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第二次日露戦争  作者: 畠山健一
18/25

樺太攻略作戦3

 見えざる内部の敵


 北方四島は我が国固有の領土である・・・この点は国民世論をはじめ、国内の与野党政治勢力に至るまでコンセンサスが得られている方向性である。しかし樺太は?

 1945年まで、樺太の南半分は日本領だった。1905年の日露戦争で奪い取ったのか?1875年の樺太・千島交換条約で、千島列島18島を日本が得る代わりに、樺太全島をロシアに譲渡している。

 その前は1855年の日露和親条約で樺太は日露混住の地とされている。元々現地住民のアイヌ民族と日本人との交流は古代まで遡る。鎌倉時代以降は幕府の管轄下にあった。

 ロシアの関与といえば、江戸幕府のときのロシア海軍によるアイヌ人と現地進出の日本人への襲撃事件以降である。

 事実上日本領ともいえる樺太は、ロシア帝国の力を背景にした進出と日本側との交渉の中で国境線が定められてきた。しかし1945年、ロシアは樺太と千島列島全てを奪い取ってしまった。北海道までも狙われていたのだ。

「過去の歴史を考えたとき、樺太南半分と北方四島を我が国の領土として国境線を定めるのが自然と考えます。しかしながらロシアが一方的にその全てを占拠してきた事実と、最近のヨーロッパにおけるロシアの覇権主義に基づく侵略行為、その影響による世界的なエネルギー危機を鑑み、樺太を国際社会の共同管理とする構想の下に、我が国の防衛力を国際貢献の為に行使する決断に至った次第です」

 国会の代表質問に対し、総理大臣が答弁した。三万人もの陸自隊員をサハリンへ上陸させた理由の問いかけに対する答えだった。

「総理はこれまで北方四島は我が国固有の領土であると、繰り返し主張されてきましたが、サハリンへの上陸が先に行われた今、北方四島に対する我が国の立場を明確にし、政策を明らかにして頂きたい」

「ロシアから見れば北方四島はサハリン州の一部であり、政治的・軍事的にサハリンで統括しています。この度の上陸は北方四島返還目的の一部とご理解頂きたい。北方海域の海上輸送路は現在我が国の管理下にあり、現地が軍事的脅威にならないよう監視を続けています。その上で、平和的な返還に向け、現地へ働きかけを行っているところであります」

「ロシアの住民をどう扱われるのか?」

「この地域の権利を持つ日本人との調整も必要ですが、基本的には永住権を与えたいと考えております。その為にも現地のロシア軍には一刻も早く、武装解除に応じて頂きたいと伝えています」

 野党代表はロシアと交戦状態になった経緯について追求した。

「ロシアとの防衛戦が始まったのは、北方海域における護衛艦への不当な攻撃が発端である・・・この認識で間違いないですか?」

「海上自衛隊の護衛艦が、排他的経済水域においてロシア海軍から攻撃を受け、大きく損傷したことは映像記録にも残っています。応戦したのは正当防衛であり、護衛艦の対応に何ら落ち度はなかったと報告を受けております」

「我が党が独自に入手した情報によると、護衛艦『しらぬい』は択捉島への異常な接近でロシア海軍を挑発しています。確かに発砲による被害は受けましたが、反撃して一隻を撃沈する等、明らかな過剰防衛がありました。そもそもロシアとの軍事衝突を画策した計略の疑いがありますが、その点の見解をお聞かせ頂きたい」

「政府としてそのような意図的な行為は一切ありません。仮にそのようなことが起きていた場合、それは決して許されることではないと認識しております」


 北部方面総監部ではサハリン作戦の進捗が逐一報告されている。

「第六八軍の司令部を包囲しました。小規模ですが守備隊が強く抵抗し、ここは容易に降伏しないでしょう」

 陸上幕僚長が暗い顔で報告した。元々陸自の弾薬ストックは十分とは言えず、戦いが長引くほど不利になる。

「主力部隊は引き離され、くぎ付けのままです。敵の動きを封じ、その間に無防備な主要施設を確保しなくてはなりません。今は無用な戦闘を避けるべきです」

 呉海自幕僚長は相変わらず無血占領が最優先と考えている。

「しかし第六十八軍もこのままじっとしていないでしょう。橋を修復するでしょうし、他の抜け道を探すかもしれません。敵が身動きできない今が打撃を与えるチャンスでは?多連装ロケット砲や榴弾砲での攻撃を主張する者もいます」

「それこそ弾薬の無駄遣いです。完全包囲こそ勝利への道です・・・」

 いつの間にか作戦室の入口に、数名の警務隊員が立っている。隊長が陸上幕僚長に近づき、耳打ちした。

「何だって?本当か?」

 陸上幕僚長は唖然とするばかりだ。警務隊長は呉海自幕僚長の前で敬礼した。

「あなたに逮捕命令が出ています。外に車を待たせていますのでご足労願います」

 その場が凍り付いたようだった。作戦の指揮を執っていた「呉の軍師」こと、呉海自幕僚長への突然の逮捕宣告である。 

 航空幕僚長は警務隊長を睨みつけて怒鳴った。

「お前、何を言っている!誰の命令だ!」

 呉海自幕僚長はそれを遮るように手を挙げた。

「先手を打たれたようです。我々より上からの命令でしょう」

 警務隊長はじっと頭を下げている。その顔を覗き込むように呉海自幕僚長は尋ねた。

「で、何の容疑かな?」

「択捉島沖交戦における越権行為です」

 それはロシアとの戦争の発端となった、護衛艦「しらぬい」とロシア海軍フリゲート艦との武力衝突事件を意味していた。

「あの護衛艦は呉の指揮下でなかったと思うが」

 陸上幕僚長は思い出したように口をはさんだ。

「いえ、私はその護衛艦と連絡を取り合っていました。それが逮捕の理由でしょう・・・申し訳ないが後をよろしくお願いします」

「よろしくと言われても、あなたが不在では話にならない」

 呉の軍師は何も言わず、敬礼して警務隊長とともに作戦室を後にした。

「一体どうなっているんだ・・・」

 航空幕僚長は苛立ったように呟いた。

「防衛省に確認をとりましょう」

 陸上幕僚長は慌ただしく部屋を出ていった。


 陸自車両の三菱パジェロは札幌から千歳へ向かっていた。後部座席に呉海自幕僚長が座っている。助手席の警務隊長が振り向いて言った。

「千歳飛行場までお送りします。そこから空自の警務隊に引き継ぎます」

「君は私の逮捕容疑をどこまで知っている?」

「先ほど申し上げたことが全てです。あとは何も聞かされていません」

「では君に打ち明けよう。択捉島沖の武力衝突事件は、周到に準備されたハイレベルの極秘軍事作戦だ。政府中枢の一部の者しか知らない。CIAの支援もあった。私は実行部隊の中心人物だ」

 警務隊長は背筋がゾッとするのを覚えた。

「自分は尋問する立場ではありません・・・」

 呉の軍師は構わず続けた。

「事態を複雑にしたのは、上層部にロシアと内通している者がいたことだ。CIAも、私もそれを知っている。その者は正体が知られたことに気付いたようだ。身の危険を感じたスパイは捨て身の行動に出た。君に命じて私を引きずり出し、択捉島沖事件の事を追求するつもりか、あるいは・・・」

 警務隊長は我慢しきれず、話を遮った。

「なぜ自分にそんなことを話すんです!命令はあなたを空港に送り届けるだけです」

 呉海自幕僚長は窓から上空を見上げた。

「あのヘリは護衛かね?ずっとついてくるようだが」

 警務隊長も低空で追ってくるヘリに気付いた。

「そんなはずはありません」

「なぜ君に話したのか・・・私はもはや双方の勢力から口封じに命を狙われる立場になった。君も巻き添えを食うかもしれない。何も知らないまま命を落とすのが不憫に思ったからだ」

 武装ヘリは急接近してきた・・・


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