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怪力幼女登場

『畜生!!』


 何もかもにクソッタレ!!

あらゆる物にファックユー!!


 資産は全部、何かあった時の為イェルチェフ金庫に預けてある。

 端的に説明すればスイス銀行のような場所だ。ちなみにゆっくり解説(つけ焼き刃)での知識なので。多分違う。


 そこは全世界でも圧倒的に匿名度の高い小国なのだ。とにかく『傾きに 手を染めたらば 暗居地へ』という詩があるくらいには有名なのだ。今はそこを目指して遠回りしつつ走る。こういう時に魔法は覚えておくべきだった――


 最低限の魔法しか使えない自分にとってこの世は、前世よりも非情だ。


 ――ああ、HTMLとCSS学んで満足したのとなんだか似ている気がする。


 いやそんなことを考えているわけじゃない。


 うへー転移魔法使いたいよー!

 回復魔法は便利だけどもっと、効率いい奴あるはずだよー!

 馬あー! 

 馬なら乗れるッ!!

 馬あああ!!


 なるべく追っ手や山賊などに勘づかれないよう、森の中をアクロバティックに移動する。

 樹の幹を蹴り上げ、マリオの壁キックの如く、マインクラフトのアスレチックの如く軽々とその樹海を移動する。


 そして――落ちる。


 調子に乗り過ぎた。


 痛みはない。これは強がり、魔物と一緒にいた時の悪い癖が未だ忘れられずいる。

 衝撃に全身がまるで振動するような感覚に陥る。痛みという痛みではなくショックという類の感覚。骨と骨が軋む。

 筋肉ももう疲労に働こうとしない。

 心拍も上がってる。

 肺に衝撃が渡ったせいで呼吸ができない。


 空気を求め喘ぐが、しかしすぐにどうとなる訳でもない。

 そして次に来るのはちゃんとした痛み。経験してきた痛み。

 よかった――運がいいか悪いのかは分からないが軽い捻挫で済んだ……。


 腕も結構派手に擦りむいたが、マントのお陰で肉は裂けていない。

全体的に結構擦りむいてはいるが、回復魔法さえかけていれば数日程度で治るだろう。


 しかし――


「腹減ったなあ……」


 響き渡るのは自分の声。

 周りを見渡してあるのは、大樹と青々とした草。

 何らかの動物の鳴き声に、近くを通るのはまるで金塊のように光を反射する黄金虫に、蟻――しかし、通りすがりのリスのような小動物が黄金虫一直線に飛び降りるや否や、それは連れ去られてしまった、目で追うとなんと寄っかかっている幹に住むお隣さんだった。


 ふと空白に似た間が彼を襲う。


「――」


 黙っていればいる程、自然という雑音が如何に騒がしいかが身に染みる。


 うるせえなあ……。

 ふと思う。疲労と少なからずせりあがってくる恐怖と不安、それを加速させる孤独感。

 ここで死ぬのかなあと、思っても見ないことをあえて言ってしまうあたり、心の消耗が伺える。

 神さんよ……お前が俺をここに送ったの、多分申し訳ねえからじゃなくて、面白そうだから入れたんじゃねえのか……畜生あれだけ殴ったのに殴り足りねえ……。畜生……。今度生まれ変わったら、もうとことん反抗してやろ――


 また訪れる静寂。


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!』


 つい、叫んでしまった。

 追われている身で我ながら自分自身に何をしているのか問い詰めたくなるが、まあでも人間追いつめられればこうなる。


 精神が未熟な精神年齢31歳の男三鷹リュウジ、ここにきて本来ラスボス的な立ち位置であるハードルをまだ、越えても居ないのに立ち向かわなくちゃいけないのって酷すぎやしませんか――


「いっそ死のうかな」

「ねえ君何してるの?」


 驚きすぎて、言葉由来の叫び声ではなく。声の、動物本来の叫び声が出た。そして、向こう側も同じく動物本来の声で叫んだのだった。


「だれ!!お前!!」

「わわわわ私、イエナッ――イエナ・シトレイフ!!」

「……三鷹――リュウジ」


 数秒の沈黙の後、三鷹は手を差し出し「よろしく」と呟く。

 冷静になった俺は、心の中でなんて拍子抜けする出会いなのだろうと思ったけれど、でも今はとてもそんな風に浸れるような余裕はなかった。


 それからなんやかんや話していると、彼女はこの近くにある集落を魔物に襲われて逃げてきたらしい。生き残りは分からず、父も母も生きているかは分からないとのこと。成程、では探さねばなと、立ち上がろうとしたとき足首に激痛が走る。

 捻挫していることをすっかり忘れてた。


「しかし、魔物に襲われたのに生きてるって運がいいな……お互い」

「うん!まあでも私こう見えても戦士になるのが夢なの!」

「へえ?そんな小さいのにかあ?」


 彼女は僅か120センチほどの幼女だ。


「私はドワーフよ?まあでも歳は今年で10なんだけどね」

「なんだガキかよ」


 と笑うと、彼女が『舐めないでよね!!』と近くにある彼女と同じ背丈ほどの大岩を持ち上げ遠くへと投げ飛ばした。

 おいおいマジかよ、これで10歳? え10歳のドワーフってこんななの? まって、え? 何これって……え? あれ中身入ってる? 


「どう?私ドワーフの中では強い方なのよ?」

「なんだ、安心した」

「なによ、レディに失礼よ?それにしても、その怪我大丈夫なの?」

「ああ……まああと数時間はかかるだろうな、今日はここで野宿かね」

「ふーん……じゃあ私もいい?さすがに私一人じゃ危ないでしょ、盾になりなさい」

「……説得力無えなあ」


そう言いながら談笑をする。


「そう言えば、襲ってきた魔物の特徴は分かるか?俺、魔物に詳しいんだ」


 何たって魔王だからな


「うーん、確か魔王ケイン・アルバトフの配下みたいな事言ってたような……」

「ッスゥー……うわーマジかー」

「私ね、その魔王ってのをこの手で殺してやるの!よくも私の村をって!!」

「嗚呼、それは許せねえな……協力するぜ!」


 最低だなその魔王ってやつ。こんな幼女の集落を襲うなんて、なんと卑劣な輩だろうか――ん? 待てよ、ってことは近くまで来てるんじゃね?


「なあシトレイフッ」

「イエナでいいわ」

「なあイエナ――ここに辿り着いたのは?」

「ついさっきよ?」

「どうしてここに辿り着いた?」

「大きな声がして……その方向に歩いていたらあなたが居たわ」

「なるほどね――」


マズイな……かなりマズイ状況だ。

予想よりも早かったし、何よりも自分が戦犯だった。


「リュウジ?」

「イエナ――作戦変更だ」


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