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親心子知らず

「父う…、失礼いたしました、バージェス公爵もいらっしゃるとは思いませんでした。」


 クリスは父の執務室の扉を無遠慮に開けてしまったことをさっそく後悔した。涼しげな眼もとでこちらを流し眼で見ていたバージェス公爵が、お気になさらず、と、一歩引いた。退室していないが父が何も言わないので、そのまま報告することにした。


「今年の河川の水量の調査結果が出ました。」

「うん、そこに置いておいてくれ。ケイオスもいることだし、魔研の報告も聞こうか。」

「はい。魔研によると、数年前に魔力が植物に与える影響について、一応実験をしていたようでした。ただ、王都にある魔研の実験棟で行ったようで、それでは不十分とだと判断しました。結果が得られる方法を魔研に再度検討するよう、要請しました。具体的には…これはモニカ嬢が発案されたことですが…、」

 ちらりとバージェス公爵を見たが、ポーカーフェイスで感情が読めなかった。

「井戸の水と川の水でどちらが魔力の影響を受けるのか、などなど複数案を出してその中から数個良いものを選んで実験に移りたいと考えております。」

「ふむ。結果はいつごろになるか?」

「成長の早い植物を使いますので、一か月ごとの報告書を作成いたします。全体としては3か月から4か月でしょうか。」

「そうか。それで、ほかには?」

 父上はじっとこっちを見ながら、探るように見てきた。なんだろう他に何かあっただろうか?

「その他の報告はありません。」

 溜息をついてから目線をそらされた。

「うん、ケイオスは何かあるか?」

「似たような実験を我が領でもと考えております。今回の実験の指揮はモニカにとらせるつもりです。報告は来年の年明けに。」

「わかった。…相変わらず、モニカ嬢は優秀だな。」

「おほめいただき光栄です。この件については本人も乗り気ですから。」


 公爵の声は抑揚がなく、冷たくて突き放した印象だった。この間モニカ嬢と一緒にいるときのことを見ていなかったら、そういう人だと思ってしまう。普段はただただ娘に甘い父親なのだろう。この間のニコニコ顔を思い出す。将来の弟の義父だということを初めて意識した時は、弟をいじめ倒すまではいかなくとも、冷たくあしらわれたらどうしようかと心配したものだが、意外とこの人とうまくやっているらしい。それはまあ、あの優秀なリチャードのことだから、大丈夫だろうが…。

「ああそれと、モニカの婚約解消の件ですが、来年の春で終了ということでよろしいですね?」

 はい?!たった今大丈夫だと思っていたんですが?婚約解消…なぜ?

「…モニカ嬢が乗り気でないなら仕方ないが、婚姻は本当に不可能なのか?彼女とリチャードならどう転んでも上手くいく。」

「しかしながら、モニカは第三王子殿下のことを怖がっていますから、無理ですね。あきらめてください。」

 そんな…最近はやっとダンスを踊ってくれるようになったと、照れながら報告してくれたのに。

「最近は王宮医師から、モニカ嬢の過呼吸についての報告があったが…。」

「どう考えても第三王子殿下のせいでしょう。公爵家では過呼吸を発症したことはありません。」

「しかしだな…。」

「…弟は本当に、モニカ嬢のことを好いていますよ。怖がっているのだって何か行き違いが合ったはずです。婚約解消なんてそんな…。」

「それは第三王子殿下の婿入り先のご心配ですか?」

「そんなのは関係ありません、弟に好きな人と結婚してほしいと思うのは、兄として当然でしょう?」

「そうですね、私は…父親としては、モニカにも好きな人と結婚してほしいですから、その気持ちはわかります。だからこその結果でしょう。それに私は学園に入ってからの行動まで口出ししませんから。学園で第三王子殿下がモニカを振り向かせたら、結婚を再度認めたっていいです。モニカがいいと言ったらですが。」

 こんなに二人がすれ違っているとは思わなかった。頭が痛い。ケイトは何をやっているんだよ。

「そうですね、3年、あるなら何とか…。」

「私はそこで別のご令嬢と良い仲になると思っています。そうなればウチとしては文句ありませんね。皆様には頑張っていただいて。」

「はあ、まあどうなるかは本人ら次第だからな。出来ればバージェス家がいいんだが。」

「婚約時に、強要はしない、とおっしゃっていましたよね?」

「…ああ、覚えている。大丈夫だ。ただ、ジンはなんと?」

 誰だろう聞いたことがない名前だ。

「何も。モニカが結婚したい人と幸せになれれば何でも良いそうです。」

「ああ、あの人も、お前も無欲すぎて扱いずらいな。」

「おや失礼な。あなたが強欲すぎるんですよ。よく言うでしょう、二兎追う者は一兎も得ず、と。」

「…私はそこまでじゃあないだろう。」

「ええ、存知ております。」

 二人の顔は、かすかに笑っていた。


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