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虫よけ依頼

「おやおやこれはこれは第三王子殿下の地味な婚約者様ではないですか。お久しぶりですね。ご存知でしょうが第三王子殿下はこの間レスト王国の王女殿下と、個別に会談したらしいではありませんか。あのお美しく優秀だという噂の王女殿下ですよ。もう全くあなたと比べるべくもなく王女殿下のほうが良いとやっと第三王子殿下も分かってくださったのでしょう。もし王女殿下を婚約者にいただけたのなら第三王子殿下は、王太子になられるかもしれませんね。そうなればあなたは本当にただの邪魔ものなのですからさっさと身を引くべきではないのですか?ご自身の身の振り方をちゃんとお考えになってはいかがですか、ああ、わたくしは責めているのではございませんよ貴女のことを心配しているのですから、親切で言っているのです。あなたのその考えなしの頭でもわかるようにはっきりと申し上げてあげているのですからご婚約を早めに解消なさったらいかがですか?」


 近くのレストルームだからと一人で来てしまったのが良くなかった。最近はシエナ様と二人で王宮に上がっていたのでこういう人はいなかった。ああ、この人は確か要職についていたおじいさまの後を追って王宮に入って、伯爵位を継いだ方だったような。そうだ年ごろの娘が第三王子殿下と同い年で、殿下の婚約者とは言わずとも、第二、第三夫人狙いでこんなことを言っているのだろう。それかもしくは、第三王子殿下を王太子に推して、その側妃を狙ってのことか?とにかく来年までの期限が決まっている気楽な立場なので、余裕をもって答えられる。


「ご忠告感謝いたしますが、まずはそのことを第三王子殿下に是非、言っていただけたらと思います。わたくしはバージェス公爵家の遠縁の娘、第三王子殿下、国王陛下、王太子殿下に逆らって、なにか意見などとても言えませんわ。是非、貴方様が我が国のために、そのことについて進言すべきですわ。アポイントならわたくしにお任せいただければ、第三王子殿下にお願いして、なんとか時間を取っていただけるように尽力いたします。さて、貴方様のお名前と家名をお教えくださいまし。わたくしバージェス公爵家のモニカ、責任をもってアポイント取らせていただきます!」

「そんな国王陛下にお伝えするようなことなどわたくしは考えているわけではないので失礼します。」

 くるりと踵を返し、さっさと廊下を歩いて行ってしまった。確かあちらから歩いてきたと記憶しているので、きっと私に文句を言うためにわざわざここまで来たのだろう。はあ、思わずため息が出てしまう。


「あれは、レッツ・ギャバン伯爵ですね。見事な返しです。」


 レオン様が扉からひょいと顔を出した。後ろには貴族から来た第三王子殿下の誕生日プレゼントがずらりと並んでいた。ボードと筆記具を持っていることから、だれから貰ったものかを整理しているようだった。あの量をさばくとなると恐ろしい。レオン様が手に持っていたものを部屋の中に置いて外に出てきた。そして部屋にはしっかり施錠した。

「ああ、お疲れ様ですレオン様。」

「声が聞こえましたので。あの人は命知らずですね。王城であんな発言するなんて。」

「まあ、珍しくもないでしょう。」

「そうですか。他にはどなたが?」

「毎回名乗りもせずに一方的に言うだけ言ってどこかへ行ってしまわれますので、知りませんわ。」

「ふむふむなるほど。」

 遠いところを見て何やら黙り込んだが、すぐにこちらに視線を戻した。

「まあその話はおいおい、お聞きしましょう。俺が応接室までお送りします。」

 すっと出した手に、多少動揺しながら手を乗せた。レオン様にエスコートしてもらうのは初めてだった。第三王子殿下と基本一緒にいるレオン様が、婚約者である私のエスコートなどしないのだ。だからダンスでいつも手を取っているにもかかわらず気恥ずかしかった。彼のほうは相変わらずの無表情だが、若干疲れているような気がした。本当は本の話がしたかったが、それよりも体調のほうが気になった。応接室なんてすぐ近くなのだ、話せることは少ない。

「レオン様、少し顔色が悪いですが、体調でも悪いのですか?」

「…、そう見えますか?」

「はい。疲れているとか?」

「ああ、リチャード殿下もそうだったんですけど…ここ1か月レスト王国の王女殿下が王城にお泊りなのは知っていますね?」

「はい、お噂程度ですが。何でもお忙しいとか。」

 そのくらいしか知らないし、閣下もそのくらいしか言っていなかった。

「初めに言っておきますが、先ほど伯爵が言っていたようなことは事実ではありません。」

 伯爵が言っていたこと?

「?何かおっしゃっていましたっけ?途中からどうでもいいから早く終わらないかなと聞き流していたので全く聞いておりませんでした。」

 少し驚いた表情のあと、乾いた笑いを出したレオン様の表情は少し安堵しているようだ。

「それでしたら構いませんが、一応。第三王子殿下とレスト王国王女殿下は、婚約とかそういった話は出ておりません。ただ…。」

「レスト王国王女殿下は確か、お婿さんが欲しいのですよね?第三王子殿下と王女殿下が婚約なさったら、あちらのお国に行くことになるのでしょう?」

「その情報をどこから?」

「王妃様ですわ。だから婚約を学園入学までは、継続してほしいとおっしゃっていらっしゃいました。」

「…!なるほど。」

「もしお邪魔でしたら今すぐ婚約解消いたしますが…。国王陛下のご意向はどうなのですか?第三王子殿下を王太子にというお話があるのなら、王女殿下ではなく国内の有力貴族のご令嬢とご婚約したほうがいいですが。わたくしの婚約者という立場は、国王陛下の意向で簡単に覆せるものだと思うのですが?」

 ゲーム通りに進むのならここは王女殿下と婚約なんてしないだろうが、未来は変えられると分かったので一応確認はしておきたい。

「…邪魔ということはないと思います。国王陛下は王太子殿下に確実に継がせる意向ですので、現状維持になるのではないかと思います。第三王子殿下を国外に出すことも考えていないでしょう。殿下は優秀ですから。」

 うんやはりそうか。

「ですから、王女殿下とご婚約という話はただのでたらめとだと言うことです。ましてや王太子になるなんてことも、リチャード殿下は考えていらっしゃいません。」

「そうでしょう。でしたらとっくにわたくしとの婚約なんて解消しているでしょうから。」

 もう、扉の前に来てしまった。結局顔色の悪かった原因はわからずじまいか。

「…むしろ、殿下は婚姻に前向きです。王太子殿下の邪魔にならないためにはどうしたらいいか、本気で考えていらっしゃいます。…貴女もそろそろ覚悟を決めたほうがよろしいかと。」

「要は、王太子殿下の邪魔にならない婚約者なら、だれでもいいのでございましょう?きっとわたくしよりふさわしい方が見つかるでしょう。学園はたくさんのご令嬢がいらっしゃるのですから。」

「モニカ?」

 ガチャリと扉が開いてシエナ様が顔を見せた。

「レオン様とそこであったので送ってもらいました。」

「あ、そうなのね。一人は暇よ。」

 にこりと笑って、レオン様に会釈をした。彼もぺこりと返すとこちらを見た。

「第三王子殿下は本日、モニカ嬢に会えて久しぶりにリラックスしたようでした。王女殿下のお相手はなかなか、ハードなので、今日は第三王子殿下のお側を離れないようお願いいたします。」

 それは毎回第三王子殿下の誕生パーティでは暇つぶしに庭の隅っこでぼんやりしていることがばれているという脅しなのか…。

「そうですね、なるべく。」

「本当はアピールでダンスの一曲も踊ってくださいと言いたいところを、譲歩して側にいろと申し上げているのですよ。その辺しっかりしてください。」

 ああつまり、変な噂を立てる輩へのけん制と、王女殿下が第三王子殿下をお婿さんに!というのを封じるために演技しろ、ということか。

「何、レオン様いきなりモニカに何なの?!」

「ああ大丈夫です、シエナ様、大体理解いたしました。王女殿下と諸々をけん制しろってことですよね。第三王子殿下と仲良しアピールすればよいのですね?」

「はい。本当に王女殿下にあきらめてもらわねばならないのです。なにせあの方は、かなりのわがままおう…ゲフン、失礼。政略結婚でもあそこに婿入りは実情地獄です。殿下にそんな道は歩ませたくないので…。」

 レオン様がそこまで言うレスト王国の王女様って一体どんな方なのか。全然楽しみじゃない。どうしよう怖い。

「レオン様は近くにいらっしゃるんですよね?フォローしてくださいますよね?」

「王族同士の会話に割り込めるとお思いで?いざとなったらあなたに飲み物をかけて退場させますよ。」

「それでいいです。それでいいのでそんな胃がキリキリするところに一人で置いておかないでください。お願いですから!」

「モニカ?なんだかよくわからないけど、大丈夫よ!リチャード様が一緒なんでしょ?」

 シエナ様に心配させるなんて私のバカ!でもそれは一番頼りにならないカードですシエナ様!

「そうですね…第三王子殿下の足を引っ張らないよう気を付けます。」

 というかむしろそっちのほうが怖いかもしれない。私が何か第三王子殿下の気に食わないことをやらかして、怒らせることのほうがありそう…。ああ、やっぱり怖いどうしよう。


次回1月3日更新です。

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