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第17話【陽だまりの夢】

 懐かしい夢を見た。

 温かい太陽の光に包まれて屋敷のガゼボでお昼寝をしている夢。


『エヴァ……エヴァ』

『ん……』


 眠い目を擦り柔らかな膝枕から顔を上げると、目の前には美しい亜麻色の髪の女性が微笑んでいた。


『そろそろ起きて、お父様をお出迎える支度をしましょう』


 ニッコリと優しい顔で笑った女性は、寝起きの悪い娘の機嫌を取るように父の話題を出す。そうすればいつも少女の機嫌が悪くなるのを避けられると知っているのだ。


『もうそんなおじかん?』

『そうよ、今日は帰ってからたくさん遊んでもらうんでしょう? さ、屋敷に戻らないと』

『はい、おかあさま!』


 エヴァは母の隣から降りると屋敷のほうへ走った。


 そう、いつも昼間母と一緒に遊んでいた。敷地内のいろんなところに行き、虫を捕まえ本を読んでもらいかくれんぼをしたり。


 くるりと後ろを振り返ると、母は笑顔のままガゼボに(たたず)んでいた。

 

『おかあさま? いっしょに行かないのですか?』

『…………ええ。もう、あなたにはクライム君がいるから……だから私がいなくても大丈夫』


 クラ、イム――――。


 ドクン、と心臓が大きく揺れ始める。

 知ってしまった。呪いの真実を。

 

 もう母はいない。クライムのせいで……死んでしまった。


『いいえ、エヴァ。それは違う』


 母はエヴァに近づき小さな頬をむにっと包み込んで同じ目線まで腰を下ろした。


『誰のせいでもないの。あれは不幸な事故なのよ。クライム君の呪いだって不慮の事故にすぎない。例え原因が彼だとしても、誰も彼を恨むことはないわ』

『でも……だって、たくさんしんじゃった……おかあさまも、きしのみんなも』


 母は小さく首を振りそれを否定する。

 

『……本当はあなたも分かっているでしょう? クライム君のせいじゃないんだって』

『…………お母様……』


 いつの間にか母の目線と同じ高さになり、エヴァの頬は涙で濡れていた。

 

『こんなに大きくなって……』

『うっ……お母様……っ』


 エヴァは同じ身長になった母に泣きながらギュッと抱き着く。子供の頃と変わらない、温かくてお日様の香りがした。


『エヴァ。あなたが大きくなるのを一緒に見守りたかったのに出来なくてごめんなさい。でも思い出してみて。私がいなくなったあと誰がずっと傍にいてくれたか、誰がずっとあなたを支えて守ってくれていたのかを』


(お父様、メアリー、…………クライム)


 母は優しく微笑み頷く。


『彼は全力であなたを守ろうとしたわ。ほかの皆も、彼は彼の持てる力の全てを使って周りを助けてきた。それは彼なりの贖罪(しょくざい)になると思わない?』

『クライム……』


 初めて彼に助けられた時、綺麗と思った。

 無表情で何を考えているか分からない彼は記憶を失っていた。

 少しずつ騎士の仕事について覚えていき、エヴァの傍にいるようになった。


 母を亡くしてからのエヴァは屋敷でずっとふさぎ込んでいた。だからクライムは一生懸命不器用なりに構ってくれるようになった。

 天気の良い日に外に連れ出したり、一緒に花の名前を覚えたり、珍しい食べ物をくすねてきたりしてくれた。

 その内元気を取り戻したエヴァはクライムを連れてまた敷地内で遊ぶようになった。


『お嬢様、木に登るのはやめてくださいとあれほど……』

『大丈夫よ! だってクライムが助けてくれるでしょう? 私のヒーローなんだもの!』

『……っ!』


 そう言うと彼は泣きそうな顔で喜ぶのだ。


 記憶がないのに彼はいつも自分を責めていたように思う。空っぽの自分を埋めようと一生懸命だった。いつもエヴァの傍にいて、自分が傷ついても構わず助けてくれて――――まさに彼は……。


『あなたのヒーローで……愛する人なのでしょう?』


 瞬間、辺りが光に包まれる。

 色とりどりの花びらが舞い、温かい陽だまりのような夢が溶けていく。


(そう……例えクライムのせいで傷ついて、血濡れた人生を歩んだとしても……私の気持ちは変わらないわ)

 

 だって――――彼は私に全力で応えて、たくさんの愛をくれたから。


 エヴァは真っ直ぐ前を向いて涙を拭い決意する。


「私は彼を、(ゆる)します」

 

 エヴァの頬を優しく包んでいた母は柔らかく微笑む。


『ありがとう……私の愛しい子』


 そうして母は光に溶けて消えていった。

 最後に"愛しているわ"と聞こえ、夢から覚醒した。

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