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第二次日露戦争  作者: 畠山健一
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「対馬の夜明け」作戦3

燃え上がる対馬海峡


 イージス艦「まや」に一隻の護衛艦が接近し、発行信号を送った。

「見ろ、『しらぬい』だ。間に合ったようだな」

 双眼鏡を覗いていた司令官は、任務を成し遂げた「しらぬい」を頼もしく思った。

「明らかに彼らは超過勤務だ。これが終わったら休暇を与えたい。作戦における一切の他言を禁ずる条件でな」

「全く同感です」

「まや」艦長にも異論はなかった。

 艦長が読み上げた司令官の通達は、すでに海自隊員たちに告げられていた。艦長はある一文が気になって、頭から離れなかった。

「司令官、先ほどの訓示は隊員の士気を高めたと思います。ただ、『一兵たりとも失わない』とはいかがなものでしょう?犠牲を覚悟することも必要と思いますが」

「私が敵を見くびっていると思うかね?」

「いえ、我々はロシアの動きを把握し、備えておりますので、有利な状況であるとは思います。しかし全く無傷で済むとは思えません」

「私は物事を悲観的に考える性質でね。だがこの作戦はそんなものが入り込む余地は全くない。むしろくだらん事故で犠牲者がでないか心配している。血気にはやり、冷静さを失わないことを願っている」

 既に護衛艦隊は暗闇の中にいた。対馬海峡北東270海里の位置で扇状に展開し、ロシア艦隊を待ち構えている。

 北上するロシア太平洋艦隊は、暗闇の対馬海峡を20ノットで駆け抜けようとしている。

 まさに海峡を越えたその時、ロシア艦隊はイージス艦の高性能レーダーに捕らえられた。

「現れました!ロシア太平洋艦隊です!」

 レーダー員の緊張した声が沈黙を破った。

 イージス艦は自らの装備する対艦ミサイルを含め、配下の護衛艦の攻撃目標を敵艦全てに割り当てた。

 各艦より目標を定めたミサイル発射準備完了の報告が届いた。あとは艦隊司令官の発射許可を待つだけだった。

 しかし司令官はその前にやるべきことがあった。

「ロシア艦隊へ丁重に無線で警告する・・・貴艦の対馬海峡西水道における無害通航権は認められない。侵略行為をやめ、領海からの退去を要求する」

 通信員は内容通り、国際VHF無線を使って英語で呼びかけた。 

 司令官はしばらく待って通信員へ言った。

「返信は?」

「ありません」

「記録はとっているか?」

「はい」

 司令官は艦長の緊張した顔を見て頷いた。来るべき時がきた合図だった。

「全艦ミサイル発射せよ!」

 時刻は午前二時を回っていた。暗闇の空へ対艦ミサイルが次々と発射された。二百発を超える火の玉は時速千キロの速さで南西の空へ消えていった。

 同じ頃、ロシア太平洋艦隊旗艦、ミサイル巡洋艦「ヴァリャーク」は随行する駆逐艦から緊急警報を受けた。それはミサイルではなく、魚雷の接近を示すものだった。

 ウダロイ級駆逐艦は魚雷の追尾をかわす為、囮の物体を海中へ放った。しかし高性能魚雷は囮に騙されることなく、駆逐艦を追っている。

 海自のそうりゅう型潜水艦の集団は合計50発の魚雷を発射していた。駆逐艦はそれぞれ全速で急旋回し、必死の回避を試みている。

 凄まじい爆音とともに、あちこちで水柱が上がった。第一波の魚雷は目標を追い続けている。

 太平洋艦隊旗艦の「ヴァリャーク」は二発の命中弾を受け、急激に傾いている。海自の潜水艦隊は護衛艦隊よりずっと手前で、海中で待ち伏せていた。護衛艦隊がこの光景を見たら、自分たちの目標がなくなりはしないか、心配したかもしれない。

 ロシア艦隊の混乱ぶりは頂点に達している。魚雷に加え、200発を超えるミサイルの接近が探知された。

 ロシアの迎撃システムは、これらの波状攻撃に追いつけなかった。暗闇の中、ロシア艦隊は魚雷から逃げ回り、頭上から降ってくるミサイルの雨をまともに食らった。

 いたる所で閃光が発せられ、同時に発生する炎が、破壊される艦影をくっきり浮かびあがらせた。

 ロシアに反撃のチャンスはなかった。魚雷は主力艦に致命傷を与え、対艦ミサイルがそのとどめを刺した。艦船は次々と海中へ消え、破壊すべき目標を失ったかなりのミサイルが空中をさまよっていた。

 海自のレーダーから、全ての反応が消えていった。イージス艦「まや」の海自隊員たちは、その光景が信じられなかった。

「全て消えました。非常に弱い反応がありますが、恐らく漂流物と思われます」

 レーダー員の報告に艦長は耳を疑った。

「何だって?最初に捕らえたのはいくつだ?」

「34隻です」

「全部沈めたというのか?」

 艦長は口を開けたまま、司令官の顔を覗き込んだ。

 司令官は冥福を祈るかのように目を閉じている。その目が開いた時、自分に言い聞かせるように呟いていた。

「過剰な攻撃だった・・・潜水艦を動員せずとも勝てたかもしれない。しかし我々は反撃を許すわけにはいかなかった。一兵たりとも失ってはならんのだ」

 艦橋は静まり返っていた。彼らは、今まさに本物の戦争の中にいる。そして、彼らは全く損害を受けることなく、大勝利をおさめたはずである。

 しかし歓声は全く沸かない。次々と消えていくレーダーの発光点の向こう側で実際に何が起きたのか?彼らには想像もできなかった。

「対馬海峡へ向かって前進する。警戒を怠るな」

 司令官は命令した。そしてついでのように付け加えた。

「夜明けまでには沈没地点に到着する」


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