実は俺が魔王なんだって話する?
言葉でない言葉……いわゆる魔族用語と言う喉を酷使する発音の言葉なのだが、なんど回復魔法に助けられたことか。
まあしかし、やっぱりと言うべきかまあ当たり前とも言うべきか、魔物たちがすぐ近くまで迫っていた。声から考えるに、10メートル圏内と言うところだろうか。
彼らの声は低いし響く。そしてとても鼻が利く。
「イエナ――いいか?」
「ええ、準備万端よ」
彼女に耳打ちすると、彼は、魔法陣を傍に描く。体力増強陣……魔力の使い方にもよるが、大方彼女なら30分は持つだろう。
しかし、傷が浅かった……無自覚に自動回復を入れていたためかすぐに切れる……まあしょうがない――右の人差し指の第一関節を奥歯に当てて、片方の手で顎を抑え――
瞬間、痛みは走らなかったが骨を折る感触はいつまで経っても不快だった。
「大丈夫!?」
「まあ、何度もやったことだ、俺にはこれしかない今更怖気づかないよ」
「とても強いのね!」
「嗚呼、俺は強いぞ――これでもな」
回復魔法の応用ではあるが、これも必修レベルで抑える項目だった。
神経を鈍らせる、麻酔術――もとはと言えばあっちの大国で戦場に駆り出される為に覚えらせられる技術だ。
『ハ゛オ゛ォォォォォォォ!!』
彼らの声が聞こえる。
後はもう彼女の――ドワーフのイエナを信じるのみ。
その小さな体躯から放たれる剛腕の殴打――さあ、見せてくれ……極限までに魔力を吸い込んだドワーフの本気を――
その瞬間感知したのは、およそ20数人の精鋭――しかしその時既に、息絶えていた。
それは時間にして、僅かコンマ以下の出来事だった。
通常、生活する上で魔力というものを使う場面は少ない、しかし、何かしら武具を振るったり、攻撃目的として力を使用するとき、魔力を消費すると莫大なエネルギーを生み出す。
しかし、普通の生物である場合魔力の蓄積量は有限であり、高位種族でない限り、考えて消費せねば自身を破滅に導きかねない。
魔力とは生命そのものなのである。
その世界の数ある種族の中で、彼女ドワーフという種は、魔力の吸収がしやすい種族の一つであった。
それ故に、彼女が本気で魔力を吸収したその景色はまるでシシ神そのものだった――
地を唸らせたその一撃は地表をめくり上げ、あれだけ視界いっぱいに広がっていた森林は、岩と枯れ木、そして根がむき出しとなった更地が広がっていたのだった。
想像もしなかった、その光景にリュウジは呆気に取られていたものの、理解が追い付いていないわけではなかった。
「リュ……ウジ」
「すっげぇ……」
魔物達でもここまで怪力なやつはいなかった。
バフが掛かっていたとは言えまさかパンチ一発でここまでなるとは……
「サイタマじゃん」
「サイタマ?ってか、何が起こったの!?」
「お前……自分でも分かってなかったのか」
では説明しよう。
実際あれだけの威力のパンチをしようものなら、一瞬で生命維持のための魔力は尽きる。
しかし、事前に許容量を遥かに超える魔力の吸収を促したので君は生きているのだ。
「あれ?それだとおかしくない?なんであれだけ魔力吸い込めたの?」
「そりゃ、俺の魔法陣のお陰だろ」
「ええ?でもそんな実感なかったよ?」
「そりゃ痛みを感じる間も無く魔力を蓄えていたからな――」
それでも納得していなさそうな顔をしていた。ニャオハみてえな顔だな。
「水風船ってしってるか?」
「何それ」
「あーあれだ、フグに水入れて遊んだことあるだろ?あれと同じだ」
「へえ、あれってそう言うんだ」
「いや厳密には違うんだが――」
簡単に原理を例えると、フグがお前の魔力を蓄積する器官で、水が魔力。
んで、普通フグに限界まで水入れ続けていたら最終的には破裂するわけだが、破裂する瞬間に、またギリギリ破裂しない程度のフグに再生する。
それでまたそれを何度も繰り返していくと、限界量を越えた限界量に際限なく近い限界状態を生み出す……つまり常時ギリギリの状態が保たれたまま最大値を更新し続ける。
結果、無尽蔵の魔力が宿る。
「えぇ……そんなこと私の体にやったの?」
「説明しただろ」
「難しくてよく分からなかったわ?」
「まああれだけ急いでればな……」
「いや~でも私ってば最強ね!……というか、リュウジ――あなた発想が悪魔的だわ」
え? もしかしてバレちゃった?
「あなたなら多分あの魔王とやらを簡単に倒してくれそうね!」
「いやあ勿論、俺が倒してやるよ」
まかせなさい。