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地獄の報告会

「ご案内ありがとうございます、第三王子殿下。」

 休憩室までついたので当然ここまでで帰っていくだろうと思いお礼を言ったが、扉を開けた第三王子殿下は帰る気配はなかった。

「礼を言うのはこちらのほうだ。」

「どういうことです?」

 私は公爵夫人に手を引かれ、暖炉のそばのソファーに座った。一番暖かいところだ。気を使わせてしまっているのが心苦しい。シエナ様が水差しから水を入れ私にくれたので、ありがたくいただくことにした。隣には当然のように第三王子殿下がドカリと座っていた。ここにはメイドも従者もいなかった。レオン様も扉の前に立っているようで姿が見えない。


「王女殿下が来て3週間か。その間ずっと追っかけ回されていたんだ。あの人はしつこいから…。」

 疲れ切った顔で、だらしなくソファーに座る姿など、初めて見た。口から洩れるのはため息ばかりだ。

「王女殿下が第三王子殿下の婿入りを望んでいらっしゃるのは本当なのですね。先ほどレオン様とお話いたしましたが、第三王子殿下はそのつもりがないとか。」

「!ああ、私はこの国から出ていく気はない。」


 レスト王国はゲームでは、アリアドネ様が王太子妃としていく予定だったのだが、今はロイ様とご婚約のため、第三王子殿下に白羽の矢が立ったのだろう。そのままアリアドネ様がゲーム通り嫁いでも、流行り病で早逝なさってしまうのだ。しかし第三王子殿下が婿入りならどうだろう?やはり死んでしまうのだろうか?この体力の有り余る第三王子殿下が?ちょっと想像できない。まあ、本人が行きたくないと言っているし、シエナ様とハッピーエンドを迎えてくれないと困ってしまう。なにせゲームの知識しかないのだから、あまりゲームから逸脱すると、どうなるのか予想が立てられない。攻略対象はまだいるが、ここまで第三王子殿下ルートで考えていたので、ここからの方向転換もかなり面倒だ。


 暖炉の炎を見ながら手に持っていたコップで水を飲んだ。

「それで、王女殿下は放っておいてよいのですか?国賓であらせられるので国際問題になったりとか、そういうのは?」

「普段相手しているので大丈夫だ。それよりも1か月ぶりにあった婚約者のほうが大事だろう。」

 またまたそんな心にもないことを…。きっとお相手するのが嫌で逃げてきたのだろう。

「さようですか。」

「彼女のところにはディーン兄上に行ってもらおうと思っているんだ。」

「第二王子殿下ですか。」

 赤毛で切れ者と噂の第二王子殿下は先ほど、王女殿下の近くにいらっしゃったように見えた。

「ああ見えて相性もいいみたいだし、留学という形で話を進めている。今年ディーン兄上は卒業だから調度いいだろうし。両者に情報を流しているところだ。」

 んん、これはもしや国家機密では。さらっと言わないでほしい。いまだに震えが止まらない。目の前のソファーに座った公爵夫人とシエナ様が心配そうにこちらを見ていた。

「王女殿下の件は了解しました。」

 それで、王女殿下が第二王子殿下とお話をする時間を増やすために、ここに留まっているということですか。話がひと段落ついて、コップをテーブルに置くと、隣から視線を感じた。第三王子殿下に見られている。

「何か、ありましたか?」

「いや、久しぶりにモニカにあったな、と思って。」

「さようですか。」

 いや、こちらを見過ぎではないですか?気まずい。たかだか1か月会っていなかっただけではないか。そんなに珍しい生き物にあったようなことを言わないでほしい。手紙だって…、そう言えば王宮への手紙はたくさん送ったが、近況報告の手紙はあまり送っていなかったかもしれない。それでも1か月で何か変わるわけでもないのだからいいか。ずっとこの誕生日のための準備をしていたので、全く気にならなかった。

 疲れ切っている第三王子殿下は、しかしいついきなり怒り出すかわからない生き物であることに変わりはない。機嫌を損ねないように黙っているのが吉だろう。どんなに視線が刺さっていても。

「モニカ、もう寒いのは大丈夫かしら?」

「はい、もう平気ですわ。」

 第三王子殿下に出ていってもらいたいが、このままだと公爵夫人が先に閣下のところに戻るかもしれない。もうちょっと一緒にいたかったが、それはわがままだろう。

「そろそろ会場に戻りましょう。公爵閣下にご心配をおかけしてしまったままです。それに本日の主役が会場にいないのも、よくないですから。」

 私の体調はもともと悪かったわけではないので、この辺でいいだろう。

「本当に平気なの?大丈夫?」

「大丈夫ですよ、また悪くなったらここに来ますね。」

「そうよ無理はダメなのよ。」

 シエナ様は天使。優しくてほんと可愛い。

「だからもうちょっとリチャード様とここにいるべきよ。私と叔母様は先に叔父様のところに行っているから。ゆっくりしていて。さあ行きましょう叔母様。」

「そうねそうしましょうか。未婚の二人が密室に二人きりはよくないから、レオン君にいてもらいましょう。」

 ちょっと待って、おいていかないで…シエナ様がウィンクをし公爵夫人の腕を引きさっそうと出て行った。代わりに中に押し込められたレオン様がきょとんとしていた。どうしたらいいのか…。


「とりあえずレオン様はこちらにどうぞ。」

 席を勧めて私は立ち上がり、今まで公爵夫人が座っていた所に移動しようとした。

「ここが一番暖かいんだからここにいろ。」

 またも右二の腕を掴まれ強引にソファーに戻されてしまった。痛い。その間にさっさとレオン様に席を取られてしまった。

「時間ができましたのでご報告申し上げてもよろしいですか?」

「なんだ?」

 先ほどより幾分背を正した第三王子殿下が、レオン様のほうを向いた。

「先ほどモニカ嬢に、王女殿下のご意向について、王妃陛下からお聞きになったという話です。いつ、どのようにそのようなお話になったのかを、モニカ嬢からお聞きしたほうが良いかと思いまして。」

「王女殿下は婿入りしてくれる王子殿下を探しているという話ですか?」

「ちょっと待ってくれ、その情報をいつ?」

「去年、第三王子殿下とお会いする前に、王妃陛下とお茶を飲む機会がありましたでしょう。あの時に。」

「確かに『王女殿下がうるさそう』と言っていたような気がする。その時に母上から婿を探している話を聞いたのか?」

「はい。今の段階で婚約解消をすると、レスト王国の王女が黙っていないので、解消は2年後の学園入学前まで伸ばしてくれと。ですから婚約はあと1年で解消だと思っておりました。王妃陛下がおっしゃるのならそうなのかなと。」

「つまり、母上は王女殿下除けにモニカに婚約続行を依頼したんだな。気に入ったとはそういうことか。」

 何やら考え込んでしまった。こういう時の第三王子殿下はいきなり怒り出すことがあったりするので要注意だ。樽に一本一本、剣を差し込んでいる気持だ。緊張しながら慎重に言葉を選んだ。

「もう少し正確に申しますと、レスト王国王女殿下より、王子をどっちか頂戴、と言われているとおっしゃっていました。」

「母上に打診があったんなら、クリス兄上と私のどちらかということだろうな。頭が痛い。きっと母上と王女の間では姉上を王太子妃にと考えていたところに、姉上の婚約で焦ってうちに来たということか。」

 王妃陛下のお子様のほうが婚姻を結ぶにはよいとの判断で、第三王子殿下にこだわるんだろう。レオン様が手をあげた。


「一つ。バージェス公爵家として、婚約解消のメリットとは何でしょう?確か現公爵閣下が王妹殿下とのご結婚の際からの約束と聞いておりますが。」

 それは初耳だ。

「初めてお聞きする話です。」

「そうなのか、公爵から聞いていないのか。伯母上と公爵の結婚の時、国王の王子か王女を後継ぎの配偶者として臣下させる、という約束だ。」

「なんだかちょっと不自然な約束ですね。従兄弟同士での結婚の約束ですか。ああ、公爵閣下と公爵夫人は王妃陛下のことをとても好意的に見ていらっしゃるようなので、そう考えれば自然なことなのかもしれませんね。…それに、それほど昔からの約束を反故にするメリットは、考え付きませんね。」

「まあ王族貴族だと従兄弟同士の結婚は珍しくないからな。しかし…母上と公爵と公爵夫人に何か特別なつながりでもあったのか?それこそ聞いたことはないが。シエナ嬢の母親の話なら腐るほど聞いたが。」

「公爵閣下に平手打ちをしてプロポーズを急かしたと聞きました。お二人とも大変王妃陛下に感謝しているご様子でした。」

「「平手打ち…。」」

 レオン様と第三王子殿下の息がぴったり合ったので少し面白い。

「ロイ卿とモニカ嬢のような関係だってことですか…。」

 なんでちょっと哀れなものを見る目でこちらを見るんですかレオン様。私は平手打ちなんてしていません。

「つまり、公爵は母上のお願いなら婚約解消も考えているということなのか?」

「そうですね…、どうなんでしょう。わたくしといたしましては…」

 そう言った時、隣から息をのむ音が聞こえてきた。あの第三王子殿下が息をのむ?そんなわけないので聞き間違いだろう。

「婚約は学園入学前まででよいんじゃないでしょうか。第三王子殿下ももっといろんなご令嬢と話す機会があっていいと思います。幼馴染のわたくしとばかりいるより見分も広がりますし、気の合う友人ももっと見つかるかもしれません。学園はそういう機会に恵まれた場所ですから。」

 小さい社交界と言われているのは恐ろしいが、上手くいけば知り合いを増やせる絶好の機会だ。

「つまり、学園を無事卒業して、私に気の合うご令嬢がいなかった場合、モニカと結婚してもいいんだな?」

 なんでそうなるのか。というより、学園でシエナ様に攻略されて無事ゴールするからそんな心配しなくていいのに。

「そうですね、わたくしもバージェス公爵家に婿入りしてくださる方を探さねばなりませんので、そういう方が居なかったら、第三王子殿下に婚姻を打診するかもしれませんね。」

 個人的には絶対に打診しないが、そこは公爵閣下の領分なので口出しできない。初耳の約束の件もあるので、王家との間に決め事があったらどうなるかわからない。最悪の場合病気の治った弟ジスに公爵家を継がせることも視野にありそうだ。そうなったら私は家令あたりに落ち着いて領地を治めるのを手伝えたらいいなと思う。

 ゲーム通りに行けば第三王子殿下はシエナ様と結婚してバージェス公爵家を継いでいるので、どうにかなるだろう。


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