表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

3人の強者と元魔王


「お父さま!?」

「よかった、生きていたか――事態はより深刻な方へ向かっている……申し訳ないがここで立ち話をしている暇はない」


 白く分厚い髭を蓄え、金色の甲冑を身に纏った姿――それは紛れもなく彼女の父の姿だった。

 迫り来る、魔物の頭に乗った彼は、トドメの一撃をの脳天に突き刺し無力化させると、イエナは縋るように彼の元へと駆けて行く。


「お父さま、村の方たちは……村の人たちは!!」

「無事だ――それよりも嫌な予感がする」

「嫌な予感?」


 しかし、彼はそこで答えを出し渋る。


「嗚呼、しかしそれが何かと言われると答えかねるのだが――」

「いえ、お父さまがそう言うのなら信じるわ、お父さまの勘は当たるもの」

「過信はいけませぬ――」

「おおセバス!!」

「お久しゅうございます……事態は刻一刻を争うと聞き――」

「嗚呼、とにかくイエナ、村と一族は無事だ……いいか一度しか言わないからよく聞くんだ。そして一刻も早くフィーナとリュウジの下へ知らせてくれ――」


――そして、今に至る

 彼の伝言はこうだった。


『事態は最悪だ、魔王の急激な成長により、魔物の知能が向上しているのか全体の動きが変わった』


「最悪だな」

「どれくらい最悪なんだ」

「良くて誰かが死ぬ程度」

「――良くて?」

「悪くて私以外全滅だ」


 リュウジは唖然と口を開ける。

 その全くと言っていいほど、現実味の無い答えに、困惑と変な焦燥を覚える……。


 どうして、どうしてそんな顔をして言うのだ……。

 どうしてそんなにも重々しく真面目な顔して、そんなにもあっさりと言えるのだ……。


「本気で言ってるのか?」

「まあ力を持ってしまったからな……とんだ地獄になりそうだね――」


 いや、違う。

 自分が彼女に聞きたいのはそんな事実じゃない――どうしてそんな平気な顔をして犠牲を語れるのか――何故自分が生き残れると軽々しく答えられるのか……。

 しかしそう疑問を抱くのとはまた違う自分が理解しているのがまた理解できず、どうしようもない焦燥に駆られた。

 三鷹リュウジはこの状況に気持ちの整理がつかなくなっていた。

 殺される恐怖とはまた別の――人間に対する恐ろしさのようなものに、喉の奥に言葉がつっかえるような感覚に近い、感情が中で渦巻く。


「フィーナッ」

「……? どうした?」


 きょとんとする彼女、まるでこちらの抱いている感情が理解できないかのような仕草で言う彼女を見て初めて理解する。怯えがないのだ――


 彼女は慣れてしまったのだ。

 人が生死の境目に立つ戦場を、対立に命をかける戦争を、生き残るため行う躊躇ない選択を、血を省みず剣を振るい、命乞いにも怯むことなく。

絶対的自負を持つまでの戦況判断を有し、冷静かつ冷徹なまま感情の一部を切り捨てるまでに地獄に見慣れ、どうすれば絶体絶命な状況を切り抜けるかというトロッコ問題以上に最悪な選択を強いられる。


 そんな戦場の匂いに慣れてしまったのだ。


 だから人一人の命の重さは重々知り尽くした上で、咄嗟にそれを天秤にかけることができるのだ。その発言は軽くなどなかった。

 にも関わらず、やはり軽薄に見えてしまう。

 自分とフィーナとでは戦場においての経験値とレベルが違い過ぎたのだ。


 それ故に、なんて返答しようか詰まる。


「どうしたんだ? 何か疑問でも――」


 何度か迷った末、


『いや、強いて言うのなら僕は死にたくない』


 そう言い放った瞬間、険悪な雰囲気が漂った。


『いや、リュウジ……君と言うヤツは……』

『リュウジ貴方本当に最低ね!! 見損なったわ!!』

『あんたみたいな甲斐性なしはさっさと魔物に襲われて死ぬのがお似合いよ!!』


 そう完全に、彼女たちから蔑む表情で罵倒される光景が安易に想像できたので。


「犠牲なんて語るもんじゃねえ、俺達が片っ端から洗浄してやろうぜ!!」

「おおリュウジ!! 君にしては珍しく頼もしいな! その意気だ!」

「え……あんた本当に思ってるの? こんな甲斐性なしなのに心の底から言ってるとは到底思えないんですけど……」

「いいえ、ニーナ……リュウジってやばいのよ?」

「え、本当なんすかお嬢? 見るからに頼りないっすけど……しかもこの聖騎士に頼りっぱなしでしたし」

「いいのよ、武力はフィーナの領域よ、リュウジはそれをカバーする魔導士(マスタークラス)なんだから」


――めっちゃ過剰評価してるぅぅぅぅぅぅ!! 


 ちょっと待て。ちょっとちょちょちょちょちょっと待ってくれ!! 魔導士はおろかまだ軍隊で言えば下の下だぞ!? 盾にもならない補給係でしか経験がないのに!! 


「ちょっと待――」

「ほお、まあ魔力量はなんか違うと思ってたけれど……でもそれを使いこなせるほど器用に見えないっスヨ」

「まあ見てなさい! 魔物も魔獣も、もしかしたら“あの魔王”も倒せるかもしれないんだから!!」

「ああ!! 一網打尽にしてやるよ!!」


 やべ~~~~その魔王俺だわ~~~~~~やべ~~~~~。

 イエナの村襲ったの俺の部下だわ~~~~~~部下の独断による暴走なんだわ~~~。

 どないしよう……殺される!! 

 今度はイエナに殺される。

 フィーナとは比にならんくらいに殺される。


 どないしよう!!


 冷静を装うリュウジだが、しかし、その一連の会話になんとなく察しのついたフィーナは、片眉を上げて彼を訝しげに見た後「それにしてもイエナ」と話題を切り替えた。


「よく、父君に会えたな……偶然と言うにはあまりにも理路整然としている」

「まあずっと追いかけていたみたいだったから――」

「そうだったのか!?」


 その声を上げたのはリュウジだった。

当然と自負を誇った顔で「ええ」と彼女は胸を張り自慢げに話しだす。


 イエナの村が襲撃されたときまでに遡る。

あの時彼女は命からがら身一つで逃げることに必死で、その時にリュウジで出会い、追っ手を巻き上げ逃げていた最中、村を守ったドワーフが一人いた。

 それこそが、イエナの父――オーゼフだ。


 村に住まうドワーフ族の騎士達の長に君臨するその存在はイエナは勿論、傍らで聞くサラマンダー娘にも慕われているようだった。


『まさに“多腕”のオーゼフね』

「多腕?」

「きっと想像してるのとは違うと思うよ」


 あぶねえ、一瞬カイリキーが頭に過った。

 話によると、2本の腕からでは想像できない程の神業により敵を打ち倒す姿からそう言われているらしいが、どんな戦いぶりなのだろうか……。フィーナを見ているからか、なんだか想像ができない。


「それくらい凄い人なんだな」

「ええ、私の尊敬する父よ」

「羨ましいな……」


 ポロっと出る。

 しかし、その言葉を気に留めることなどなく彼女は話を続けた。


――イエナと一夜を過ごしたその直後のこと。


 それをイエナが口に出した瞬間だった。

 悍ましい殺気が、後ろから感じる。フィーナもイエナも自分より前を歩いている。


「べ、別に何も変なことはしてねえよ!?」

「分からないけどね~」

「ちくしょ~~~~!」


 なんだかあらゆる侮蔑の感情がその瞳にあった。

 とてつもない悔しさというか苦さというか恥ずかしさというか……とにかくそう言う感情が一気に流れ込んでくる。


「まあでもその時、野賊から身を挺して守ってくれたのもリュウジなのよ?」

「へえ、やるじゃん……見直した」

「軽すぎない?」


 ほとんど棒読みに近いが、まあでも随分とマイナスに印象が寄っている……これくらいじゃまだプラスに振らない。

 なんとか彼女にも好印象を持ってもらいたいのだが……。


「あ、でもあの時水浴びをしてたから、そのまんま服すら持たずに逃げたのよね~あそこはちょっと惜しかったかしら」


 ああ、マイナスに振り切れちゃった。


 物凄い殺気を感じる。

 まるで今振りむいたらバラバラにされて、どこか暗闇に引きずり込まれそうな……とてつもないオーラを感じる。多分“怪物”がいる。


「コッチヲミロ……」

「弁明の余地を――」

「コッチヲ……ミロ――」

「こらこら喧嘩はやめなさい」

「オ嬢……」


 よかった。

――でもどうしよう、このまま魔王バレしたら、多分勝てない気がする。フィーナも絶対味方になってくれないだろうし……しかもイエナのお父さんもやばそうだ。

 まあその時はその時だ、神に祈ろう。いや神が助けてくれるわけがないんだった。


「なんかますますこいつがきな臭くなってきたんだけど」


こいつって……。


「安心したまえ、こんなんでも根はいいんだ」


 こんなんって……。


「そうよ、リュウジは魔法使いの中では最強なんだから!!」


 はあ~天使。

 俺好きになっちまう。


 そんなリュウジの心はツユ知らず「まあでもたまに意味わかんない事言い出すけどね」と言って、結局この中では好感度が最下位であることをひしひしと感じながら、歩く。

 なんだか足取りが重く感じられた。

 多分、きっと今の自分はしわくちゃに疲れ果てた、あの実写版ピカチュウみたいに哀愁漂う姿になっていることだろう。


 ああ辛い、苦しい。早くここから抜け出したい。

 間違っても今から魔物と戦う雰囲気じゃねえよ。


「ねえお嬢、変なことって何すか?」

「えぇ? いやニーナが気にするほどの事じゃないわよ……確か――」

「なあ、もうそこらへんで良いだろう……人というか俺を苦しめることにおいては多分君らが世界最強だよ」

「それもそうね、このままあんたに死なれても胸糞悪いし」

「泣きてえ」


 嬉しいんだか悲しいんだか――


 それから彼女は話を軌道に戻した。

 彼女が言う野賊、というか山賊に逃げていた頃、彼女の父オーゼフはその場に留まっていた山賊と鉢合わせ、立ち向かってくるもの全て打ち倒したらしい。


 その話に誇張がないなら化け物だ。

 実物を見てみたくなる。


「さ、急ぎましょ」

「まったく、無造作に根を成長させた誰かさんのお陰で進みにくくてしょうがないわ」

「あんたの所為だろうがよ」

「こら! この話はもうおしまい、ニーナちょっと手伝ってくれないかしら」

「お嬢の為なら喜んで!」

「ありがと」


 地上を無造作に覆った根はその通りを塞いでしまっている状態だった。ほんと誰だよこんな迷惑なことしたやつ……俺だぁ。

 しかしこのアマ――イエナにゲロ甘過ぎねえか……ロリコンかよ。


「なぁに見てんのよこのロリコン!」

「お前ぇに言われたかねえよ! このロリコンが!」


 ロリコンって言葉は存在するんだ――


 一方その頃オーゼフは酒場にてセバスと向かい合って地図を睨んでいた。


「頼りにしとるぞ、知将セバスよ……」

「ハハッ困りますなあ……私とてもう老い耄れの身ですからねえ……あの頃と違ってどうしても頭が回らないもので……だから参謀も降りたのですがな」

「頼りになるのはお前だけだ……かの四大種族同盟の数少ない生き残りなのだからな――」

「では――こう言う知略はいかがでしょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ