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王太子殿下のプロポーズ

「蝶を見に行くのは、延期になった。」

 不機嫌を隠そうともしない第三王子殿下は、眉間にしわを寄せながらこちらをにらんでいた。今日のお茶会は私とシエナ様が王城に来た。前回の続きで、ダンスの練習をすることになっていた。着いた瞬間から機嫌が悪いのが見て取れた第三王子殿下の様子に、私の緊張が一気に上がった。やっぱり私の何かが気に食わなかったのだろうか?心配事をしながらの苦手なダンスは散々たるもので、レオン様の足を踏みまくってしまった。途中謝りながら踊っていたが、お互い様だからそれ以上はうるさい、と言われてしまった。きっと彼なりの心遣いなのだろう。ちっともうまくならない私たちに、わざわざ王城まで来てくださった先生が、途中休憩をしましょうとお茶の時間を作ってくれた。一応婚約者の隣に座るとシエナ様が向かいに座ってくれたので、お顔が見やすい席順グッジョブ!

「そう、ですか。」

 お茶をすすりながら「蝶」ってなんだっけ?と考えていた。ああ、蝶の来る木があるんだったか。シエナ様が楽しみにしていたやつだ。正直昆虫の生態にあまり興味はないが、シエナ様が残念がるだろうなと彼女のほうを盗み見た。えーうそぉという顔をしていた。

「何か公務でも入りましたか?」

 理由は何でもいいのだが、シエナ様が納得してくれたらいいな。

「兄上が婚約者のラペット嬢にプロポーズしたいから今回は譲ってくれって。」

 プロポーズというロマンティックな単語にたちまち目を輝かせたシエナ様。どうやら納得してくださったようだ。そんな様子もまた可愛らしい。

「王太子殿下はきれいな蝶々が来る木の下でプロポーズなさるのね!素敵だわ。」

 うっとりと満面の笑みのシエナ様のほうが素敵ではないのだろうか。私もうんうんと頷いた。

「そういうことでしたら、プロポーズのほうが大事ですわ。」

 王太子殿下のプロポーズなんて国家の一大事だ。このプロポーズが成功したら、1年か半年までには国を挙げての結婚式をして、ラペット様は正式な王太子妃になるのだ。そして王太子殿下が国王陛下になったらラペット様は王妃陛下だ。今年は行事が多そうだ。

「モニカは、理想のプロポーズとかって、あるのか?」

 どうしたのか第三王子殿下がとても言いにくそうに聞いてきた。もしや、アリアドネ様に何かけし掛けられたのだろうか?

「うーん、考えたことないですね。シエナ様はどんなプロポーズが理想ですか?」

「えーモニカ先言ってよ!」

「いえ、わたくしは本当に考えたことがなかったので、ちょっと参考にしようかと。ああ、そうですね、一般的には相手の好きな色の花と、自分の瞳の色の石の付いた指輪を送るんですよね。」

「ええ!?王都はそうなのね。私のほうは相手に花束と花の冠を渡すのよ。で、OKだったらもらった花束で作った花の冠と、パイを焼いて相手に持っていくの。私は小さいころ乳母からパイのつくりかたを習ったわ。」

「おや、素敵ですね。ということは、レオン様のほうもそういうプロポーズの仕方ですか?」

「まあ、そうですね。あっちでプロポーズするならそうなりますね。」

「プロポーズにも地域性があって面白いですね。」

 もしや南の地域である私の地元も、プロポーズの仕方が変わっているのかもしれない。今度両親に聞いてみよう。隣から視線を感じて恐る恐る顔をあげると予想通り第三王子殿下がこちらを睨んでいた。びっくりして思わず肩が跳ねた。

「結局どんなのがいいんだ?」

「いえ、わたくしもそんなに知らないので、両親にも聞いてみます。」

「そうか、そうだな。モニカの両親は南部だったな。」

「はい。」

「聞いたら私にも教えてくれ。」

 南部のプロポーズに興味があるのかな?まあ王子様なんだから国内のことは知っておいたほうがいいか。

「はい。調べたらご報告いたします。」

 いつの間にか機嫌が直っていた。内心嘆息しつつ、そろそろ再開しますよとの先生の声にこたえて、立ち上がった。プロポーズと言えばアリアドネ様へのプロポーズはどうなったのか。じろりとロイ様をにらむとロイ様は何かを察して顔をそむけた。目線だけで早くしてくださいと念を込めてダンスホールに戻っていった。第三王子殿下の機嫌が上向きになったので、少しは落ち着いてダンスに取り組めそうだ。


 ###


「私たちのプロポーズ?ふふふ、あの時はそんな余裕なかったわね。」

「ああ、君にも、王妃陛下にも迷惑をかけたね。」

「王妃陛下にも…?」

 公爵家の中庭に公爵夫婦と私とシエナ様がそろうなんてなかなか無いことだった。最初は公爵夫人とシエナ様の三人でお茶をしていたのだが、仕事の予定が急に亡くなった公爵様が飛び入り参加でやってきた。この間公爵夫人にいただいたドレスを着てきて正解だった。しかし気になる発言だ。

「どういうことです?王妃様は公爵閣下と何か縁がおありなんですか?」

 二人はお互いを見つめあった後、仲睦まじく微笑みあいこちらを向いた。

「私の姉、シエナの母の話だよ。」

 突然話に自分の名前が出たからかびっくりしているシエナ様は、口に運ぼうとしていたケーキを食べそこない、皿の上に落としていた。そんな姿も可愛らしい。

「当時姉は手紙一枚で家出をしてね。護衛1人もつれずに飛び出して、シエナのお父上を追って一人旅に出て行ってしまった。私は死ぬほど心配したし、私の父も母も体調を崩してしまった。姉には今の国王陛下や、隣国の王太子との婚姻の話が出ていたんだけど、でもうちはすでにヴィオラとの婚約は成立していたから他貴族からの反対もあった。前王陛下もお悩みのところだったと思う。その時にこんなことがあってね。いつもつらくて。そんな時毎日屋敷に来てくれたのが…。」

 そこで閣下はまた公爵夫人を見た。こくりと頷く夫人は晴れやかな顔をしていた。

「当時王女だった、ヴィオラ王女殿下だった。でも当時の私は体調が悪化した父の代わりに、領地の仕事でいっぱいでね。そんな時に発破をかけてくれたのが今の王妃陛下なんだよ。私はあなたの姉からあなたを任せると言われた!そんな死にそうな顔をして仕事して何をしているの!周りのあなたを大切に思っている人の顔が見えないのって。そういって平手打ちされたんだよ。」

「あの時の王妃陛下はまだ王妃じゃなかったけどかっこよかったわね。本当に素敵だった。」

 うっとりとほほ笑む公爵夫人にうんうんと頷く閣下。

「平手打ちですか…。」

「そう、で、久しぶりにベッドで眠ったら、ヴィオラとずっと一緒にいたいなって思ったから、その日のうちに花と指輪を手配したんだ。最速でプロポーズの手配をして…。本当に王妃陛下には感謝している。」

「どんなところでプロポーズなさったんですか?」

 シエナ様の顔が興味津々だ。

「急ぎ中央広場の植物園にデートに行ってね。あの時王妃陛下が私の背中を押してくださらなかったら今もうだうだしていたよ。」

「一番に結婚の報告もしたのよね。とても驚いてくれて…一生プロポーズなんてしないと思ってたって言っていたわね。」

 お二人はくすくすと笑いあっていた。いつまでたっても仲がいい、最高に理想の夫婦だ。私もいつかこんなふうに信頼しあえる人と出会えるといいな。

「植物園でプロポーズですね、素敵ですわ。」

「ホントに!きれいなお花に囲まれてロマンチックだわ!私もそういうのがいい!」

 確か、第三王子殿下ルートのクライマックスは湖畔のデートだったはず。その湖畔は色とりどりの花が咲き、湖面は美しいエメラルドグリーン。一枚絵は本当に素敵だった。思いが通じ合いそこでのプロポーズだ。シエナ様はこのまま第三王子殿下ルートとなった場合ちゃんと素敵な未来が待っている。こっそり覗けたらいいのだが、そういうわけにもいかないだろう。

「ところで、もうすぐモニカの誕生日だね。今年も日程は去年と一緒でいいかな?」

「はい、毎年ありがとうございます。」

「日程って?」

 小首をかしげるシエナ様ににこりと笑いかけた。

「わたくしの誕生日は毎年実家のほうに帰っておりまして、その後帰ってきてから誕生パーティを開いてもらっていたんです。公爵閣下と公爵夫人様から頂いた最初のプレゼントですわ。」

 本来なら7月8日に行うべきだが初めて公爵家に来た年に、誕生日プレゼントを聞かれて初めて言ったおねだりがこれだった。以来、誕生日を中心に5日ほど暇をもらっていた。そしてたいてい誕生日から1週間後にパーティを開いてくれた。15日前後か。

「モニカは7月なのね!私も7月よ!23日生まれ!」

「あらそうなの?シエナちゃんもその日お父様に会いに領地へ行く?」

「お父さんに?…いかないわ。今ただでさえお父さん忙しいもの。会いたいけど、魔物の侵入が落ち着いたら、お父さんから連絡が来るはずだわ。そうしたら、会いに行く。」

 そうだ、シエナ様のお父様は今、魔物討伐の最前線で戦っていらっしゃるのだ。いつもは明るく元気なシエナ様もやはり、お父様に会えないのは寂しいのだろう。新聞でしか動向が知れない、お父様のお役目をしっかり理解して、王都で待っていた。なんて健気なんだろう。美しいうえに性格も考え方もしっかりしている、本当に完璧な人だ。

「シエナ様、では、誕生パーティをわたくしと一緒に行いませんか?またお揃いのドレスを着ましょう!」

「え、でもモニカの誕生日パーティでしょ?それに私は毎年家族と祝ってただけだものパーティなんていいわ。」

 私の実家でもパーティなんて開いたことはない、が、モブ顔でも一応公爵家に養子に来ている、公爵令嬢であるわけで、しないわけにはいかない。正直自分のために有力貴族と高位貴族の令嬢令息が集まるのはプレッシャーでしかないが、1回で終わるのならばいいだろう。同じ家の者が同じ誕生月だった場合一緒にすることは珍しくない。…はずだが公爵閣下が難しい顔で考え込んでいた。どうしたんだろう?

「うん、ちょっと考えておこう。義兄殿がそのパーティに来てくれたら一番いいのだが…。」

 それはそうだ。きっとそれが一番の誕生日プレゼントになるだろう。そうならなかった時のためにしっかり、プレゼントを用意しなければ。シエナ様が喜びそうなものは何だろう?今までの観察結果をまとめてじっくり検討したい。


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