真打ち登場、尚主人公死亡
煌びやかな白金の、肩にかかるほどの長さの髪を揺らし、剣を片手に、地に盾を差したその巨女は、まるで英雄かのように、そしてその期待を体現するかのように彼女は声高に宣言した。
『安心しな――第134代シン・アスペトロフ騎士団、前団長――フィーナ・クリオレイスが相手だ』
その名は一度聞いたことがあった。
何故ならば、自分が魔王であったとき(厳密に言えば今も魔王だが)軍部が暴走して勝手に戦った相手の、“国”と“英雄”なのだから――
それ故に、言葉にし難い何かしらの「あれ、これヤバイんじゃね?」という感情が生まれるがもう知ったこっちゃない。
マジかよ――でももう……誰でもいいや。
俺は生きれる方の選択肢を選ぶ。
故に――
「イエナ――安心しろ、助けてくれるってさ」
もう死ぬ一歩手前、それが死神か天使かは置いといて、野郎に殺されるよりはマシだった。
「お迎えですかい?」
「いいや――君も助けるよ」
「嬉しいねえ」
どうやらどちらでもないらしかった。
しかし、そう言っている間に彼女に迫る山賊。
「リュウジ!!もう近くまで来てる!!逃げないと!!」
「いいや……イエナ、大丈夫……もう安心しな――英雄が来た」
『嗚呼、よくぞ言ってくれた、私は英雄――英雄クリオレイス――竜を刻み、魔を薙ぎ、いずれは神をも倒し、天に立つ……私は前団長フィーナ・クリオレイス』
右手に持った剣を天高く掲げ彼女は宣った。
そして、すぐ前まで山賊が襲い掛かった時である。
前方に2体。
左右それぞれ5体。
上から6体。
計13体を探知――しかし目に見えるのは前方のトリッキーな動きをする2体のみ。
まるで獣のように跳ね回る山賊。しかし、彼らは囮だろう。本命は上からの――
その光景は目で理解したとしても。
脳が理解する頃には、もう終わっているのだった。
恐ろしいスピードで上から下へ剣を振り下ろす。いや獲物を薪割りの如く2体を地へと叩きつけた。その斬撃とほぼ同時に盾を持ち上げるや否や、3体の斬撃を防ぐと体を捻らせ、盾で三人纏めて殴り飛ばした――多分直接脳に衝撃がいっただろう。
あっという間に。残りの山賊は、劣勢なのを判断しいつの間にか姿を消していた。
「準備運動にもなりゃしない……大丈夫かいそこの人」
「――」
「騎士様!!お願い助けて欲しいの!!」
「お、安心しなお嬢ちゃん、この英雄に出来ないことなんてないのさ」
そう上半身裸でいる自分の胸に手を置く。
「これはあくまで応急処置だから痛いだろうけど、我慢してくれよな」
「――」
もう声も出なかった、口からでるのは掠れた声だけ。しかし彼女は「ありがとう」とうなづくと、魔力を流し込む――
瞬間走るのは激痛だった。
『――゛』
声にならない咆哮が、当たり一面に響き渡る。
痛みだけじゃない、まるで胸や頭を生きたまま開かれて虫に食いつぶされているかのような不快感が、あの地獄で見た光景とリンクして尚、ハラワタがかき回されるかのような気持ち悪さと悍ましさが流れ込む。
「リュウジ!!」
「おいおいおい……なんでここまで無理をしたんだよ、耐えろ!死ぬぞ!!」
そりゃ俺は軍人じゃねえからな!!
「リュウジ!!お願い!!生きて!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――」
「お願い!!ねえ騎士様お願い止めて!!死んでしまうわ!!リュウジが!!リュウジが!!」
「馬鹿野郎止めるワケねえだろ!今度こそ死ぬぞ!!死ぬ一歩手前だったからな――魔力が少なすぎて逆に吸収を拒否してんだ!体がおかしくなってんだよ!!」
その通り、今俺の体は魔力の吸収を拒んでいる。
それ故に本来は足りなくなった魔力を補うため魔力の吸収を促すのだが、今俺の体は極限状態にまで魔力が枯渇しているため逆にその微々たる状態で体を維持しようと脳が障害を起こしている状態なのである。
それを知らずに彼女は応急処置をしているのだろう、焦りがにじみ出ている。しかししょうがない。普通こんな事あり得ないのだ。
とっくにレッドサインは越えていながらも魔力を行使し続けた。
そんな事、普通はやらないのだ。しかし、リュウジはやってしまった。何故なら彼女を守る為の自己犠牲だった。そして神への賭けでもあったから――
「おい生きろ!!もっと吸え!!」
「吸って……る……」
「足りねえからもっと吸え!!」
「リュウジ!!」
「うるせえなあ……やってるよ……」
掠れた声で、反論する。
ああダメだ。意識が朦朧としてきた。
畜生、最後に……最後に普通に暮らしたかったな――
待てよ……死ぬのか? 俺、もっと生きられるはずだろ? なあ、あんた飽きたのか? 俺の人生、おい何とか言ったらどうなんだよ……畜生人の人生弄びやがって――
『黙っていれば好き勝手言いやがって』
気付けば白い空間に居た。