ゆるゆるキャンプ
それから、イエナに枯木やさっきの衝撃波で死んだ動物などを持ってきてもらいキャンプをする――ゆるキャン△だ。
「思ったけど、なんで貴方がパンチしないのよ」
「だって俺弱いもん」
「もお!!貴方は紳士じゃないわ!!」
「いや俺、紳士じゃねえもん……」
嫌な顔して焚火をしていると、羽虫が勢いよく火に突っ込んだ――瞬間彼女が悲鳴を上げる。
「おいおい……まさかの未経験かよ」
「虫は苦手なのよ!特に蛾!気持ち悪い!」
「そんなこと言ったら可哀想だろうよ……女の子は蝶々愛でるんじゃねえよかよ」
「蛾じゃない!!蛾は蝶々とは言わないわよ!!」
「まあ……確かに気持ち悪いけど」
「ギャアアア!!こっちきた!!追い払ってリュウジ!!」
「ったく、無駄な魔力消費したくねえんだよ……しょうがねえなあ――」
と、バリアを張る。結界は地味に魔力を食うので苦手な部門だ。
と言っても蚊帳のようなものなので、まあ最適と言えばそうなのかもしれない。しかしこれが限界だ、やはり知識が貧しいとあってないようなものだ、もっと効率よくて強力なものがあるはずなのに
まんま、ジブのドームシールドみたいなんだよなこれ。視界が悪い。
「ねえ、甘い物が食べたいんだけど何かないの?」
「ねえよ……あー甘いもの食べたくなっちまった」
腹減った……。肉も「私が取ったんだから!」と少ししか食べられず、空腹のままぐったりと、大木に寄っかかっている。
まあ独りでいるのも寂しかったし、今のところは悪くはない。
さて、この先どうするか……いつしか魔王だったことがバレて殺されるだろうか、それともどこか平凡に暮らせる未来もあるのだろうか……。
嗚呼、今は普通の暮らしに戻りたい。
アパート借りて普通にどこかに勤めて、何も起きない暮らしをしていたい……。
もうトップなんて嫌だ。
8割型部下が無能なんだもん。
普通に暮らしたい――責任なんてそこそこで十分だ。
国一個単位の重圧なんてもう背負いたくない。
いっそ逃げよう、全てを捨ててリセットしよう。うん。全部リセットだ。
もう三鷹リュウジとして。ケイン・アルバトフなんて名前も捨てて、どっかの中立国に逃げよう。
金も名誉もいらん。
よし、それで行こう。
「決めたぞイエナ……お前とはここで――」
お別れだ、と言おうと思ったらもう寝ていた。
困った、ここに置いていくわけにもいかない……まあ仕方ないと自身のマントを彼女に被せ、自分も浅い眠りについた。
「おと……さん、おかあ……さん――どこにいるの――」
ふと聞こえた、彼女の寝言に一瞬複雑な心境を抱いた。
せめて、せめて夢くらいは好きに見させて上げなきゃ可哀想だ……彼はそう思い、彼女の額へと術式を込めた。
安眠のおまじない――戦争で負ったトラウマを治療するための魔法。
ああ、切り離したいもの全てが役に立つ。
リュウジは一刻も早くその息のつまるような現実から逃れる為自身にも睡眠導入の為の薬を含み、ゆっくり唾液で溶かしながら静かに目を瞑った。
夢でさえも華やかな景色なんか見れるはずもなく、ただ暗闇を進んでいるだけだった。
平凡に――平凡に暮らすんだ――
まずは市民権を得ることだな。