表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/103

第三王子殿下の宝石箱

 公爵家には朝からプレゼントがちらほら届き始めていた。私が帰ってきたのが昨日で、今度はこちらで誕生日パーティの準備をしなければならない。有力貴族に高位貴族が一堂に会す、胃がキリキリするイベントだ。結局シエナ様のお父様は当日来れないそうなので、一緒にパーティを開くことになった。別々にしたいと公爵閣下は悩んでいたらしいが、私が一緒がいいとわがままを言った形だ。どうせ1週間後にシエナ様の誕生日なのだから何か問題があるのだろうか?何度ワケを聞いてもはぐらかされてしまう。


 花束は誕生パーティ当日に会場の見えるところに飾るため、メイドに管理してもらう。私はついてきたカードとプレゼントの中身を一覧表にまとめて、次会った時にちゃんとお礼を言えるように整理していた。今回はシエナ様の分もあるので量が2倍だ。玄関ホールで忙しく動き回っていると、また一人使者の方が入ってきた。

「王宮から参りました近衛騎士です。」

 少し不愛想な赤い制服の近衛騎士は、大きめの箱を私に差し出した。緑色のリボンが掛っているが、カードが付いていない。

「ありがとうございます。」

 もう一度じっくりと近衛騎士を見た。襟のところに緑色の翡翠宮勤務であるバッチが付いていた。確かに第三王子殿下の宮だ。

「第三王子殿下に御礼申し上げてください。」

「はい。失礼します。」

 そう言って箱の上に手紙を一通置いて帰って行った。箱を机に置き、手紙を見た。第三王子殿下の字だ。

『誕生日おめでとう、実用的なものを送ったつもりだ。よければ使ってほしい。シエナ嬢へのプレゼントは間に合わなかったので当日渡す。』

 相変わらず簡素な手紙だ。改めてリボンをはどいて箱を開けると蝶があしらわれた箱が出てきた。これは…。

「ジュエリーボックスね!すごい大きい!見せて見せて!」

 階段の上からシエナ様が侍女長を伴ってやってきた。

「はい。ちょっと箱から出してみますね。」

 大きなジュエリーボックスは虹色の螺鈿細工らでんざいくの花に、サファイヤの蝶が舞っていた。海から遠い王都で螺鈿とは…一目でかなり高価なものだとわかった。美しいというよりは落としたらどうしよう怖い!が先に来てしまった。慎重に箱から取り出し、机に置いた。隣に来たシエナ様が開けて、というのでゆっくり開けた。蓋には鏡、そして首飾りと指輪、ピアスをしまうための溝がある箱だった。少し大きいが一般的な宝石箱だ。

「モニカ、ここにねじが付いているよ。」

「おや?」

 ネジを回すとこの国で古くから歌われる、“蝶の来訪”という曲がかかった。これはオルゴールだ。ふたを開けると曲が鳴る。第三王子殿下にしてはずいぶん可愛らしい贈り物だ。今までの贈り物は万年筆だとか、文房具だとか封蝋だとか。実用一辺倒のものばかりだったが、今回の贈り物は少し婚約者に送る贈り物っぽい。シエナ様がネジを回したり、開けたり閉めたりしているのを眺めながら思い出した。

「シエナ様、第三王子殿下が、シエナ様のプレゼントは手配が間に合わず当日にお渡しするとのことですわ。」

「え、ほんと?嬉しい。楽しみだわ。」

 にこにこのシエナ様が、気に入ったのかオルゴールをかけたり止めたりしていた。このオルゴールの音に聞き覚えがあったが、どこで聞いたか思い出せない。

「あら、華麗なジュエリーボックスね。」

 階段から降りてきたのは公爵夫人だった。優雅な動きなのに無駄がない。その所作の美しさに思わず見とれていた。にこりと笑った顔を見て、はっと我に返った。

「第三王子殿下より賜りました。」

「ふ~ん。素敵じゃない。つまりはこれからここいっぱいに宝石を送りますよってことね。」

「そうでしょうか。」

「殿方が宝石箱をくれるってことはそういうことよ。」

 そういうものなのか。実用的なものを送ったと言っていたから、使いやすいものだとは思っていたが。確かにオルゴールの仕掛けは盗難防止によさそうだし。第三王子殿下にもらった高価な万年筆とか、いい匂いのする青い封蝋とか入れておこう。

「珍しいわねこれ、螺鈿細工よね?」

「螺鈿細工?」

 小首をかしげたシエナ様に、私はうなずいた。

「はい。これは貝の殻の内側の、虹色に光るところから作られています。成分的には真珠と同じだとか。内陸の王都にこの細工が入ってくることは稀で、高額で取引されています。しかしこれは…。」

「うん、立派よね。繊細で腕のいい職人のものだわ。モチーフは王家の紋章に使われているインディゴ蝶だから、多分献上品かオーダーメイドね。手が込んでるわ。」

 なんだか手に入れるのにものすごく苦労したのでは?これは珍しいものだし、第三王子殿下がこんな面倒なことをするなんて…まさか…。

「これ、本当に私へのプレゼントでしょうか?アリアドネ様への献上品が間違ってこちらに来てしまったとかないですか?」

 第三王子殿下にとって都合のいい婚約者である私に、こんな手間をかける意味が解らない。たまたま手に入ったというのもなさそうだし。

「フフフ、まさか!モニカに送るものだもの、ケイト卿もレオン君もチェックしてるわよ。」

「そう、でしょうか。」

 でも今までこんなことはなかった。今までは文房具(値段は高価だが)だったのに急にこんな婚約者っぽいものを送ってくるなんて。絶対何か裏があるに決まっている。


 なにせあの“天才”第三王子殿下だ。無駄なことに時間なんて掛けない。合理的なことしかしない。これを送ることによって何がメリットとして挙がってくるのだろう。やはり、公爵家へのパフォーマンスだろうか?王家としてバージェス公爵家を重要視していますよ、ということか?それなら納得する。ということは公爵閣下にもらったことの報告をしておくのがベストだろうか?いややっぱり後でこっそり手紙を書こう。あれは本当に私宛ですか、と。そう、そうだ本人に直接聞けばよいのだ。シエナ様の誕生日プレゼントを渡しに、第三王子殿下は確実にパーティに来るのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ