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第二次日露戦争  作者: 畠山健一
9/25

「対馬の夜明け」作戦4

壊滅したロシア艦隊


 それは大勝利を実感する、素晴らしい夜明けになるはずだった。しかし、朝焼けに照らし出された光景は、破壊の凄まじさを物語っていた。

無数の残骸には、まだ炎が残っているものがあり、いたる所に黒こげの遺体や、その一部が漂っている。

 海自隊員たちは、彼らに特別の恨みがあるわけではない。戦争にも、勝利や敗北にも慣れていない海自隊員たちは、海に漂う彼らの苦難を想像し、ただショックを受けている。

「生存者を捜索して救助せよ。遺体は全て回収する」

 司令官は全艦に指示した。

「銃の携行を許可する。生存者は抵抗する可能性あり、注意するように」

 その時、イージス艦のレーダーは新たな脅威を探知していた。

「航空機多数接近中!」

「対空戦闘用意!」

 司令官はすかさず命令した。

「さあ、始まるぞ。あれだけの損害を受けたからには・・・連中、復讐で怒り狂っているかもしれない」

 既に戦争に足を踏み入れてしまっている。これは報復の連鎖の始まりにすぎなかった。

 だが敵艦隊はもういない。この敵機のみに集中すればよい。イージスシステムは本来の防空システムとしての本領が発揮できる。

 護衛艦隊の中には、既に敵機との戦闘を経験した「しらぬい」がいた。「しらぬい」の艦長は連続の任務に多少の不満はあったものの、北方の作戦の時よりはるかに楽に思えた。

「諸君、今度の敵は少し手ごわそうだ。百機近くが向かってくる。しかし慌てることはない。これほどのイージス艦を含む護衛艦が集中運用されたことはかつてなく、迎撃態勢は万全だ。それに・・・」

 艦長はちらっと窓の外に目をやった。波にもまれる救命いかだに多数のロシア兵がうずくまっている。

「敵の手の内も分かっている・・・」

 双眼鏡を覗く部下の一人が、救命いかだが発する光を認めた。

「艦長、発行信号です・・・救助求む・・・」

「戦闘配置が解除されるまで救助は無理だ。引き続き監視しろ」

「艦長、これは戦争で、彼らを捕虜として扱うのでしょうか?」

「全面戦争に等しいが、公式には戦争ではない。ウクライナと同じだ。彼らは捕虜として扱うが、公式には捕虜ではない」

 複雑な状況を悟った部下たちは、それ以上のことを聞かなかった。

「これは必然なのか・・・」

「しらぬい」の艦長はつぶやいた。

「だれがこの戦争を決めたのかしらないが、今しかないというタイミングだ。ロシアはクリミアやシリアで見せた戦いはもうできない。ウクライナ戦争の泥沼化でロシアは疲弊している。我々は戦力的に有利なうえ、国際世論を味方にできる。こんな機会は二度とないかもしれない・・・」

 レーダー員は無数の発光点を認めた。

「対艦ミサイル多数!接近してきます」

 艦長は構わず独り言のようにつぶやいている。

「いつぞや、ロシアとの戦争を口にしてひんしゅくを買った議員がいたが、今ならどうかな?戦争がいいとは思わないが・・・大義があり、しかも確実に勝てるときは別だ」

「艦長、『みょうこう』データリンクより迎撃指示です」

 通信員が報告する。「しらぬい」が所属する第三護衛隊群はミサイル迎撃態勢に入った。

「しらぬい」は北方での戦闘のときと違って、艦隊の指揮下のもとに防御、攻撃の役割を担う。責任は少し軽減するが、艦長には気がかりな点があった。

「生存者の救出が中断するのはやむを得ない。それにしても全艦撃沈とは・・・潜水艦隊の連中、容赦しなかったらしい」

「まや」の艦橋ではロシア航空機による攻撃についての分析がされていた。

「司令官、敵機はミサイル発射後も更に接近中です」

 艦長は接近する無数のミサイルに既にうろたえている。

「これは飽和攻撃です。我々が迎撃に忙殺される間に、第二波を撃ってくる!」

「第三護衛隊群が迎撃ミサイル発射しました!」

 レーダー員はイージスシステムに基づく各艦の迎撃行動を逐一報告している。

「敵は第一波のミサイルの効果を確かめようとするだろう。第二波の目標を定めるために」

 司令官は解説するかのように艦長へ言った。

「見たまえ。イージスシステムは目的の異なる対空ミサイルを同時に発射しようとしている。」

 全艦より一斉に膨大な数のミサイルが発射された。あるものは敵のミサイルに向かい、あるものは敵航空機に向けられた。

 第三護衛隊群の迎撃ミサイルは、接近する先頭集団の対艦ミサイルを破壊した。

 続けて発射された主力の護衛隊群のミサイルはロシアの対艦ミサイルとすれ違い、ロシアの戦闘爆撃機に向っている。

 慌てたロシア空軍機は必死の回避を試みている。フレアーをばらまき、ミサイルを撹乱しようとしたが、ミサイルはこの囮に騙されない。

 各機にロックオンされたミサイルはロシア機に激突するまで追い続ける。その前にパラシュート脱出するパイロットもいた。

 一方、ロシアの対艦ミサイルは迎撃ミサイルで大部分が撃墜されていたが、十数発はそれを突破し、護衛艦隊に向っている。

 ミサイル撹乱を狙ったデコイが各艦から打ち上げられた。突破した一部のミサイルは20mmバルカン砲で撃ち落とされた。

 撹乱され、目標を失った一発のミサイルは、ロシア兵の避難していた救命いかだを吹き飛ばした。

「せっかく助かったのに、かわいそうな連中だ」

 指令官は双眼鏡で眺めながら呟いた。

「接近するミサイルはありません」

 レーダー員が報告した。

「艦隊に被害なし!」

「敵機の動きは?」

「分散して退避していきます」

「撃墜した敵機の数は?」

「推定56機です」

「おそらく寄せ集めの古い機種による一斉攻撃だろう。北東から近づくこの反応は何だ?」

「空自のF-15です」

「今頃きたか。空の警戒は彼らに任せよう。ともかく、敵はもう来ない。救助活動を再開する」

 全艦による救助活動および捜索活動が再開された。

「しらぬい」の乗組員は、吹き飛ばされた救命いかだの残骸を呆然と眺めるだけだった。


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