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王太子妃ラペット様の占い

「じゃあまずはシエナちゃんの占いをしまーす!」


 行かなくていいのなら行きたくなかった。第三王子殿下の機嫌が急落するのは目に見えていた。現に席についてから隣の第三王子殿下はまったく口を開かない。


「はいっよろしくお願いします。」

「そう固くならないで。じゃあ宝石占いでもしようかしら。」

 ここは瑠璃の宮後宮の手前の前庭の東屋だ。王太子妃を訪ねる人はこの庭に面した応接室に通された。その奥は男子禁制で王太子妃殿下の家族も入れない。護衛も女性騎士の担当だ。

 そしてなぜこんなところにいるのかと言えば、結婚式の次の日にはラペット様から公爵家に手紙が届いたのだ。もちろんお茶会の手紙だったが、お断りの手紙を書いたところ、今度は謝罪したいと手紙が来た。当日に粗相してしまったと後悔がつらつらと書かれており、中身はちょっとずれている謝罪だがぜひ、直接会って話がしたいとあった。気にする必要も謝罪の必要もないし、貴女は悪くないと再三書いたのだが、お茶会に招く、の一点張りで、とうとう私が音を上げた。第三王子殿下に状況を説明して、一度お茶会に行くことになった。ここでもラペット様と第三王子殿下の間で何かあったらしいが、詳細は聞いていない。

「この袋の中に宝石が入っているから、何か一つ取り出してみて。それが今あなたに必要なパワーよ!」

 ニコニコ無邪気なラペット様は初めこそしょんぼりしていたが、今は上機嫌にシエナ様に袋を差し出していた。シエナ様は恐る恐る袋に手を入れた。

「がぶーーー!」

「きゃー!」

 その時ラペット様が袋の口を閉めてシエナ様の手首をつかんだ。シエナ様の悲鳴に思わず私は立ち上がった。きゃはははとラペット様は楽しそうに笑っていた。

「ごめんごめんびっくりした?大成功!」

「びっくりしました。」

 シエナ様は少し笑って一つ宝石を取り出した。白地に虹色がキラキラ舞っているのはオパールだ。

「オパールね。」

 私はシエナ様の手の仲を覗き込んだ。角の無い三角形だ。

「きれいですわね。」

「うん。きれい。オパールって初めて見たわ。」

「オパールは純真無垢、幸運、忍耐って言葉があるわね。あなた自身無垢で純粋そして運もいい。その運の良さと努力をする忍耐があれば、手に入れられないものはないわね。一番欲しいものも必ず手に入れることができる。…そのオパールはお守りにあげるわ。」

 にこりと笑ったラペット様はシエナ様の手の中にオパールを握らせて、その上からぎゅっと手を握った。

「うれしいお言葉を、ありがとうございます。」

 美女と可憐な少女が、薄曇りの庭でひそやかに手を握り合っている…美しい画だわ。


「次はあなたね。宝石占いは数が合わないから、違う占いにいましょう。そうね、近い未来の注意点、なんてどうかしら。」

 パッと手を離し、私に話しかけてきたラペット様は、占い道具の入った籠をごそごそとしていた。

「あなたの顔を見たときから、ちょっと心配になっちゃったのよね。近い未来に不幸がおこりそうなの。何かしら、占い師の勘、ってやつかしら。すごく心がもやもやして胸騒ぎがするの。リチャード君も巻き込まれそうだし、気を付けてほしくて今日呼んだのよ。あ、そこに座ってね。」

 籠から顔をあげずにそう言ったラペット様の横顔は暗かった。私はおとなしく席に座った。

「これにしましょう。私の一番得意な占い。古代文字占い」


 年季のはいった革の袋が目の前に置かれた。中には石が入っているのか、カチャカチャと音を立てていた。

「この占いはね、古代文字が書かれた石を4個選んで、雷型に並べるの。袋の中に手を入れてちょうだい。」

「はい。お願いします。」

 私は袋の中に手を入れた。

「いい?私に近い未来、不幸は降りかかりますか?って思いながら、これがいいなって思ったやつを一つ取り出して、テーブルにおいてね。ゆっくりでいいわ。」

 近い未来に不幸が降りかかる…非常に不気味だが、魔術師の家系のラペット様に言われてしまっては信じるしかないだろう。私の未来に不幸が降りかかりますかと念じながら一つ取り出した。そして文字がかかれている石を指定された場所に置いた。息をのむラペット様が、両手を口にもっていったのが見えた。

「もう一つ引いて。今度はその解決策は何ですか、と願いながら。」

 解決策、実に知りたい。解決策は何ですか。そう思いまた一つ石を取り出し、机に置いた。

「わかったわ。では今度はその事象の原因ね。なぜ私にそのような不幸が降りかかるのですか?」

 確かに気になる。なぜ不幸が降りかかるのか。石を取り出し、指定されたところに置いた。

「最後、その結果どうなりますか?」

 また一つ、机に置いた。

 ラペット様は黙って石を真剣に眺めた。時折テーブルに出した石を撫でながら、歩き周り考えていた。


「…一つ目の石から話そうかしら。」

「はい。」

 ラペット様はアルファベットのHに似ている石をツンと指した。

「ハガル。自然災害の予兆。いい悪いにかかわらないハプニング。予測不能の事態。これは人の死の暗示かしら。あなたの身近な人が亡くなるかもしれない。」

「身近な人とは…。」

 いきなり衝撃的な占い結果だ。

「それだけじゃない、貴女かもしれない。」

「モニカが死ぬかもしれないってことですか。」

 今まで沈黙を守っていた第三王子殿下が口を開いた。

「そうね、身近な誰かだったらあなたも危ないかもしれないわ。リチャード君。」

「それよりモニカです。その続きはどうなんですか?」

 ツン、と二番目に引いた石を、ラペット様は指した。+に似ている石だ。

「…その解決策は次に引いた石。ニイドの逆位置。忍耐力や束縛。自由を奪われた状態と出ているわ。」

 解決策が自由を奪われた状態…?続いてアルファベットのМような石をさした。

「次、なんでそのようなことになったのか。エオー。馬、移動、援助。雇われの身の者に、また、援助を受けたものに危害を加えられる可能性がある…。」

 最後の石に視線が集中した。トランプのダイヤのような形に足が生えていた。

「その結果どうなるのか。オセルの正位置。遺産、継承、故郷。私が最初の石を人の死、と読んだのは、この最後の石がオセルだったこともあるの。なにせ遺産、という意味があるからね。最初は何か災害に巻き込まれるのかと思ったのだけど…。」

「あの、二つ目の石の意味がちょっと分からないのですが。ハプニングの解決策、ということですよね。」

「そうね、そこが難しいところよね。ニイドは不足している、とか忍耐が必要な時期だ、とかの意味があるのよ。あと足りないものに目が行くとかも。そういうことを考えれば、視野が狭くなっているともいえそうね。逆位置はそれがさらに強く出ているということなの。」

「なるほど。」

「総括すると、近い未来に思いもよらないハプニングに巻き込まれる。原因は馬での移動、かしら。援助を受けたものにも一応気を付けて。その結果、遺産を受け取る事態になるかもしれない。解決策は視野を広く持つこと。要求に答える、というのも頭に入れておいて。そんな感じね。」

 あまり良き結果ではなかったが、石の文字でこんなに色々分かるとは面白い。


「最後は第三王子殿下ですね。」

 石を片付けていたラペット様はそうね!と元気になった。

「何占いにする?あ、恋占いとか?」

「婚約者がいるので結構です。私もその古代文字占いで、簡単なものでいいです。」

「あらそう?婚約者と仲良くなるためには何をしたらいいですか、とかじゃなくていいの?」

 ぐっと詰まったが、さっさと終わらせたいのかいいですとだけ言った。

「モニカにハプニングが起こるのはいつくらいですか。」

「それを占うんなら本人がやったほうがいいんじゃないの?」

 こちらを向いた気配がした。

「では、第三王子殿下の学園生活はどうなるのか、というのはどうですか。」

「無難な結果になる気がする。」

「占ってみなければ分かりませんわ。」

 すっかり冷めた紅茶をすすった。

「じゃあ2個にしましょう。学園生活はどうなるか。その原因は何か…。」

 ラペット様がそういったところで第三王子殿下が袋に手を突っ込んで一つ取り出した。

「もう、早いわよ!アンスルの逆位置ね。神の言葉、伝達、口。逆位置だから会話がうまくいかないとか、意思疎通がうまくいかない、情報に惑わされないようにする。コミュニケーションをとる機会が少ないとか出ているわ。」

 アルファベットの崩れたFのような形をさしながら、ラペット様があまんまり良くないわね、とつぶやいた。

「逆に言えば次の石でそうならないためのヒントが貰えるはずよ。」

「ではこれで。」

 さっさと取り出した石には何も書かれていなかった。

「ありゃ。ウィルド…運命とか、宿命ね。何か大きなターニングポイント。物事の変化がある時。あきらめて受け入れたほうがよさそうね。」

「そうですか。」

 興味の無いように石を革袋に戻した。神の言葉に運命か。この世界ではゲームの展開は決められたレールのようなものということだろうか。シエナ様と恋に落ちて幸せなエンドに向かっていく。ゲームの神様が定めた運命。

 第三王子殿下がもういいだろう、と立ち上がったので、私たちも椅子を引いた。

「面白かったですわ。わたくし、自然災害と馬に気を付けますわ。」

「そうね、後背中にもね。」

「あの、王太子妃殿下、オパールありがとうごさいました。」

「ああ、いいのよ、シエナちゃん。お父様にお世話になっているのはわたくしたちなのよ。それにあなたならラペットって呼んで頂戴な。」

 ら、ラペット様、とつぶやき、ふんわり天使のように笑ったお二人に、やっぱり美女の絵が強い…!素敵、と眺めていた。

「レオ」

「はい。」

 目くばせに何かを察してシエナ様にエスコートを申し出ると、先に二人で庭の垣根に行ってしまった。第三王子殿下が私の手を引き、そのあとについて行った。

「今日のことはあまり気にしないでくれ。」

「しかし、魔術師の占いは高い確率で当たりますので、何か対策をしたいと思います。大変得難い機会をありがとうございました。」

「いや…。」

 歯切れの悪い第三王子殿下は最近の定番だった。いきなり大声を出さなくなったので、心臓は落ち着いていた。そういえば、手を引くときも前のようにあざが残るほど強く握られない。やっと力加減を覚えてくれたのか。これならゲームのころには、女性に青あざを作る第三王子殿下はいないのだな。よかった。万が一にもシエナ様にあざができてはいけない。

「先に行っていてくれ。少し義姉上と話してくる。」

「はい。わかりました。」


占いは調べましたがあまり正確ではないです。雰囲気でお読みください。

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