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第三王子殿下の誕生パーティ

嫌だと思っていても時間は流れるもので、ケイト卿にエスコートされて会場に来た。本日は新緑のドレスに公爵夫人が用意してくださったパールのアクセサリー一式だ。ドレスのスパンコールと相まってコントラストが非常に美しい。これをシエナ様が着て下さったらどんなに美しかったか。私たちの後ろでレオン様にエスコートされて歩いているシエナ様の姿は、ピンクの可愛いドレスで、一足早い春の精霊を思わせた。ざわざわと和やかな喧騒が聞こえてきたので、気合を入れなおす。このパーティを無難にやり過ごすことだけを目標に、頑張るつもりだ。パーティ会場には先に公爵閣下と公爵夫人が居たので、そそくさと合流した。ケイト卿は一礼して扉から出て行ったが、レオン様はシエナ様の隣に残っていた。


「レオン様は第三王子殿下のお側にいなくてよいのですか?」

「俺は毎年会場にて、モニカ嬢の護衛です。」

「去年もおりましたの?」

「はい、遠くに。今回は諸事情によりお近くにいます。」

全然気が付かなかった。しかし諸事情とは?レオン様が公爵閣下のほうを向ので、つられて視線を動かすと閣下はにっこりとほほ笑んでいた。

「今回はレスト王国の王女殿下が王宮に滞在されているからね。警備が多いんだろうね。モニカは私から離れなきゃ大丈夫だよ。」

真実半分、と言ったところか。こういう駆け引きは正直苦手なのだが、社交界では日常風景だ。

「はい。わかりました。」

レオン様が何か言いたそうな顔をしていたが、公爵閣下の指示に逆らうなんて考えられないのでごめんなさい。公爵閣下に挨拶に来た貴族の方々に、シエナ様と一緒に挨拶をしていた。みんな面白いくらいにシエナ様しか見ていない。それはそうだろう何と言ってもこの可愛らしさ!今回は長い銀色の御髪をあげて、大人っぽい髪形にしているせいか白いうなじがチラリと見えていた。10点。それに加えてはじける笑顔がまぶしい。10点。シエナ様が動くたびにふんわり揺れるスカートがはい、可愛い。10点超えて120点!


「王子殿下が並びに王女殿下がご入場します。」

会場にかけられた声に、ざわつきが刹那静かになった。音楽と拍手だけが鳴っていた。王太子殿下と第三王子殿下、アリアドネ様そして第二王子殿下だ。二階席にある椅子の前に立った。

「国王陛下、王妃陛下のご入場です。」

ひときわ大きな拍手に迎えられ、国王陛下が王妃陛下をエスコートしてやってきた。手をあげると拍手と音楽は鳴りやんだ。

「この度は第三王子、リチャードの誕生日に集まってくれて礼を言おう。これもひとえに~」

校長先生の話を聞くときの気持ちで二階を見上げていた。メイドが人込みを縫うように静かにドリンクを配っていた。

「国賓を紹介しよう。蝶の始まりの地レスト王国より両国の友好のためいらっしゃった、王女殿下である。この度は王子の誕生日パーティに出席いただき感謝に耐えない。」

紹介された王女殿下はにこりと笑って手を振った。二階にいるのであまりよく見えないが、濃い金髪の活発そうな美女だ。派手なドレスに負けず、王女殿下に似合っていた。レオン様の言った通りわがままだったとしても、これだけの美女のわがままなら何でも聞いてしまいそうだ。いや待てしかしやっぱり、我らがシエナ様のほうがかわいらしい美少女であることに変わりはない。

「最後にリチャードよ、誕生日おめでとう。でなみなグラスは持ったか?…乾杯。パーティを始めよう。」

みなグラスを掲げた後に一口飲んだ。未成年はジュースだ。私も一口飲んで、グラスを回収してきたボーイに残りを渡した。トイレに行きたくなったら困るのだ。緊張で朝からあまり食べられなかったのも相まって、ビュッフェスタイルの食べ物たちを見ていると本当におなかが鳴りそうなので、視線をあげた。レスト王国の王女殿下がさっそく第三王子殿下と何やら話していた。私は何も見ていないですよ、と視線を下げて公爵閣下の背中を見ることにした。国王陛下に挨拶に行かねばならない。今は王弟殿下が壇上に上がって挨拶をしていた。その次がバージェス公爵家だ。順番のためにざわめきを取り戻した会場を階段下に移動したところ、上からの強烈な視線を感じたが、恐ろしくて顔をあげることができなかった。お二人のほうからだ。見られている。背中がぞくぞくして公爵閣下と夫人の背を追った。震える膝を無理やり動かして、階段を上り切ると、シエナ様と一緒に公爵夫婦のお隣に歩み出た。国王陛下と王妃様の前に立った。

「この度は第三王子殿下の誕生日おめでとうございます。」

「ああ、ありがとう。ヴィオラも久しぶりだね、元気そうでよかった。」

「ええ、お兄様も健康に気づかってくださいましね?」

「ああ、わかっている。」

「王妃殿下もお久しぶりです。お元気そうで何よりです。」

「ええ。」

?なんだろう、王妃様がちょっと静かすぎる。普段の様子からもうちょっと何か言ったりするのは?…そういえば去年も王妃様は一言だった気がした。公爵夫婦をガラスの瞳で無感情に眺めていた。お二人はもう少し王妃様とお話ししたいようだったが、王妃様は話に全く乗ってこない。気のない返事ばかりだ。見かねた国王陛下がこちらを見た。

「そういえば、モニカ嬢がリチャードにプレゼントをくれたんだろう?毎年ありがとう。今年のはあの子がずいぶん気に入ったようでね、さっき自慢されてしまったよ。」

「父上!余計なこと言わないでください!」

急に大きな声を出してこちらにツカツカやってきた第三王子殿下に驚いて、息を止めた。震え出した手をごまかすために握りこぶしをぎゅっと握った。

ここで少し気になった。今、自慢されてしまった、と言わなかったか?

「いいじゃないかうらやましいな、モニカ嬢がリチャードのために、ハンカチに刺繍を入れてくれたんだろう?可愛いタンポポ。」

ちょっと第三王子殿下、アレ、国王陛下ニ、見セタンデスカ?

「たまたま来ていた司祭が純粋な幸せを願っていて、とても美しい祈りだって絶賛していたよ。」

「…え…はい…。」

「もう黙ってください父上。」

「だってすごくいいものをもらったからね、ちゃんとお礼を言わなくちゃね。ありがとう。」

「いえ…、大した出来では…ないので…。」

「あら、よくできていたわよ、モニカ。」

公爵夫人が私の背中をポン、とした。

「モニカ?」

うまく声が出なかった。アレ、が、国王陛下のみならず司祭様にも見られたのか。司教様に見られなくてよかったと思うべきか、回し見しないでくださいというべきか…。なんてことをしてくれたんだ第三王子殿下…受け取った後は煮るなり焼くなりとは思っていたが、晒しものにするとは考えていなかった。最悪。最悪だぁ…。泣きそう。

「じゃあそろそろ行くわね。」

珍しく公爵夫人が早めに切り上げた。礼をして第三王子殿下らの椅子のないほうの、階下への階段がある廊下へ行こうとした。すると先ほどまで国王陛下に突っかかっていた第三王子殿下が、こちらにやってきた。私に手を出してエスコートを申し出てきた。いや、本日の主役が席をはずしてはいけないだろう。

「あら、リチャード様行ってしまうの?主役はここにいないといけないのではなくて?」

よく通る女性の声に振り向くと、女神のように美しい女性がにこりと笑っていた。噂のレスト王国の王女殿下だ。

(そうですね、第三王子殿下は本日の主役であらせられますから…。)

小さい声で、第三王子殿下の耳に届くように言ったつもりだった。

「でしたら、本日は私の誕生日ですので、婚約者のモニカと一緒にすごしたいのですが?よろしいですよね、父上?」

「そうだな、行ってきなさい。」

聞こえてないようだ。ニコニコ笑った国王陛下と、ムスッとしたが何も言わない王妃陛下を見比べた。問題大有りのように思うのだが。

「しかし、国賓の方がいらっしゃっていますし…。」

「大丈夫だ。」


何が大丈夫なんですか?王女殿下がこちらを思いっきりにらんでいますよ。美女の怒った顔は迫力があって余計恐ろしい。国際問題に発展したらどうしよう。足が動かない私に業を煮やした第三王子殿下が、背中に手を回し、腰のあたりを押した。反対の手はいつものように二の腕を掴んで、無理やり動かす。あまりの痛さに顔を思いっきりしかめてしまったが、声は出さなかった。


「リチャード様、エスコートするなら普通にしてください。モニカにくっつきすぎです。」

公爵閣下の声が後ろからしたが、階段の前までそのまま速足で進んでいった。

「ああ、やっと撒けた…。」

ぼそりと疲れた声が上から降ってきたが、二の腕の痛さでそれどころではなかった。階段前でやっと解放され、すぐに長袖の上から二の腕をさすっていた。これはまた青あざコースだ。痛みが引かぬうちに第三王子殿下が右手を出してきたので、びくりと肩を震わせてから、今度はおとなしくエスコートのために手を置いた。階段なのでそのまま反対の手でスカートを持ち、慎重にしかし格好悪くならないように、背筋を伸ばして下りた。むろん第三王子殿下に体重がかからぬよう、手は置いただけだ。本当はがっつり手すりを掴みたい。本日の靴は少しだけヒールもついていた。内心ハラハラしながら階段を下った。待っていたレオン様の顔を見たとき、やっと下に降りたことを実感した。去年はこの後まだ寒い庭に出て散歩で息抜き、という名の社交回避をしていたのだが、今年は隣に第三王子殿下がいらっしゃるため無理そうだ。


「ちょっといいかしら、リチャード様。モニカを返してもらいますね。」

言うのが早いか、公爵夫人が私の背中に手を回して、頬に手を当てて上に向かせた。いきなりの美貌に驚き、なすがままになっていた。

「大丈夫モニカ?ちょっと寒い?震えていたから…熱はない?ああ、休憩室に行きましょう。ごめんね寒かったわよね、やっぱりショールを持ってくればよかった。まだ寒い時期だものね。いつものトランクを持たせればよかったわ。今日は荷物が多いから…リチャード様、ここから近い休憩室はどこかしら?」

「あ、いえ、大丈夫です…。」

いきなり捲し立てられて言葉が間に合わなかったのが、公爵夫人の心配に拍車をかけてしまった。

「あの、緊張していただけなので…。」

「でも休憩室にはいきましょうよ、モニカ。」

シエナ様にもこう言われてしまっては仕方ない。

「案内する。伯母上とシエナ嬢も行くなら、公爵はどうする?」

「うーん、モニカが心配ではあるけど、全員会場からいなくなるのはね。私は残るよ。」

寂しそうな顔をしていたが、モニカをよろしく、と公爵夫人に言っていた。いまだに震える指先を握りしめそっと背中を押されながら休憩室へと向かって行った。


次回からいつも通りです。

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