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 執務室の机にはまだ未処理の書類が山になっていた。遅々として進まない書類の整理に、うんざりしながらクリスはお茶を一口飲んだ。ノックがあり、ケイトとリチャードが一緒に、クリスの執務室にやって来た。


「失礼します。今、少しいいですか?」

 珍しく自分で書類を持ってきたリチャードに、いつもなら隣にいた眼鏡姿が見えず、寂しいものを感じた。数日前彼はローファス領に旅立ったのだ。10年以上一緒に過ごした弟と言っても過言ではないレオンの喪失は、自分でも思っていた以上に大きかった。


「ああ、ケイトは、リチャードが先で良い?」

「私は手紙を持ってきただけですので。」

 そう言って未処理の書類の上にポンと手紙を置いた。珍しく青い封蝋だ。今、王太子であるクリスにこのプライベートな手紙を送って来れるのは、人数が限られる。

「じゃあリチャード、何か報告でもあった?」

「ええ、やはり新緑商会が怪しいですね。『静かの海』商会の親商会なのもそうですが、あそこの副商会長のジョージ・クワイエットは、現グリーン侯爵家当主の従兄弟です。周辺の話を調査したのですが、『静かの海』商会の商会長の妹と結婚し婿入りしたそうです。病気がちな商会長に代わって、実際に取り仕切っていたのは、妹婿のこのジョージ・クワイエットだそうです。今回の事件後、行方知れずとなっていますが。」

「なるほど、新緑商会の命令には逆らえなかったということだね。」

「はい。それからあの事件後に新緑商会はなぜか職人を数名解雇しています。」

「・・・?なんでだ?盗まれた分生産しなきゃならないはずだろう?あそこはそこまで体力のない商会ではないはずだ。」

「それも怪しいと思って調査中です。」

「うーん。」


『静かの海』商会の倉庫と店舗は今、騎士団で確保し、証拠品の押収をしていた。数年にわたるレスト王国との取引の中に、不審なものが入っていないかの調査は、時間と手間を要していた。

「少し気になったのが、やたらお茶の輸出をしているということです。確かに昨今我が国産のお茶がレスト内で人気があるという話は聞いたことがあります。しかしこんなに頻繁に輸出するのも違和感があります。流行っているという話も聞きませんし、レストでも茶葉は取れますから。」

 確かに他より多い。

「まさか、今回の案山子みたいに、何かのカモフラージュになっている?」

 リチャードはこくりと頷いた。

「そう考えるのが妥当かと。報告は以上です。」

「うん、ありがとう。リチャード。…あ、この手紙読んでいく?ディーンからだよ。」

「はい。ディーン兄上はお元気ですか。」

「開けてみるね。」

 あの赤毛の弟は元気だろうか。そんなのんきなことを考えていた。今ここには自分たち兄弟とケイトしかいないし、読み上げてしまおう。

「急ぎ送らねばならないことができたので、手紙を書きました。レスト王国の王宮から、王太子殿下の情報が数カ月前から入ってこないため、潜入してみたところ3カ月前に亡くなっていることが、判明しました。・・・なんだって?」

「兄上続きは・・・?」

「うん。死因は毒殺のようで、犯人は捕まったその日に獄中死。あとの手がかりは毒の入手経路だが、その情報は国家機密でさすがに無理。これ以上なにかわかったら報告する。追伸:今年入籍しました。」


 ん?


「今年、入籍しました?!」


 クリスは思わず二度見した。

「おお、めでたいですね。」

 リチャードは全く動じていない。

「ちょっと、待って、リチャードは知ってたの?なんかこう、予兆というか。私は知らなかったよ?!」

「いえ私も知らなかったですが、ディーン兄上もいい年ではないですか。」

「そうだけど!」

 相手は今年18歳のノリスって子らしい。冒険者で魔法使いだそうだ。おとーさんに報告よろしく☆と書かれていた。おま、お前は~~一応第二王子だっていう自覚とかあると思ってたのに!第二妃の発狂とかいろいろ目に浮かぶ。

「兄上、その手紙読ませていただいても?」

「ああ、いいよ。」

 クリスはやって来ためまいを治めるため、椅子に深く腰掛けて頭を背もたれに乗せた。


「兄上、この手紙には毒の入手経路は調査中となっていますが、本当にレストが調査中だとしたら、どうです?」

「ああ?えっと、どういう意味?」

「レスト内では珍しい毒物で、入手経路が分からなかった。もしの話ですが、数年前からしつこくレストの王女殿下がいらっしゃって、お茶会に積極的に出ていましたが、兄の『病状』を怪しんだ王女殿下が、毒物を疑って、うちに来ていたとしたら、つじつまが合います。同じ『病状』の人がいないか探していたのです。きっとその時は見つけられなかったのでしょう。今回ディーン兄上を王宮に『招いた』のも、おそらくは王女殿下でしょう。我々に王太子殿下の訃報と毒殺だという情報を流して、毒物の出どころを探るために。王女殿下には、我が国より毒物が入ったという何らかの確信があったのでしょう。そして、この毒物が、『静かの海』がお茶と偽って密輸した『商品』だったとしたらどうでしょう?」


「なるほど、きな臭くなって来たね、これは、『静かの海』商会の倉庫、もう一度調査したほうがいいかもしれないね。」

「レオ、すぐに…。」

 そう言ってリチャードは固まった。半歩下がって振り向いた先には、いつも一緒だったレオンはいないのだ。クリスもケイトもかける言葉が見当たらなかった。

「『静かの海』商会の倉庫に行く。ケイト、馬車の用意をして。」

「はい、かしこまりました。」

 ぺこりと挨拶して出て行ったケイトを見送って、リチャードに声をかけた。

「だからさ、リチャード、書類ちょっと手伝ってよ。」

「・・・しょうがないですね。」

 兄の気遣いをしょうがないとかいうんじゃない。

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