魔獣初級討伐クエスト
誰でも気軽に楽しめるような読み物と言うような目標で書いてます。
例えるならマクドナルドのトレーに敷いてある紙のような。
さて、そう言われているのも露知らず。三鷹リュウジは走っていた。魔物から。
「ちょっと聞いてないぞ!? なんだこの気持ち悪いの!!」
「聞いたことぐらいはあるだろう!? あれが魔物だ!! 初等教育で習うだろう!!」
「お~? 俺習ってねえよ!?」
「――は?」
それは、意外にも建物から出た時だった――外の喧騒が一段と騒がしくなる最中、ドワーフと共にあらゆる行商人たちが牛車や竜車、馬車を走らせ、目の前を過ぎてゆく光景は、素人目でも異常な光景だった。
「フィーナ俺はどうしたら」
その中、一台の馬車が止まる――『騎士様!! 早くこれに乗って!!』と、彼がその雪崩れ込む人混みの中止まると、河流に突き出た大岩の如く逆に前に進めなくなってしまった。
『おい!お前らどけ!!』
『うるせえ!お前こそ後ろを考えろ!!』
途端に後ろから激しく鳴り響くクラクション――
『騎士様!!早くお乗りくだせえ!!もうすぐそこまで迫ってきてます!!』
そう彼は馬から身を乗り出して腕を振る――見るからに格式高い服で、彼が高階級の行商人だと分かった。
『いやいい!!君は早く逃げよ――』
『そう言う訳にも行きませぬ!!早くこちらへ――さあ急いで!!』
そう叫んだ直後、彼の荷台が押し潰された。
なんだ!? 何が起きた!?
黒い物体が、彼の荷台に突っ込んでいる。何が何だか分からない、どす黒い靄に包まれたタタリ神のような風貌の“なにか”が抜けないままはまって暴れている。
瞬間周囲にどよめきから阿鼻叫喚へと変わり、完全に皆パニックに陥るのだった。「魔物だ!!」「魔物が来たぞ!!」「もう荷物は全部おいていけ!!」そう口々に行商人やドワーフ達が一層狭い路地へと逃げ込んでゆく――中には真反対の方へと行く者もいた。
やばい……なんだか分からんが、何かが――「やばいんじゃないか?」そうフィーナに呟いた「想定していたよりも最悪だな――」瞬間、彼女は大剣を抜き、無言で盾をリュウジに預けると、地を蹴って荷台にはまった魔物へと一直線に突っ込んだ!!
あまりにも大きく、あまりにも重いその盾に圧し潰されそうになりながらリュウジは彼女の姿をただただ目で追っていた。
まるで、木の棒かのように軽々と大剣を降りまわす彼女の姿は、まるでバーサーカーだった――秒と速度を緩めることなく、そのまま獲物に向けて一直線に突っ切る。
一刀両断――
いつからだ――いつから大剣を振り上げ。
いつ――いつ大剣を振り下ろしたのだろう。
目で確認したときには、もう全てが終わっていた。
それほどまでに、彼女の“技”は極地に達しているように見え、それは「圧巻」の体現とも言えた。
――真っ二つに切り離された魔物の返り血を、一滴として浴びない、その輝きを保った甲冑が彼女の戦闘力を物語っている。
まるで、それまで静止していた世界がゆっくりと動きだすかのように、魔物は動きを止めたかと思ったその時、二つに切り離された体がまるで拒絶しているかのように激しく暴れ始め、ようやく姿を露わにする。
6本の獣脚、鹿のような顔面それを取り囲むように長い首に7つの猿のような顔が不気味に口をパクパクとさせている。
バタバタと、6本の脚が虫のように、何とかして立とうと蠢く――なんだこれ……何なんだこれ……こんなの、こんなの知らないぞ、見たことも無い、これが魔物なのか? こんな化け物みたいのが? これが魔物なのか――?
瞬間、不気味にこちらと目が合った、数秒恐怖と微かな絶望と悍ましさに体が支配され、身動きが取れずいると、直後ごろんと前足2本と欠けた1本でバランスを保つと、恐ろしいスピードで這いずり迫ってくる!?
「――ッバ!?」
馬鹿な――そんな馬鹿なが事あるか! 驚愕に支配され、完全に何をするべきなのかを忘れる。過ったのは死よりも恐ろしく取り込まれてしまうのではないかと言う恐怖だった。
得体のしれない化け物が突如としてこちらに迫ってくる――よく、ホラー映画とかで見る展開だが、やはり身動き一つとして取れず、息さえもまともにできなければ、頭が真っ白になるのだ――嗚呼終わった。目を閉じ心の中でそう呟いた。
瞬間、激しく金属のぶつかる鈍い音がし、間を置くことなく何かが壁にぶつかる音が立て続けに聞こえ、恐る恐る目を開けると目の前は肩に剣を担いで、こちらに手を差し伸ばしているフィーナの姿があった――見てみると、聞いたままの光景がそこに広がっていた。
思った以上に強く叩きつけられたのか、民家の壁は綺麗に凹んでポロポロと崩れ落ちていた。「ふぅ」と助かった事を実感しながら、彼女の手を借り起き上がる。
「うわ」
「まだ生きているよ」
痙攣するそれに彼女は近づくと、首の辺りを手で撫で、何かを探しあてると腰に携えた短剣で切り裂く……何を探しているのかと近づいてみてみると、思わず口を覆った。なんて強烈なニオイなんだ……。足の酸っぱい匂いと、腐った卵を合わせたような腐敗臭と言えばいいのだろうか……とにかく臭い。クセにもならない。
「鼻……大丈夫なんか?」
「まあ慣れてしまえば……正直私だってキツイぞ……」
見るからに顔色が悪そうだった。
よく、魔物の肉を食べる様子が描かれないが……成程、確かに例え食べれるとしても口にしたくはない……。
「……これ食えるのか?」
「何言ってんだ、食べれるワケないだろう……魔物の肉だぞ!?」
まるで非常識な人間を見る目だ。いや、そうだよな。普通食わないもんな。
「それにしても助かった……ありがとう」
「いいや、こっちもこっちだ、一発で仕留め損ねたんだ、危険に晒してしまった」
「あ……まあ、うん――」
こういう時、なんて返せばいいのだろうか。一番困る。
感謝したいのだが、相手が素直に受け取らない時……こっちはどういう反応するのが正解なのだろう。まあいいや。
「それにしてもあれだけいたのに――」
『いやいや騎士様助かりました……』
人一人としていない。
そう思ったら一人いた。
「この御恩はいつか必ず」
「ああ、さっきの……無事でよかった」
「ええ、騎士様のお陰ですよ――それよりももう逃げた方が良いかと……うちは4頭立てですので余裕ありますから早くこちらに」
そう彼は、崩れた荷馬車を切り離して手綱をこちらに渡す――ならば、こいつらを貸してはくれぬだろうか――と、フィーナは麻袋を手渡して彼に言う。
「生憎、今は戦争中だ――敵前逃亡は許されない、心許ないがそれは馬の分だ金貨が20枚入っている……後で私宛に請求書簡を届けてくれ、後で返そう――では二頭分、必ず返す」
彼女は馬に跨りながら早口で言うなり、彼の答えを聞く前に去ってしまった。一方、普通に馬がデカすぎてリュウジは乗るのに苦戦して、やっとの思いで跨った時には、結構彼女との差が開いていたのだった。
「ごめんおっさん、今は急ぎなんだ」
「ちょ、ちょっと!! お前は誰なんだ!!」




