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第18話:交錯する思惑

 ――王宮の夜会会場。


 今日はグランツ夏季休暇中、最後の夜会だ。


 オリヴァー王子から「せっかくだからザフィーアで参加しよう」と声がかかり、年少組も含めた全員が集まった。


「ペテル共和国の夜会では酷い目に遭ったからな。口直しみたいなものだ」


 オリヴァー王子はそう言って笑っていた。




 今夜は珍しくヒルデガルトも夜会に参加している。


 クラウディア王妃と並んで、マリオンたちを見守って談笑していた。



 マリオンたちザフィーアは固まって談笑していた。


「他国での夜会に比べたら、緊張感なんてまるでなくなりますわね」


 マーセル王子が大笑いした。


「お前たちは特に、命の危機だったからな。今日は安心して飲み食いすると良い」


 マリオンがちらりとスウェードを見る。年齢の割に体格の良いスウェードは、盛装すると見違えるほど立派に見えた。


「スウェード様って、地道にポイントを稼ぐタイプですわね」


 レナがそれを聞きつけて「あら、お兄様にも目があるのかしら?」とニヤニヤと聞いた。


 マリオンが微笑でそれに応える。


「大きな失点がなく、地道にポイントを稼ぐ方だと思いますわよ? 長期間かければ意中の相手を射止めることも不可能ではないのではないかしら?」


 スウェードは「そんな時間をかけていたら、マリオン様は奪われちまうよ」と苦笑をしていた。


 ヴァルターもビシッと黒いスーツに身を固め、背筋を伸ばして立っている。弱気な物腰はもう見られない。



 マリオンは、ぼーっと男子と談笑を続けるヴァルターを見つめていた。


 その背後からサンドラが苦々しい声で「惚れ直し、ですわね」と呟いたのを聞いて、マリオンは取り乱した。


「惚れ直しって! そもそも惚れてなんていませんわよ?!」


 サンドラが大きくため息を吐く。


「それだけ熱い視線を送っておいて自覚がおありにならないのは、ポンコツを通り越した何かですわね……」


 レナも会話に参加してきた。


「今の所、ヴァルター様と殿下たちが恋愛対象になってるから三つ巴ですけれど、ヴァルター様のリードが著しいですものね」


 ララもいつの間にか輪に加わっている。


「マリーの目から見て、今日のオリヴァー殿下とマーセル殿下はどう見えるの?」


 マリオンが困惑した顔で応える。


「どうって言われても困りますわ……」


 マリオンがしげしげと二人を眺めた。



 猫被りの温和な物腰を続けるオリヴァー王子はどこか儚げで、クラウディア王妃と似た空気を纏っている。


 だが仮にも第一王子だ。そのオーラはしっかりと周囲を支配するそれだ。



 いつも通りの横柄な態度のマーセル王子は力強く、フランツ国王と似た空気を纏っている。


 こちらも王族のオーラを醸し出しているが、オリヴァー王子に遠慮して少し弱い。



「うーん、いつも通り……いえ、マーセル殿下が少しパンチが弱いですわね。兄弟で同時に場に出てしまうと、兄であるオリヴァー殿下を立てようとする。そこは長所でもあり、短所でもありますわね」


 マーセル王子はオリヴァー王子に心酔しているような状態だ。ブラコンと言っても過言ではない。


 それを振り切って本来の魅力が発揮されれば、もっとずっと輝ける人間だ。



 マリオンの寸評を聞いたララたちは「なるほどね」と頷いていた。




 ザフィーアで固まっているせいか、他の人は中々近づいてこない。だが、中には意を決して王子たちにアプローチをしてくる令嬢も居た。


 彼女達は漏れなく、マリオンに敵意の眼差しを一瞬向ける。


 何組かの令嬢が立ち去った後、マリオンはぼそりと呟いた。


「どうして私がこんなに敵視されているのかしら……」


 困惑するマリオンに、アランがにこやかに教えた。


「既に社交界ではザフィーアは有名です。なんせ、殿下が自分で吹聴してますからね。そしてあなたとのゲームの事も知られてます――つまり、殿下との婚約を狙う令嬢たちにとって、あなたは目の上の瘤なんですよ」


 マリオンが驚愕して声を上げた。


「オリヴァー殿下なにしてんの?!」


「あなたと婚約するつもりの殿下たちにとって、言い寄ってくる他の令嬢ははえみたいなものですからね。鬱陶しかったのでしょう」


 春のようなさわやかな笑顔で、鋭利な言葉の刃を振り回すアランに、マリオンが乾いた笑いを浮かべる。



 マリオンがハッと気が付いてサイモンに尋ねた。


「もしかして、ザフィーアやゲームの事はグランツでも既に有名なのですか?」


 半笑いで頷くサイモンに、マリオンは軽い絶望を覚えた。


(もう、グランツで”男を弄ぶ悪女”と呼ばれるの確定じゃない……)


 既に社交界やグランツでは呼ばれている。


 手遅れ of 手遅れだ。


 そんな悪評が流れている侯爵令嬢に近寄ってくるまともな派閥は居ない。たとえそれがヒルデガルトの娘だとしても、だ。


 つまり、社交場にいるだけ無駄である。



(こういうときは……開き直りよね)


 マリオンは周りの視線は気にせずに、食事を口に運ぶことにした。





****


「今の所、オリヴァーもマーセルも健闘をしている方かしら?」


 クラウディアが楽しそうに語った。


「でもヴァルターに随分と心が傾いているみたいね。逆転できると思う?」


 ヒルデガルトが応えた。


 それに対しクラウディアが儚い微笑で応える。


「あら? 私があなたの親戚の座を逃すと思って? リッドやヴァルターには悪いけど、そこを譲る気はないわ」


「オリヴァー殿下もマーセル殿下も恋愛対象にはなってるみたいだけど、此処から逆転するのは難しそうよ? 秘策はあるの?」


「夏季休暇も終わってしまうし、今すぐは流石に無理ね。マリーの入学までに仕込むしかないわ」


「仕込むって……何を考えてるの?」


「それは後のお楽しみよ?」


 クラウディアはとても楽しそうに笑った。





****


 グランツの夏季休暇が終わり、サイモンは寄宿舎へ帰っていった。


 マリオンは平日の午前は古代魔法の鍛錬を行い、午後は現代魔術や『蜃気楼』の鍛錬を行っていた。



 マリオンが声を上げる。


「で、できました! お母様!」


 とうとう現れた自分の『蜃気楼』に感動して、指で触っていた――確かに、実物の感触がする!


「マリーの魔力制御難易度で『蜃気楼』を習得できるとは思わなかったわ……凄いわね……」


 ヒルデガルトもまじまじとマリオンの『蜃気楼』を見つめていた。


「実はですね、私用に術式をアレンジしたのです! 魔力が有り余っていて制御が難しいなら、魔力の増幅式を省略して難易度を下げれば良いのではないかと!」



 魔術の術式には、消耗を抑えるための増幅術式を挟むのが常識だ。


 ただし増幅術式の個数が増えるほど魔力制御の難易度は飛躍的に上がっていくので、いくらでも増幅できるわけではない。


 一つの増幅術式で増やせる魔力量もたかが知れてるので、高難易度の術式はあちこちに増幅術式が挟まっている。


 そしてマリオンはそれら増幅術式全てを省略した。有り余る魔力を生かした術式の組み立て方だ。



 ヒルデガルトが感心したように頷いていた。常識圏内の魔力を持つヒルデガルトでは思いつかなかった手だ。


「なるほど……確かにそれなら桁違いに難易度を抑えられる。でも、それで何分維持できるのかしら?」


「魔力残量を観察してみましょう!」



 そして一時間経過し二時間経過し、それでなお直立不動の蜃気楼は維持され続けていた。


「ねぇマリー、今の魔力残量はどれくらいかしら?」


「そうですねぇ……まだ全然減ってない気がします」


 マリオンたちはお茶を飲みながら観察を続けていた。マリオンの感覚的に二割も減っていない。


 直立不動型は最も魔力消耗が少ない。それでも二時間で二割も減ってしまった、とも言える。


 ヒルデガルトが小さくため息を吐いた。


「これなら、自律行動型を数体出しても、それなりの時間を維持できるかもわからないわね」


 もちろん、自律行動型は制御の難易度が更に高いので、マリオンにはまだ使えない。


 消耗も直立不動型の比ではないので、一時間維持するなども不可能だろう。


 せいぜい二体を五分間とか、そのくらいではないか、とマリオンは判断した。その判断は、おおよそ正しい。



 ヒルデガルトが真剣な眼差しで語りかけてきた。


「でもそんな無茶な魔力の使い方をしたら、いくらマリーでもあっという間に魔力が尽きてしまう。危険すぎるから、増幅術式を省略するのは極力避けなさい?」


「はい、お母様!」



 魔力の消耗が著しく激しいという事は、「危ない」と思って手を止めた時には既に手遅れ、という可能性が高まる事を意味する。


 マリオンの条件で増幅術式を省いたチキンランなど、狂気の沙汰を繰り返してきたヒルデガルトですら躊躇するレベルのものだ。


 魔力が尽きれば命の危険が伴いかねない。余裕がある時に余裕のある範囲で使うのが安全圏内だろう、というヒルデガルトの判断である。





****


 ――とある仄暗ほのぐらい一室。


 二人の人物が、ソファに向かい合って座っている。



「奴は役に立たなかったな」


 長衣を纏い、頭巾で頭を覆った人物が語った。


「期待に沿えず、済まなかったな」


 高級なスーツを身に纏った男が、ブランデーを片手に応えた。


「まぁいい。全くの無収穫だったわけではない。僅かに神の気配が検知できた。古代魔法を解読するには至らなかったが、あの娘は神と交信ができるはずだ」


 男に喜色が浮かぶ。


「伝承は本当だった、ということか」


「そういうことだ。あの娘にできて、何故私にできないのか。その謎が解ければ或いは、”私たち”も神と交信することができるかもしれん」


「それで? 次はどうするんだ。手は考えているのか?」


 頭巾の奥から笑い声が響いた。


「――焦るな。もう少し情報を探る必要がある。その為にお前に協力してもらわねばならないが、できるか?」


 男はゆったりと背もたれに身を預けた。


「できる範囲では手を尽くそう」


 男の返答に、頭巾の奥からまた笑いが響いた。



 男の野望は帝国の復活だった。その為ならば、その手をいくら血に染めようが構わない――そう思う男だった。





****


 ――四月。


 グランツ中央魔術学院の入試も無事突破したマリオンは、この春からグランツ中央魔術学院の生徒となる。


 ヒルデガルトも袖を通した、水仙を思わせる清楚な白い制服に袖を通す。


 サブリナに髪を整えてもらい、姿見を入念にチェックしている。


(――よし、ばっちりね!)


 精霊眼を見て見ぬ振りもだいぶ慣れたマリオンは、それ以外の容姿に問題がないことを確認した。


 この異物さえなければ、マリオンは心から自分が魅力的な淑女である、と胸を張っていた事だろう。


 残念ながら、異物に自慢の容姿が破壊された事で生まれた劣等感までは拭い去れていない。


 ヒルデガルトもそれを克服できたのは大人になってからだった。幼いマリオンには当分無理だろう。



「それじゃサブリナ、三年間だけ行ってくるわね!」


「はい、いってらっしゃいませ。マリオンお嬢様」



 マリオンはゆったりと優雅に部屋を出て、ダイニングに降りていく。


 家族と挨拶を交わし、朝食を済ませた後、共に玄関に出た。


 玄関前にマリオンが立ち、それを見送るように家族が並ぶ。



 ヒルデガルトが優しい微笑みで見送る。


「頑張ってねマリー。決して無理はしないで」

「はい、お母様!」



 ヴォルフガングも、いつもの人の好い笑みを浮かべていた。


「三年間みっちり、勉学に励むんだよ?」

「はい、お爺様!」



 ノルベルトは既に泣いていた。


「マリー! 今からでも寄宿を中止――」

「――ベルト? 見苦しいわよ?」

「行ってらっしゃいマリー。身体には気を付けるんだよ?」


 瞬殺、であった。


 泣いていた顔はキリっと引き締められ、さわやかな笑顔に変わっていた。


 マリオンはそれに苦笑を浮かべた後、満面の笑みで返事をする。


「はい、お父様! 行ってまいります!」



 マリオンの背後からサイモンが声をかける。


「おいマリー! そろそろ時間だ!」

「はーいサイ兄様、今行きます!」


 マリオンはゆったりと優雅に歩き、サイモンの手を借りて馬車に乗る。


 サイモンは今日この為だけに、寄宿舎から彼女を迎えに来ていた。


(相変わらずのシスコンぶりね。本当に婚期を逃さなければいいんだけど)



 馬車は侯爵邸を出発し、グランツを目指して走り出した。





****


 マリオンが馬車の中から興味深げに外を眺めている。


「うわ、話に聞いていた通りに凄い警備ですね……」


 グランツの周囲は王国軍が警備している。


 周囲を等間隔で兵士が並び、周辺を警邏の一群が何隊も歩き回る。


 マリオンの精霊眼で見る学院の敷地には、結界が幾重にも張られているのが解った。


 貼られている結界のほとんどは侵入者検知用だ。誤爆すると生徒も危険なので、無害なものが選択されている。


 サイモンが窘めるように口を開く。


「正式な門以外を使って出入りしようと思うなよ? 結界に検知されて、兵士たちだけじゃなく、母上も飛んでくるからな」


(何故お母様が直接出てくるのかしら……)



 馬車は正門をくぐり、脇に逸れて二つあるうちの、一方の寄宿舎の前に止まった。


「ようこそグランツ女子寄宿舎へ。あっちが男子寄宿舎だ。昼間のうちなら、窓口で生徒を呼び出してもらえる」


 そう言いながらサイモンは先に馬車から降り、マリオンの手を取った。彼女は、そのままゆったりと優雅に馬車から足を下ろす。


 マリオンは両足をついた瞬間、感慨に包まれていた――私の足が、ついにグランツの土を踏んだのだ。



 サイモンが女子寄宿舎の入り口を指さした。


「玄関にある窓口で名前を言えば、部屋を教えてくれる。荷物はもう運び込んであるはずだ。困ったことがあれば、いつでも俺の所に来い」


 マリオンが笑顔で応える。


「はい、わかりました! ありがとうございましたお兄様!」


 マリオンはサイモンにお辞儀をしてから、ゆったりと優雅に女子寄宿舎へ向かった――侯爵令嬢たるもの、常に優雅でなければならないのだ。どんなに気がはやろうとも、表に出したら高位貴族失格である。



 マリオンが窓口で名前を伝えると「あなたの部屋はこれに書いてある通りよ。食事は学生食堂を使って頂戴。休日も空いてるわ。相部屋の子と仲良くね」と言われ、地図を手渡された。


「はい、ありがとうございます。三年間、よろしくお願い致します」


 マリオンは微笑みながらお礼を伝え、地図を見ながら廊下を進んで行く。


 迷うことなく部屋に辿り着き、マリオンは扉の前で固唾を飲んだ――ここに三年間住むのだ。


(相部屋相手に恵まれますように!)


 マリオンの手がおそるおそるノックをする――返事はない。


 そっとノブを回し、マリオンが隙間から頭を差し込み、中を覗き込んだ。


「失礼しま――」


 突如ドアが開け放たれ、中から飛び出て来た子にマリオンは抱き着かれた。


(この感触は!)


「マリー! やっと来たわね! 待ってたのよ!」


「サニー! 相部屋はあなたとなの?!」


 サンドラは満面の笑みで頷いた。


「ええ、そうみたい! 私は一昨日入ったんだけど、ファルケンシュタイン侯爵家から荷物が届いたのを見てずっと待ち侘びてたのよ! ――やったわ! これで私の三年間の安眠が約束されたのよ!」


 逆に言えば、三年間マリオンの寝不足が約束された瞬間である。


 マリオンがげんなりと肩を落としていた。


「とにかく入った入った!」


 サンドラに背中を押されて、マリオンは室内に押し込まれた。


「ここがあなたの机で、横にクローゼットがあるわ。それが唯一の収納よ。お茶が飲みたかったら廊下に共用キッチンがあるから、そこでお湯を沸かすの。ベッドは私が上段を使っているけれど、あなたが使いたければ入れ替わっても構わないわ」


 マリオンは言われた順番に目を巡らしていく。


 彼女が思っていたよりは広い部屋だ。


 部屋の中央にはローテーブルが置いてあり、女子四人くらいなら座ってお茶が飲める程度の広さがある。


 マリオンは部屋を確認してから頷いて口を開いた。


「なるほど、それなりに暮らしやすそうな場所ね。ところで――なんなの? その格好」


 マリオンは眉をしかめてサンドラの全身を舐めるように見た。


 先ほどからサンドラは部屋着でマリオンと接していた。


 ノースリーブのシャツと膝丈ハーフパンツに素足。


 寄宿舎内は魔術で温度と湿度が調整されているので、快適空間そのものだ。寒くはないだろう。動きやすくもあるだろう。


 だが、とても貴族令嬢が身に纏う姿ではない。いわゆる”はしたない恰好”である。


「支給されてる、グランツ女子寄宿舎の部屋着よ? 迂闊に男子と会わないように、敢えてこういうデザインなんですって」


 確かに、貴族令嬢がこの姿で男子の前に姿を晒すのは相当な勇気が要るだろう。下着姿と変わらないと言って良いのだ。


 肌を晒すことを厭う貴族令嬢がする格好ではない。


 マリオンは未だに、複雑な表情でサンドラの服装を眺めている。


「まさかクラウディア王妃殿下も学生時代はこの格好だったのかしら」


 サンドラがにこやかに頷いた。


「そうらしいわよ? かつての最高責任者である、ヴォルフガング様が導入したそうよ。”その格好で男子と会えるものなら会ってみなさい”と言い放ったらしいわ」


(お爺様の考案だったーっ?!)


「あー! サニーの相部屋ってマリーだったの?!」


 部屋の入り口からレナが声をかけた。隣にはララが並んでいる。


 マリオンが振り向くと、レナとララが駆け寄ってきて手を取って喜び合った。


「三年間よろしくね!」

「私とララも相部屋だったのよ? 凄い偶然よね」


(……おや?)


 マリオンが異変を感じ、レナに尋ねる。


「ねぇレナ、ちょっと確認しておきたいんだけど、年少組男子の部屋割りは知ってる?」


 レナが得意満面でマリオンの質問に答える。


「もちろんよ! マーセル殿下とアラン様が相部屋、ヴァルター様とスウェード様が相部屋よ?」


(……お父様の仕業ね?!)



 ノルベルトは学院最高責任者である。


 その権限を行使して、寄宿舎の部屋割りに口を挟んだ。


 ノルベルトはマリオンの近しい場所に新しい男性が入ってくるのを嫌った。


 相部屋相手の兄弟がマリオンに近づいて親密になる事を、既存の女友達で埋めることで防いだのだ。


 レナやララ、男子たちも同じ意味で相部屋にされている。年少組の友人経由で知り合われても困るからだ。


 さらにサンドラの抱き枕癖を、ノルベルトは知っている。


 仮に親しい男子ができたとしても、夜間にこっそり抜け出して密会する事など、抱き着かれているマリオンには不可能だ。



(打てる手は打った、ということなのね……)


 マリオンは僅かに脱力しつつ、レナとララの姿にも目をやる――やはりサンドラと同じ部屋着だ。


「ねぇ、やっぱり私もその部屋着を着なければならないのかしら……」


 ララがにっこりと笑って「そういう規則だから、仕方ないわね」と語った。


 レナは「実はこの部屋着を使った女子寄宿舎伝統の奥義、なんてものもあるのよ?」とじったり笑った。


 マリオンは胡散臭いものを見る目でレナに尋ねた。


「伝統の奥義?」


「そう! 夜中の植物園に意中の男子を呼び出して、この格好で会うのよ。イチコロらしいわ!」


「とんでもない奥義ね?!」


 ヴォルフガングの想像を超えた、鋼の心臓を持つ貴族令嬢がかつて居た。女子の逞しさは男子の想像を時に超えるのだ。


 サンドラが「夜中の植物園はそういう場所だから、マリーは近づいちゃダメよ?」と釘を刺した。マリオンは大人しく頷いていた。


 マリオンが大きくため息を吐いて「みなさん逞しいのね……」と呟きながら、邸から持ってきた魔道具を部屋に置いた。


 サンドラがきょとんとして、それを眺めている。


「ねぇマリー、その魔道具はなに?」


「虫よけの魔道具よ。お父様にお願いして用意してもらったの。寄宿舎には悪い虫が出るのでしょう? お父様からも”悪い虫にはくれぐれも気を付けるんだよ”と言われてるし」


 一瞬、三人が呆気にとられた後、大爆笑した。


「あなたそれ、本気で言ってるの?!」

「さすが侯爵家の箱入り娘ね」

「大丈夫よ、私たちが守ってあげるから」


(??? でも、守ってもらえるなら安心、なのかな?)


 マリオンは意味が理解できていない。困惑した表情で曖昧に頷いていた。


 レナがまだ笑いを引きずりながら「これが男子七人を手玉に取る悪女だなんて、誰が思うかしらね」と言いながら部屋に戻っていった。


 ララも「じゃあ私たちも着替えてくるわね」と後を追っていった。


 マリオンは大人しくサンドラが着替え終わるのを眺めた後、四人が揃うのを待って居た。


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