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第15話【恋人としてのデート】1

お久しぶりの投稿になります!今の漫画連載の仕事が一旦終わりましたので、5月中を完結目標にまたどんどん投稿していきますので宜しくお願いします。

「おめでとうございますお嬢様!」

「ありがとう、メアリー」


 朝早くから侍女たちに着替えさせてもらったあとメアリーと二人きりにしてもらい、髪を結ってもらいながらクライムと恋仲になったことを報告した。

 彼女はまるで自分のことのように喜び、目をうるうるとさせ満面の笑みで感動してくれた。


「でもまさかクライム様が半吸血鬼、ダンピールという存在だったとは……驚きです。どおりで他の殿方よりお強いわけですね」

「そうなの。夏頃にクライム自身が気付いたばかりだから色々あって大変だったんだけど、今はもう落ち着いているわ。どうかまだ秘密にしてね」

「もちろんです! エヴァ様の不利益になるようなことは一切致しませんのでご安心ください!」

「ふふ、ありがとう」


 父エイブラハムからもメアリーにはクライムの正体を明かしても問題ないだろうと言われていたので今更明かすことになってしまったが、案の定特に動揺は見られなかった。むしろ納得といった感じである。

 血の摂取に関してもダンピールなのでどうしても多少は血液を食事にする必要があること、そしてその血はエヴァが自らの意思で提供していることも伝えたので、今後メアリーの前では着替えの時に自分の首の咬み痕を隠す言い訳を一生懸命考えなくてよくなった。

 どちらにしろ首元は普段ドレスやリボン等で隠れているのと、ブラックフォード家の特質を知るほとんどの人が"エヴァを前にする吸血鬼は理性をなくし死ぬまで血を吸い続ける"と考えているので、まさか咬み痕だとは考えもしないだろう。


「さ、お支度ができましたよ」


 ポン、と肩を軽く叩かれたので鏡を見ると、長い髪をひとまとめにアップして可愛らしく仕上がっていた。


「わぁ素敵! ありがとうメアリー!」

「クライム様もきっと気に入ってくださるでしょう。そろそろ出発のお時間では?」

「そうだわ、もう迎えに来るかも」


 今日は初夏のお祭り以来になる王都でのデート。今回は主従の関係ではなく正式に恋人としての初めてのデートなので、エヴァはこの日をとても楽しみにしていた。

 お父様を説得するのが大変だったんだからと思い出しながら扉の前でそわそわしていると、時間ぴったりにノックが鳴ったので元気よく開けたら、驚いた顔をしたクライムが目の前にいた。


「お、お嬢様……おはようございます」

「おはようクライム。いつもどおり時間ぴったりね」


 エヴァは前回と似たような町娘風をイメージした装いだったが、今回はお忍びなわけじゃないのでそこまで地味ではなく白いブラウスにリボン、膝下の長さのスカートを履いており町娘にしては上品な格好をしていた。長い髪を丁寧に編み込んだ髪型とその装いは目立っていて、クライムからはエヴァの美しさを一層際立たせて見える。


「……とてもよくお似合いです」


 ほんのり照れたように目線を外しつつ褒めてくれたクライムに、エヴァは嬉しく思った。普段から褒めてくれているはずだが、いつもは表情を変えずに口にするのでこんなに露骨に照れてくれる彼は珍しいのだ。


「ありがとう、メアリーたちが朝早く頑張ってくれたおかげね。クライムもいつも以上に格好良いわ」

「光栄です」


 彼は黒い騎士服ではなく普段着ではいつもどおりの白いシャツに黒いスリムなスラックスと黒いコートを着ており、シンプルだがとても格好良い。恋をしたから余計にキラキラして見えるのだろうか。

 ニコニコと見守っていたメアリーに挨拶を済ませてから二人は馬に乗って王都に向けて出発した。

 

 

 

◆ ◆ ◆




 残暑も終わり肌寒さを感じるようになる季節。まだ紅葉はないが、過ごしやすい気温と温かい風を感じながら快晴の空を見上げる。目の前に広がる自由と希望の予感に、エヴァはわぁ、と感動の声をもらした。

 午前中に着いた王都は以前お祭りで来た時ほどではないがそれなりの賑わいを見せており、露天商もいくつかあった。


「クライム、露天商を見て回りたいわ。そのあとどこかのカフェに入って休憩しましょう」

「わかりました」


 ウキウキのエヴァに引っ張られるようにあらゆる露店を見て回る。目を輝かせながら感動を口にするエヴァが可愛くて、クライムは次々に「ではこれを買いましょう」と財布を取り出すので慌てて露店から離れた。

 クライムを引きずりながら近くのカフェに入り紅茶とタルトとキッシュを注文して一息つくと、ようやく小声で抗議した。


「もう! なんでもかんでも私にプレゼントしようとしたらダメよ! 気持ちは嬉しいけどおねだりしている訳じゃないの。金遣いの荒い我儘令嬢みたいじゃない」

「すみません……エヴァ様の楽しそうな顔を見るとつい……」

「うっ……」


 はにかみながら謝るクライムにきゅーっとなり、これ以上何も言えなくなってしまった。どうやら浮かれているのはクライムも同様らしい。


(私のためにお金を使わせたいわけじゃないのに……反則よ)


 出逢った当初に比べ、彼は本当に表情が豊かになった。エヴァの前でだけ見せてくれる優しい笑顔、戸惑い、時には照れた顔も。改めて自分たちが互いの特別なのだと実感した。

 

 注文していた軽食と紅茶が届いたので二人で堪能する。キノコと野菜がたっぷりのキッシュと秋のフルーツを使ったタルトはとても美味しくてぺろりと平らげた。

 エヴァの幸せそうな様子を穏やかな顔で見つめるクライム。彼の取り皿にはまだキッシュもタルトも残っていたので、思わず「食べないの?」と訊くと、「美味しいのでしたら俺のもどうぞ」と言われてしまった。そんなにもの欲しそうに見えただろうか。


「とっても美味しいから、クライムにもちゃんと食べてほしいわ」

「そうでしたか。では遠慮なくいただきます」

「たくさん食べてね。それとここは私に払わせてね」

「!」


 持っていたフォークを落とす勢いで驚くクライムに続きを説明する。


「安心して。あなたにはもっと大事なお支払いをお願いしたいの。このあと向かう場所は騎士団本部でしょ? つまり……」

「……旦那様へのお土産ですね」

「そのとおり! お父様は甘党だから、ケーキ屋さんに行って沢山買って行きましょう」

「了解しました」

 

 二人でエイブラハムの喜ぶ顔を想像しながらカフェをあとにし、ケーキ屋で目当てのものをいくつか購入してから手を繋いで聖騎士団本部へ歩いて行った。


 


「お、クライム! 久しぶりだなぁ。今日は姫さんと一緒か!」

 

 団長室へと続く廊下を二人で歩いていたら、クライムが遠征任務の際にいつも一緒になる緑色の短髪の青年に声をかけられた。第三部隊長を務める彼は、無口なクライムのこともよく気にかけてくれる面倒見の良い兄貴分のような存在だ。


「エヴァお嬢様は初めまして、ですね。ご機嫌麗しゅう。遠目でお見掛けしたことはあるのといつも団長から自慢されてます。セオドア・キーツと申します」


 ニカっと屈託ない笑顔で挨拶するセオドアに、いつもより緊張せずにすんだエヴァは笑顔で応えた。


「初めまして、セオドア様。エイブラハム・ブラックフォードの娘、エヴァです。いつも父とクライムがお世話になっております」

「いやぁ団長は怖いしクライムは何考えてるか分かんないっすけど、いつも世話になってるのはこっちのほうですよ」


 セオドアは右眼と左頬に大きな傷跡があり目つきも鋭いので一見怖そうなお兄さんだったが、人懐っこい笑顔で後頭部をかくその姿は意外にも親しみやすかった。

 

「セオが本部にいるなんて珍しいな」

「まぁな。お前がたくさん討伐任務に参加してくれたお(かげ)で近郊は大分治安が良くなったからなぁ。それよりお前……」


 ちら、と繋がれてる二人の手に視線を下すと、急にニヤリと笑いだす。


「ついに結ばれたんだなぁ。良かったなぁ。お前はいつも姫さんの話題になると……」

「それ以上喋らなくていい」


 身内以外の人間と親し気に話すクライムが珍しいので、エヴァの知らないクライムについて興味が湧いた。


「遠征の時のクライムはどのような感じなのですか?」

「お、良い質問だ。実はクライムは料理が下手くそなんすよ、食べられればなんでもいいと思っていてな。前なんかコイツ魔物の肉を使って――」

「セオ!」


 クライムの意外な一面を聞けただけで楽しいのに慌ててセオドアの口を塞ごうとする彼の姿が面白くて思わず声に出して笑った。

 

「うちでは常に完璧な騎士なのに、クライムでも苦手なことがあるのね」

「…………エヴァ様の前では完璧であろうと努力をしているだけです」

「ふふ、ありがとう。でも自然体なあなたでも嫌いになんかならないのに。それに私だって料理も掃除も出来ないわ」

「エヴァ様はいいのです」

「はいはいお二人さん、オレの目の前でいちゃつくのはやめてくださいね。団長に会いに行くんだろ? さ、行った行った」


 ぱんぱんと両手を叩いてからクライムの背中を押すセオドア。またな、と笑顔で見送られながら団長室へと向かった。

セオドアは第9話、おまけ漫画9.5話に出てきた短髪の男性です^^

名前決まりました( ദ്ദി ╹⩊╹ )

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