からの歌。頭に降りてきた言葉を言うだけよ。私には意味が分からなくても、貴女にはわかるかもしれないわね。」
刻々と頷くと、占い師は歌い出した。ただ鼻歌を歌っているだけのようだ。
『質問はなあに?』
その言葉を聞いた瞬間、シエナ様が鼻歌に合わせて問いかけた。
「私と、モニカの将来はどうなるのかしら?ずっと一緒にいられるかしら?」
『ああどうかどうかお許しください!私は私は見て見ぬふりし見殺しました。
ああどうかどうかお許しください!私は私は見下し馬鹿にし罵倒しました。
ああ、ああ、なんて恐ろしい。私のせいであの子は死んだ。
ああ、ああ、なんて浅ましい。巡り巡って同じむじな。
どうかどうかお許しください!今世は幸せになりたいのです!タンポポの君は、わたくしの知らないところで幸せになって!』
美しくも悲しい歌だ。鼻歌だけなのに、伴奏が聞こえてくるような、不思議な声だった。
「…私とモニカの曲なら、許して、とはどういう事かしらね?私のせいであの子は死んだは、ちょっと不穏よね。モニカはどうだと思う?」
「すみません、きれいな曲だな、と思ってきいていました。確かに今言われれば不穏な歌詞ですね。今世、と出てくるから、この話は過去のことでしょうか?」
「あ、確かにそうね。」
「今世に幸せになるには、タンポポの君も幸せにならないといけないという事ね。これは重大なヒントよ。あなたたちが過去の何かに後悔をして、しかし反省して次に進もうとしているのよ。」
「前の占いの時も、モニカは死の暗示があったけど、そういう星の元の生まれたのかしら。」
シエナ様がため息をつきながら、呆れたようにつぶやいた。
「じゃあ次は誰かしら。そこの後ろの子?」
私は立ってミランダさんに席を譲った。何を占うの?と首をかしげるシエナ様をよそに、ミランダさんは躊躇なくいった。
「シエナちゃんへの、リチャードの好感度!」
『11』
「え、ミランダちゃん?」
「シエナちゃんへの、ライオルトの好感度!」
『1』
「シエナちゃんへの、レオンの好感度!」
『9』
「なるほど、具体的に質問するといいのね、分かったわ。」
「な、何が分かったのよ、数字を言われても分からないわ。」
「私も意味が分からないわ。数字しか降りてこないなんて、こんなこと初めてよ。」
それはそうだ、ゲームの内容を知っている人しかわからない数字だ。ということはこの占い師に数字を下ろした人物は確実に、ゲームの好感度について知っているということになる。私とミランダさんがこの世界に来た、元凶の可能性さえあった。
「あなたは何者なの?」
思わず言ってしまった。
『古くは妖精。神と呼ばれたこともある。今日は特別に宵闇の神。』
「妖精。神…。」
妖精、この世界に妖精っていたかしら。確か建国神話に出てきたような気がした。あとで調べよう。
『幸せに、なりなさい。』
そう言って占い師は机に倒れこんでしまった。肩をゆすると、顔をあげた。無事みたいだ。
「ああ、一瞬気が抜けちゃったわ。さてどうする?」
「幸せになりなさいって言ってたわ。きっと悪い人じゃないのね。えっと、宵闇の神様は。」
「そうね、面白かった。そろそろ帰ろっか。」
そう言ってミランダさんが立ち上がったので、御代をお支払いして、店を出た。
「でも、シエナちゃんのリチャード殿下の好感度、結構高いわね。良かったじゃない。」
シエナ様が一気に赤くなってしまった。
「わからないでしょ、高いか低いかなんて。」
「だからわざわざライオルトとレオン様も聞いたんじゃない。出会ったばかりのライオルトが1なのはそうでしょ。もともと知り合いのレオン様が9、なら、11のリチャード殿下はいいほうじゃないの。」
なるほど無作為に選んだのかと思っていた。
「ミランダさんは頭がいいですね。」
「んも~もっと褒めて先輩!」
すぐ調子に乗るけど、いい後輩ではあった。はいはいといなしていると、シエナ様が隣の雑貨屋に目を奪われていたので、ミランダさんに小声で話しかけた。
(これで確信しましたね、11は一年間プレーしたくらいの好感度です。今日2年生のスチルとイベントだったのがこれで説明ができます。)
(そうね、じゃあ2年のイベントを1年ですると考えて、計画を立てましょう。)
頷きあって、雑貨屋によるべく、シエナ様の背を押した。