神様久しぶり
「まったく、言いたい放題だね君は」
腰に手を当て、青年姿でいる自称神は、前回あった時よりも青々とした印象を受けた。
眼鏡をかけ、その若々しい姿に合わないほど物知りな顔をしていた。
「お前がこうしたんだろ」
「まあそりゃあ、運命ってのがあるからね……しょうがないだろ?受け入れなよ」
両手で何かを絡ませ小指と小指を広げた間に赤い糸が結ばれていた。
OH! と驚いた素振りを見せるのが妙にウザイ。
「そう言うところだよ」
「ええ~なんでさ……君の価値観は分からないねえ」
いつの間にかマグカップを持っておりコーヒーを淹れる神は気づけば初老の姿になっていたし、気づけばそこは、年季の入った書斎になって、対面で座っていた。
「お前中心に世界が回ってるわけじゃねえだろ」
「いや神にそれ言うかい?」
「……確かにお前神だったわ」
でも納得いかないリュウジ。
けれどここに留まってるわけにもいかない。
景色はまた金持ちが持ってそうな別荘になっていた。
いつの間にか揺れる椅子に座って『三鷹 リュウジ 序章』と書かれた分厚い本を読んでいる少年姿の神に近づき訴えるような目で彼に乞う。
「悪いけど、俺は生きなきゃいけない」
「お好きにどうぞ」
神は別段気にしないと言った風にその白紙のページをめくっていた。
「いや、おま……待てよ、もしかしてだけど俺って何やってももう死ぬのか?そう言う運命なのか?」
「んーいや、そうじゃないかな――君の運命は大方決まってるけれど、それはゲームで言うイベントだけ、その間の事は君自身の問題だ……生きるも死ぬも……この場合だとまだ可能性はありそうだけどね……あ、ゲームで例えたけど死んだら終わりだからね」
「ふーん……じゃああの時死ななかったのは――」
「ぶっちゃけ運だね……滅茶苦茶幸運だよね、僕もびっくりだよ」
「俺もそれ聞いてびっくりだよ」
それからそのページを読んでいた神は突然、面白そうな表情を浮かべ、元のページに戻っては、そのページまでを何度と往復し、その内容に深く満足すると本を閉じて立ち上がる。
「まあだから、生きるも死ぬも君次第、まあ生きてもいいけど死ぬのも悪い選択じゃないと思うからどうぞご自由に」
「まあいっそのこと死んだ方が楽なのは分かってる。見てて思ったよ」
「でも生きるんだろ?」
「嗚呼、待たせてるからな」
「わかった、じゃあそろそろかな――君が生きるという選択を取ったことで、もうじき君は元の場所で目覚める……」
そして、元の景色に戻り、自称神は最初会った時の老人の姿になっていた。
こっちの方が神っぽい。
「わかってると思うけど、もう君がここに来ることはない、そして私と話す時はここではない」
「そんな気はしてたよ」
「それじゃあ精々がんばりなさんな」
「ちなみにそれ……何巻まであるんだ?」
「君の選択によって巻数が変わる、どれも面白いよ、特にこの序章はね――普通の生活、いいねえ僕も憧れるよ」
その言葉は皮肉かそれとも、励ましか。
自称神にリュウジは鼻で笑い返し消える間際に言い返す。
「そうかい……じゃあ後で答え合わせと行こうじゃないの」
じゃあな――そう言って彼は砂のようにそこから消え去った。