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すんだ空気


モニカ嬢をローファス領に誘うこと。すなわちリチャード殿下から彼女を引きはがすことに他ならない。


王都を離れてから、思考が鮮明になってきた。よく、モニカ嬢に話しかけていた殿下のことを思い返していた。仲直りのために声をかけているのではないというのは分かった。きっとリチャード殿下はレオンと同じ気持ちで、モニカ嬢のことを気に入っていて、側に置きたいのだろう。もしかしたら婚約者のシエナ嬢以上に一緒にいたいのかもしれない。そして、それは数年後に第二夫人という名目で召し上げることができるということを意味していた。

それは嫌だ。

すんなりとそう思った。一昔前なら、リチャード殿下の邪魔など絶対しないし、むしろどうしたらモニカ嬢が殿下の第二夫人になってくれるのか画策するくらいはしただろうが、今はそんな事とても出来なかった。


モニカ嬢はレオンにとって、最も一緒にいて楽しく頼りになる友人であり、気が利いて優秀な仕事仲間であり、所作が美しく芯の強い自慢の幼馴染であり、寂しがり屋でいじらしい好きな人なのだ。


いくらレオンの世界の中心であるリチャード殿下でも、この大事な人だけは意地でも、渡すわけにはいかなかった。まさか殿下に対してそう思う日が来るとは夢にも思わなかった。

しかし相手は殿下だ。油断せず、まずは外堀を埋めねばならない。領地に戻ってきて早々、モニカ嬢を文官として招くための準備を始めた。さらにバージェス公爵に手紙を送り、卒業後の進路についての相談をした。バージェス公爵もモニカ嬢の卒業後のことについて考えていたらしく、このままではと色々話し合っていたらしい。そのままスムーズに話は進んでいった。ただ、リチャード殿下に先に話を通したほうがいいということになった。


はっきりとレオンから言わねばならない。モニカ嬢をローファス領に文官として連れて行きたいと。新年のあいさつの時に、王都へ行って話をしなければ。これはレオンにとっては宣戦布告に近しいことだった。リチャード殿下の気持ちを分かったうえで、その意に反した行いをする。かなり覚悟を持って、殿下に伝えたつもりだったが、案外あっさりモニカ嬢がうんと言えばいいと返事がきた。殿下のお気持ちは分からないが、とにかく話は通したのでほっとした。


その後、新年会での事件により、モニカ嬢への打診が遅れて行った。モタモタしているうちにバージェス公爵からモニカ嬢がクリス殿下の妃にと、国王陛下が内々に打診が来ているとの手紙が来て、慌てて手紙を送った。会ってちゃんと話をしたかった。卒業式前に会いに行くので返事はその時に、としたが内心生きた心地がしかなった。

卒業式に向かうためにヴィヴィエ領から山道を抜けたとき、大規模な土砂崩れに遭遇してしまった。何人かは負傷して、近くの村人が救助しているさなかを素通りはできなかった。モカの跳躍力を使って、埋まっている人がいないか、負傷者がいないか探して回った。数台の馬車が埋まっているのを発見し、村人たちに伝えることができた。ヴィヴィエの救助隊が来るまで何とか出来る限りのことをした。数名は救助できたが、それだけだった。それから大急ぎでバージェス家に向かったが、ぎりぎり間に合わなかった。

あと少し、本当にあと数分早くついていれば。モニカ嬢の髪はあんなことにならなかったのに。ローファス領に来てから、短い髪のモニカ嬢を見るたびに、切ない気持ちになっていたが、本人は領地に来てから仕事が忙しいらしく、本当に気にしていなかった。そんな態度に少しだけすくわれたし、短いのも似合っていると思ったのは本心だった。

やっと本人の口から、ローファス領に来てくれると聞けて、心の底からホッとした。それからは怒涛の移動だった。3日間の救助活動の後、バージェス家にて久々にベッドで眠った。そしてその次の日の昼過ぎには馬車で、グリーン領に王妃様と、クリス殿下と一緒に移動するのだ。当初の予定から逸脱したメンバーであったし、正直王妃様とは別行動が望ましかったが、モニカ嬢が一緒に行ってもいいと言ったのなら仕方ない。

再三、バージェス公爵と、夫人にはモニカをよろしくと頼まれた。まるでレオンの気持ちなどお見通しだと言われているようで、少し気まずかった。逆に考えれば後押ししてくれているともいえるので、何とか、心配した時にちゃんと心配だったと、抱きしめられるくらいの関係になりたい。


そして数日後にあっさりリチャード殿下に見つかった。ロイ卿と合流した時にもうすぐ捕まりそうな予感はしていた。モニカ嬢が決心したような顔をして、リチャード殿下との話し合いをしていた。殿下がモニカ嬢に乱暴したりはしないと思うが、彼女の扱いがほかの女性たちに比べてぞんざいなことには気が付いていた。そわそわしながら話が終わるのを待っていた。やがて父たちと合流してうやむやになった。

その日の夕時。

少しだけリチャード殿下とお話しする機会があった。久しぶりだった。やはりレオンの中ではリチャード殿下は特別な人だった。憧れの人。王妃様の後押しもあって、殿下はすんなりと引いてくれた。しかし納得はされていないようだった。何と言ってモニカ嬢を連れて行く説得しようか。今の状況で王都にいるのは、王太子妃になる可能性があるとか、数年こちらでとどまってもらって、とか、いろいろ考えていた。でもそれでは今本的に解決できないと感じていた。だったらレオンの本音をぶつけるしかなかった。

「リチャード殿下、モニカ嬢の一番幸せな状態とは何でしょう。」

言葉のつまった殿下など、数えるほどしか見たことがなかった。

「俺は、モニカ嬢に幸せになってほしいんです。」

そうか、殿下はそう言った。ただそれだけの短い会話だった。

それからもやたらモニカ嬢と魔王国の使者と仲が良いとか、クリス殿下や王妃様とはすぐに仲良くなったとか、色々あったが、そこは普段と変わらなかった。グリーン侯爵家の不正がボロボロと出てきて、予定より遅れてしまったが領地に向かうことになった。

結局殿下は何も言わずに見送ってくれた。領地についてからは、モニカ嬢と王妃様の活躍もあり、すんなりと婚約の解消に至った。家人たちからの反対にも会わず、魔王国との新しい条約の締結も終わった。


モニカ嬢の前世の話は衝撃的だった。自分の手の届かないところで彼女は生まれて生きて理不尽に儚く死んだのだ。それが悔しくてたまらなかった。それが無かったら出会えなかったと言われたが、納得できなかった。前世の彼女だって、何も悪いことはなかった。ただ両親の間に生まれてだけだったのに。この世界では、今生では、絶対にそんなことはさせないし、絶対に守ろう。そう誓った。


モニカ嬢が領地に来てからいろいろなものが変わった。一番は自分の呼吸がしやすくなったことだった。2カ月たつ頃にはその生活の居心地の良さに、ここはあの自分の故郷なのかと疑うほどだ。

休みの日にモニカ嬢が、いや、モニカさんが、レオンの贈った服を着てくれた。これは自分が悪かった。確かにクローゼットに入っていた服なんて、贈り物だとは思わない。しかもモニカさんに着てほしいと思った、かなりレオンの好みに寄った服だった。父も、ちゃんと口にしないと気持ちは伝わらないものだと、そうぼやいていた。だから、着てくれたらちゃんと口でほめようと思っていたのに、お似合いですの一言でしか言えなかった。ふんわりとしたデザインの、モニカさんがいつも着ないような服で、視界に入れるたびに可愛らしかった。その後も別の休日に着てくれて、その度に褒めるのは違うかとも思い黙っていたが、似合っていた。


どうしたらいいのか、どんどん好きになっている気がする。自分は薄情な人間だから、誰かを好きになることなどないと思っていた。でもそれを簡単に超えていった気がする。

国王陛下が帰って、話し合いは無事に終わったのか王妃様は晴れやかな顔をしていた。王都に戻らなかったということは、そういうことだ。それからしばらくして、山にこもる日々が続いたが、父は何やら悩んでいる様子だった。最終日、ラナンジェルナの花畑の横を通りかかった時、父がいきなり花束を作り出した。

「レオンも作ったほうがいい。あげたい人がいるんだろ。」

そんな事を普段する人で無かったが、真剣な様子で綺麗なものをと、摘み取る手つきは丁寧だった。ピンク色の花は彼女の趣味ではないだろうが、でもきっと喜んでくれる。そんな確信があった。贈り物を無碍にするような人ではない。隣で大量に摘んでいる父を見ながら、レオンは少しだけ摘んだ。途中の町でラッピングをしてもらって、その時はやはりモニカさんの好きな空色のリボンにした。少しだけ足取りが軽くなった。その日父がプロポーズをした。花冠を被った二人は幸せそうだった。

プロポーズをしている人の隣で花束を渡すのは、少し恥ずかしかったのでぶっきらぼうになってしまったが、モニカさんに渡すと、驚いたように受け取ってくれた。自分の部屋に飾ってくれると言ってくれてうれしかった。この花を見て少しでも笑ってくれたら最高ではないか。もしこれがプロポーズだったら。モニカさんは受け取ってくれるだろうか?そうなればいつも一緒にいられる。そんな事を考えてしまった。

心配だったと言える、会いたかったと言える証は、そうか、プロポーズしなきゃもらえないんだ。

今の関係のままなら、いつかモニカさんはあちらに戻ってしまう。モニカさんのことだから、バージェス家のことを考えて、断られるかもしれない。レオンもモニカさんも跡取りだから。でも、証は貰えるかもしれない。レオンの気持ちを伝えたら、そのくらいは出来るかもしれない。


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― 新着の感想 ―
 この花束を贈る慣習の意味をレオンは当然知っているだろうしモニカも直前で教えられているので本来なら「そっち方面」の意味合いに直結してもおかしくないのに。  両者ともかなり不器用だなあw  ピュアとも言…
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