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第14話【認められたい】(クライム)

クライム視点のようですが、後半エイブラハム視点です。

 まだ日が高い時間。すれ違う聖騎士たちから好機な目で見られながら、王城の敷地内にある聖騎士団の団長室に続く回廊を歩く。

 ブラックフォード家の黒い騎士服に身を包むクライムは表情が乏しいので知らぬ人から見れば何を考えているのか分からないが、目的に向かい真っ直ぐ前だけを見て歩くその姿にいつも討伐任務で一緒だった同僚たちだけは気付いた。

 ”やっと欲しいものを手に入れる覚悟が出来たのだろう”と。


 彼らの内心の応援を背にクライムは辿り着いた団長室の扉をノックする。


「入れ」

「失礼致します」


 パタン、と扉を閉じて中に入ると、机に両肘をついて口元を組んだ手で隠した不機嫌な表情のエイブラハムがいた。気圧されそうな迫力にさすがのクライムも緊張したが、いつもどおり顔には出さず静かに礼をする。


「この度はお忙しい中、私のためにお時間を頂きありがとうございます」

「挨拶はいい。さっさと本題を言え」


 事前にエイブラハムには面会の目的を伝えているので、既に彼が不機嫌な理由を分かっているクライムは、緊張で顔を強張らせつつ口を開いた。


「エヴァお嬢様との結婚のお許しを――」


 ドスッ――!


 たら……と冷や汗がひとつ。

 間一髪で避けたが、クライムの顔の真横にエイブラハムが投げた長剣が扉に突き刺さっていた。


「お前は認めないと伝えたはずだ。つまり答えは……”(ノー)”だ」


 エイブラハムが鬼の形相でクライムを睨みつけ、腹の底に響く怒気を含んだ声で返事をした。しかしクライムにとっては想定どおり。この程度で(おのの)き諦めていては認めてもらえないだろう。

 クライムは突き刺さった銀の長剣を引き抜くとエイブラハムの方へ投げた。


「では剣を交え、私が勝ったら認めて下さいますか? 旦那様は婚約者候補の最低条件として”エヴァ様を絶対的に守れる存在であること”だと仰りました。私以上に相応しい男がいましたか?」

「……言うようになったじゃねぇか」


 ニヤリと口元だけ笑うエイブラハムは自身の剣を拾い構えると、恐ろしい形相で睨みつける。けれどクライムは動じない。やっとエヴァと思いが通じ合ったからにはなんとしても引けないのだ。

 

 しばらくお互い無言で睨み合っていると、やがてエイブラハムが大きなため息を吐き出し剣を鞘に納めた。


「やめだやめだ。ここでお前と()り合っても部屋が破壊されて決着がつかんだろうしな」


 頭をボリボリかきながら先程までの殺気を引っ込め不愉快そうな顔に戻ったエイブラハムは、若干困惑気味で扉の前に立つクライムに再び目をやる。

 

(お前以上に相応しい男、ねぇ……んなもんいたらとっくに決まってたんだよ)


 苦々しく睨みつけながらもドカッと椅子に座り、クライムにも目の前の椅子に座れと命じた。


 あらゆる条件でエヴァの婚約者候補たちを厳選し己でも確認したが、魔物や吸血鬼に対する強さはクライムには到底及ばない者ばかりだった。彼と比べれば全てが並み以下。これでは安心して娘を任せられない。

 だからこそ必然的に彼女の行きたいという先々の護衛には必ずクライムを同行せざるを得なかった。


 人間という(くく)りの中では優秀な者が多い。領地経営として勉強熱心な者や、エヴァを心から愛してくれそうな者など、条件だけ見ればどれも素晴らしかったため、だからこそ候補としてあてがった。だがその全てを比べてもやはりクライムには敵わないだろう。

 何よりエヴァの気持ちが大切なのだ。全てがクライムより劣っていても愛せる人間が居ればよかったが、最初からクライムにしか眼中になさそうだった。エイブラハム自身が当初はそう望み二人を傍に置いたから当然なのだが――。

 唯一のデメリットはやはり……半吸血鬼(ダンピール)だということだ。


 エイブラハムは、正直否定してほしいが確認しなければいけない質問を口にする。


「……エヴァの血はもう、飲んだのか?」


 クライムは一瞬ビクッとしたかと思うと、まるで沙汰を待つ罪人のような顔になり目を伏せた。

 

 「――はい……」


 ゴッ――!!


 気付いたら思いきり頬を殴り飛ばしていた。その拍子にクライムは後ろの壁まで吹き飛ぶ。避けようと思えば避けられたはずだが甘んじて受け入れたらしいその姿勢には感心した。

 むくりと起き上がり顔を上げると左頬の腫れと傷が瞬く間に治っていく。その驚異的な回復力に思わずハッと鼻で笑った。

 

「便利な身体だなダンピールってのは。……まぁ、常にエヴァの傍で仕えるメアリーからの報告でもエヴァが貧血でふらふらになったという情報は一切なかった。お前は多少気を遣える理性は残っているらしい」

 

 嫌みも込めたが実際そのダンピールに助けられている手前、全てを否定は出来ないし彼の忍耐の強さは認めざるを得ない。とはいえ大事な娘に手を出されたようで、親としては怒りが湧くのも事実。


「本当ならお前の首と胴を真っ二つにしてやりたいところだが、それで万が一死なれても困るし何よりエヴァが悲しむ」


 そう言ってからスッと取り出したのは一つの手紙。


「お前と結婚したいというエヴァからの手紙だ」

「……!」


 クライムはエヴァも直談判していたことを知らなかったらしく、驚いた顔で手紙を見た。

 前日に届いたその手紙には、如何に彼を愛しているか、如何に彼が騎士として役に立てているか、エヴァを支えているかと長々(つづ)られていた。

 きちんと他の婚約者候補たちと接し話した上で結論した娘の覚悟。そして何よりクライム自身の力によって強さや人柄、覚悟をエイブラハムにしっかり伝えられた。

 やれやれ……と眉間にシワを寄せて再び不機嫌そうな顔に戻る。

 

「いいだろう。お前がエヴァと結婚することを許可してやる」

「! では――」

「ただし条件が一つ」


 ガタッと立ち上がり目の前の青年を見下ろすと、真っ直ぐ指を差し言い放った。


「お前の記憶が全て戻った上で、まだお互い同じ気持ちであるなら、だ」

「……記憶……」

「そうだ。完全に思い出してないんだろう?」


 クライムは素直に「はい」と返事をすると迷いのない顔でエイブラハムを見た。

 

「分かりました。必ず記憶を取り戻し、エヴァ様との結婚を認めて頂きます」

「それまでは節度を守って健全な付き合いを徹底しろ。いいな」

「お約束します。……ありがとうございます、団長」

 

 認めたとはいえ父親の気持ち的には全く面白くないので内心腹立たしい気持ちが渦巻く。

 心なしかいつもより嬉しそうな表情をする未来の義理息子を見て大きなため息を吐くと、腹いせにこの後吸血鬼討伐の任務に当たれと命じるが、初めてクライムが拒んだ。


「早くエヴァ様に逢いたいので。私が傍にいないと不安です」

「…………てめぇ……」


 早速惚けやがってと青筋を立てながら睨みつけるも、クライムを拾った時の人形のような様子に比べれば彼も随分表情豊かに人間らしくなったと感慨深くもなった。


「今後は伯爵家の婿として徹底的に勉強を叩き込んでやるから覚悟しておけよ」

「喜んで励ませて頂きます」


 苦々しい顔で言うエイブラハムに深々と礼をしたクライムは、未来の義理父に心からの笑顔を向けた。

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