表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第二次日露戦争  作者: 畠山健一
4/25

普通の国家の自衛戦争4

世論育成ステージ


 この事件について、双方の政府はほぼ同時に公表するとともに、お互いを激しく非難した。

 日本政府は、護衛艦「しらぬい」は択捉島沖の排他的経済水域を航行中、突如一方的な攻撃を受けたと主張した。

 しかし日本側の反撃でロシア艦艇に打撃を与えたことには触れなかった。

 一方のロシア側は、日本の軍艦がロシアの領海を侵犯した上、警告を無視し続け、最低限の武力行使に踏み切ったと述べた。ただ、ロシア艦艇の被害には全く触れなかった。

 日本政府は「しらぬい」の炎上する映像を公開した。「しらぬい」がこの海域を航行していた理由について、遭難した漁船の捜索のためと説明した。この点は事件の発端の重要な要素であったが、特に疑問は提起されなかった。

 公表された映像は衝撃的だった。

 日本側はなすすべもなく、一方的にやられっぱなしである印象を国民に与えた。マスコミと野党は、自衛隊のふがいなさを非難した。

「800億円もする護衛艦はその能力を何ら行使できず、炎上して海上を漂っている。自衛隊の全ての船が、こんなにも無力なのか?」

 左派系メディアでさえ、自衛隊の防衛能力に疑問を投げかけた。反撃しなかったことで、戦争への拡大を防いだとも受け取れるが、誰もそれを評価しなかった。

 ロシアのウクライナ侵攻以来、もはや外交で戦争を防ぐのは幻想であり、いかにしてこのならず者国家から身を守るかが焦点となっていた。

 護衛艦「しらぬい」はロシアのフリゲート艦一隻を撃沈し、さらにもう一隻を大破させたはずである。日本とロシア双方がそれぞれの理由でこの事実を公表しなかった。

 日本とロシアが戦後初めて戦火を交えたことになるが、双方が申し合わせたかのように、事態の鎮静化に努めていた。

 日本側にとっては、国民の意識がそれを受け入れる準備ができていない。依然として戦争への拒否反応は根強く、世論の動向を慎重に見極める必要がある。

 一方のロシアにとって、フリゲート艦の喪失は敗北であり、国民に軍の失態を広める訳にはいかない。ロシアはメディアをコントロールし、不都合な情報を隠すことができる。

 それはロシアの悪しき伝統といってもよい。

 しかし、自軍の損害は隠したものの、日本への怒りは抑えきれなかった。

「領海侵犯の軍艦を、我々は国際法にのっとり、拿捕若しくは撃沈する権利をもっている。日本側の態度によっては、我々は強硬手段を取らざるを得ない」

 ロシア報道官の発表に、日本政府は直ちに反論した。

「領海侵犯は事実無根である。一方的に我が国の船舶に危害を加え、地域の緊張を高める行為は大変遺憾であり、厳重に抗議する」

 この日本政府の発表は、多くの国民から怒りを買った。

「助けに行かないのか?」

「抗議を叫ぶことしか能がない。弱腰にも程がある」

 領海侵犯の真偽は議論にも上がらなかった。ロシアは既に国際的に信用を失っており、その発表がまともに受け入れられることは少なかった。

「このならず者国家が、とうとう日本にも牙を向け始めた」

 不条理なロシアへの恐怖と不安、そして弱腰な日本政府へ怒りの世論が沸き上がった。

 日本政府は発表しなかったが、既に5隻の護衛艦が現地に急行していた。

 ロシアは海自の動きを察知し、慌てたようにウラジオストクから5隻のフリゲート艦が出港した。

 しかしそれは択捉島沖で失ったフリゲート艦と同じ1,000トンクラスで、それが太平洋艦隊の残存戦力の全てだった。

 隻数は同じ5隻でも、総トン数は日本側がロシアの5倍あった。しかも日本側はさらに40隻以上の護衛艦を保有している。

 最初は身の程知らずの海自に腹を立てたロシアだったが、日本側の意図に疑いを持ち始めた。

「択捉島沖を漂流する日本の軍艦は本当に動けないのか?救助を口実に、この海域に進出するつもりでは?」

そして極東の防備が全く不十分である現実に気付いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 朝日新聞や毎日新聞ならそうなりそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ