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第二次日露戦争  作者: 畠山健一
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「対馬の夜明け」作戦1

「対馬の夜明け」作戦の全貌


 護衛艦「しらぬい」は依然として択捉島沖の領海付近を漂流していた。艦橋では艦長が部下たちと深刻な顔で向き合っている。

「我々はフリゲート艦を1隻沈め、1隻に損害を与えた。多くの水兵が海に投げ出されたのを諸君も見ただろう。多くは救助されただろうが、死傷者が出たのは確実だ。ただ、君たちは任務を遂行しただけであり、何も恥じることはない」

 部下の一人が恐る恐る尋ねた。

「艦長は、特別作戦の一部と言われました。今、我々はロシアの領海に侵入していると思いますが・・・」

「北方四島はわが国固有の領土であり、領海侵犯には当たらない。政府はロシアの排他的経済水域などといい、我が国の弱腰な姿勢をあえて演出している」

「演出ですか?」

 部下たちにはその意味が理解できていない。

「そう、我々はなめられっぱなしの弱小国家であり、我慢して耐え続けてきた。今まではそうだった・・・だが流れは変わりつつある。耐えられなくなった国民の怒りが爆発し、叫び始めるだろう・・・そろそろやり返せ!とな」

「我々の反撃を国民に支持してもらう為ですか?」

「大事なのは世論だ。とんでもない不条理な悪党のふるまいに人々の正義感は燃え上がり、大きな怒りの力がひとつの方向に向かって団結する・・・」

 その時、レーダー員は青ざめた顔で叫んだ。

「北東より航空機接近中!低空を500ノットで向かってきます!距離120キロ!」

「Su-35戦闘機だ・・・対艦ミサイルがくるぞ」

 艦長は択捉島の飛行場に数機のロシア軍戦闘機が配備されていることを知っていた。

「ミサイル発射した模様です!航空機は反転しました」

 突如出現した航空機の機影は、まもなくレーダーから消えた。代わりに二つの飛行物体が向かってくるのが確認できた。

「AS-20、ロシア版ハープーンミサイルです!」

「落ち着いて訓練通りにやれ。ECMおよびデコイシステムの効果を試す。近接防御システムは最後の手段だ」

 ミサイルはレーダーで目標を捕らえ、追尾する。対抗する手段として、妨害電波の照射や囮の物体を発射して撹乱させる。それでも突破されたら20mmバルカン砲で直接迎撃する。

 一発目は目標を見失い、完全に方向が逸れていった。

 二発目は囮を追いかけているところをレーダー追尾のバルカン砲が撃ち落とした。

 ロシア戦闘機はそれっきり姿を現さなかった。「しらぬい」の対空ミサイル射程圏内の中を単独で攻撃する勇気はなかったようだ。

「しらぬい」の艦橋の緊張は解け、落ち着きを取り戻した。

「諸君、よくやった。とんだ邪魔者が入ったが・・・話はどこだったかな?」

「不条理な悪党のふるまいに・・・怒りで団結し・・・のところかと・・・」

「そう、その悪党を懲らしめる作戦を今から説明しよう」

 艦長はオホーツク海の海図が映し出されているひとつのモニターを指し示した。

「択捉島のロシアの主張する領海へ我々は進出した。これは作戦名『対馬の夜明け』の第一段階である。我々はロシアの攻撃を受け反撃した。これは予定の行動であり、我々は機関の損傷を装い、この海域に居座っている」

 次にウラジオストクの衛星写真が映し出された。

「我々を捕らえるか沈める為にフリゲート艦が出港し、ウラジオストクから太平洋艦隊の全てがいなくなった。その隙をついてわが護衛艦隊が進出する。我々は港を制圧することはできないが、地対艦ミサイルの射程外まで展開し、港を封鎖するかのように振る舞う。ウラジオストク、ナホトカといった主要港からサハリン、北方四島への輸送海路は遮断されるかもしれない・・・ロシアはその危険性に必ず気付く」

 最後に映し出されたのは、ロシア太平洋艦隊主力の艦船リストだった。

「その危機に対処するには、黒海へ向かっている太平洋艦隊を呼び戻すしかない。ロシアの艦隊は反転し、全速でウラジオストクへ向かう。最短距離で、狭い海峡を通ってくる。我々海自は総力を挙げてこの主力艦隊を迎え撃つ!そしてサハリンから北方四島に至る制海権を確保する」

 艦橋にいた隊員たちは、あまりに大規模な軍事作戦に息をのんだ。そして気さくな艦長のいつものジョークであることを願った。

「冗談を言ってるのではない。作戦が実行されるのは勝算あってのことだ。ウクライナの実戦の貴重なデータは、ロシアの実力と、彼らに勝つ方法を我々に教えてくれた。そしてこの戦いの意義は、我が国を守るのみにとどまらない。ウクライナ戦争の早期終結に一役買い、世界の平和と安定に寄与する崇高なる作戦と心得よ」

 静まりかえった艦橋の中で、通信手が一片の紙片を艦長に手渡した。艦長はそれを握りつぶし、最後に付け加えた。

「予定通りだ。ロシア太平洋艦隊は反転し、全速で戻ってくる。我々の陽動作戦は終わった。我々はこれより対馬海峡へ向う」


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